『耳をすませば』~『BLUE GIANT』に至るアニメ演奏描写の変遷 手描き、ロトスコープ、モーションキャプチャが与える効果の違い

CGの登場でさらに多彩な演出が可能に

 アニメの演奏シーンは、3DCGの登場によって劇的に変化を迎えた。楽器のような複雑な形状をしたものを3DCGによって作れるようになり、手描きの作画と合わせるという手法も生まれた。2019年の『キャロル&チューズデイ』などはこのやり方を採用している。

「キャロル&チューズデイ」Story of Miracle Vol.2

 近年では、モーションキャプチャの導入が進んでおり、演奏パートのような複雑かつ精密な描写を求められるシーンで用いられるケースが増加している。

 モーションキャプチャの使用の仕方も各作品で様々だ。CG映像を完成映像に用いるタイプもあれば、作画のための下敷きにするという場合もある。

 2018年の『ピアノの森』では、ピアノの演奏シーンは3DCGによるモーションキャプチャを完成映像に使用している。プロのピアニストを目指す者たちの物語だから、運指も本格的無ければ説得力がないと考えたのだろう。

 モーションキャプチャによる演奏シーンが優れている例として挙げられるのは『バンドリ!』シリーズだ。セルルックの3DCG作品である本作は、ゲーム内PVにもアニメ本編にもモーションキャプチャによる演奏場面がふんだんに登場する。本シリーズの監督を務めた柿本広大氏は「(モーション)アクターさんの演技を活かし尽くす」ことを前提にしていると語っており、まずデータ収録の段階でキャラクターの芝居作りのトライアンドエラーを行っている。(※4)

 しかし、3DCGは手描きのシーンとの差異が気になる時がある。『バンドリ!』はフル3DCG作品であることもあってその違和感を克服していたが、『ピアノの森』は作画とCGの差が目立っていた。

 近年ではモーションキャプチャのデータを下敷きに、手描きの作画をする手法も出てきている。2022年『ぼっち・ざ・ろっく!』の演奏シーンにこのやり方が採用されている。(※5)

 モーションキャプチャの利点は、リアルな動きをテータ化できるだけでなく、仮想カメラを自由に動かせる点にある。実写の撮影データはアングルを変更することはできないが、3DCGの仮想カメラなら、アングルの変更もカメラワークも自在に作れるので、実際の演奏芝居を観た上でレイアウトを検討できるメリットがある。

演奏者の内側に入り込む『BLUE GIANT』

 『BLUE GIANT』には、ここで紹介したあらゆる手法が取り入れられている。エンドクレジットを確認すると、アナログのロトスコープもあれば、モーションキャプチャーの3DCGもあることが分かる。

 本作は3DCGのカットが手描きの作画と馴染んでいない印象を受けるが、それを補ってあまりある描写の工夫でカバーしていると言える。

 まず大胆なアングルが目を引く。このあおりカットは、主人公の宮本大がどれだけ威風堂々と自信を持って演奏しているかを見事に表現している。

 手法面での工夫以上に、本作は観客を演奏者の内面に引きずり込むような演出が特徴的だ。「内臓をひっくり返す」というセリフが作中に出てくるが、本作の演奏シーンはその言葉を反映するかのように、カメラが演奏者の内側に入り込んでいく。時に、サックスの口から中に入り込んだり、カメラが演奏者を回り込むようにスイングしたりと、音楽を奏でる人間の感情そのものを観客にダイレクトに届けるような試みがなされる。

 さらには、音と映像をシンクロさせるかのように、大のサックスの音が会場に伸びるのに合わせてカメラが会場全体へとトラックバックし、音の広がりをカメラワークで表現するなど、とにかく演出の手札が抱負だ。

 演奏をリアルに見せるだけではなく、演奏者が「ゾーン」に入った時、彼らの内側でどんな化学反応が起きているのかを体感させることを重視した映像と言える。まるで原初的な音楽の衝動を直接浴びるかのような体験が新鮮で、音楽家の情念を映像に定着させようと試みた作品と言うべきだろう。音楽と映像は、言葉にならない感性を伝えることができるものだと本作は証明したと言える。

 音楽はアニメ産業のビジネスとしても重要で、映画においては劇場体験の創出という点で極めて重要なものとなっている。今後もアニメの中で音楽は重要であり続けるだろうし、その中で新たな表現が模索されることだろう。

※1 http://wakusei2nd.com/archives/series/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E5%AF%9B%E7%9B%A3%E7%9D%A3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%80%8C%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%A0%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%93%E3%81%9D%E8%AA%9E%E3%82%8B%E3%81%B9-2
※2 https://twitter.com/twilight_yutaka/status/1158844831214362624
※3 https://www.oricon.co.jp/news/2008951/full/
※4 https://realsound.jp/tech/2019/07/post-384814.html
※5 https://febri.jp/topics/btl_live_1/

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