カバー株式会社CEO 谷郷元昭、バーチャルタレントに求められる資質 個々の“やりたい”を伸ばすホロライブの徹底したサポート力

タレントが持つ様々なスキルで戦えることがVTuberの強み

ーー今年の開催に向けては、どんなことに注目してほしいですか?

音楽担当:『hololive SUPER EXPO』については、前回以上にコンテンツのボリュームがアップしているように感じます。見るもの、展示されているもの、体験していただくものが増え、より楽しんでいただける場所になっていると思います。また、今年は有料コンテンツを含む特設ステージもより充実していると思いますし、隣の会場で開催されている『hololive fes.』を、『hololive SUPER EXPO』の会場で副音声的なコメンタリーとともにライブビューイングできる機会も用意しています。こちらも今年の新しい試みですね。

 一方、『hololive fes.』については、去年確立できた「生バンドでのARライブ」を今年も大切にしていますし、新たにDECO*27さんとのコラボステージ『holo*27ステージ』も開催します。これまでのフェスはタレントが自分のオリジナル曲やカバー曲を歌うライブのみでしたが、今回はそこにDECO*27さんとのステージが加わり、そのステージのために制作されたオリジナル曲などが披露されます。こうした新しいチャレンジが、来場してくださるみなさんにとっても新しい体験価値を生んでくれるのではないかと期待しています。

ーー『hololive 4th Fes. Our Bright Parade』というタイトルに込めた意味も教えてください。

音楽担当:「Our Bright Parade」の「Parade」の部分には、「ファンのみなさんと一緒に進んでいきたい」という気持ちが込められています。みなさんがいつホロライブのファンになっても、我々はみんな同じ仲間ですし、いつまでも続くこの大きなパレードに、みなさんもぜひ入ってきていただきたい。「誰でもいつでも、世代を超えて参加できる大きなパレード」をイメージして考えられた公演タイトルでした。昨年からはホロライブENやホロライブIDのタレントも参加し、国内も海外も問わず、世界に向けて「ホロライブのパレードに参加してください」という気持ちも込められています。「未来を感じられるような、光を感じられるようなきらびやかなパレード」をイメージして名付けました。 

ーー「これからもみんなで未来に進んでいこう!」という気持ちが込められているのですね。

音楽担当:メタバースのような場所に向けてという意味も含めて、「国も地域も、バーチャルも現実も、時間も場所も超えて広がっていきたい」という気持ちも込められています。

ーーそもそもお2人は、ホロライブのタレントさんやVTuberにとっての音楽活動についてどんな可能性を感じていますか?

音楽担当:配信などによって自らが制作したコンテンツを紹介できるVTuberの音楽活動は、個人的にですが、楽曲を出してTVに出演して……といった従来のアーティストの方法論とはまた違った方法で活動を続けられる存在になりえるのかな、と思っています。時代や時間性を超えて、つねにそこに居続けられるような魅力もあるのかな、と感じます。タレントのみなさんは配信活動もしていて、それぞれに色んな個性を持っているので、ホロライブの中でも「かっこいい」「かわいい」など様々な魅力を表現できますし、音楽面でも色々な動画を出していたり、TikTokで湊あくあさんや宝鐘マリンさんの楽曲の人気が広がっていたり、星街すいせいさんが音楽YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に出させていただいたりと色んな形で活躍されているタレントがいます。

谷郷:日々の活動の中でそのタレントが持つ様々なスキルで戦えることがVTuberの強みで、そのひとつとして「音楽活動」があるということですね。そもそも、我々はタレントに何かを「やってください」と言うことはなく、それぞれが何を目指して、どういうゴールを設定するかは各タレントに委ねています。そして本人のモチベーションをもとに、あくまでそれを支えるポジションを取っているんです。そのため、それぞれのタレントが誰かに押し付けられたものではない、自分自身の目標に向けて活動しているのが特徴です。だからこそみんな伸び伸びと活動できるし、リスナーのみなさんも「その夢を応援しよう」と感じてくださるんじゃないかと思っています。

ーー音楽に関しても、あくまでタレントさんがやりたいことをサポートする形なのですね。

谷郷:そうですね。タレントが音楽をメインにして、何か目標を達成したいのであれば、そのために我々ができることをサポートしていく、ということなので。

音楽担当:現在ホロライブに所属しているタレントの中には、ビクターエンタテインメントさんからデビューして5周年を迎えたときのそらさんや、昨年ユニバーサルミュージックさんからメジャーデビューした森カリオペさんのように高いラップの技術を持っている方もいますし、他にも様々な活動をされている方々がいます。色んな可能性のある方たちを、ワールドワイドにサポートしていけることがこの仕事の魅力だと思っています。

ーー今やホロライブの所属タレントは世界中で高い人気を集めていますが、谷郷さんは2016年のカバー株式会社の設立当初、今のような状況を想定していましたか?

谷郷:我々はもともとVTuberに特化した事業に絞っていたわけではなく、VRやARの技術を活用した日本発のコンテンツを世界に届けたいと思って立ち上げた会社なので、そういう意味では、立ち上げ当初から今のような状態を目標にしていたので、そこに対する驚きはありません。

ーー当初からの目標が着実に実現してきている感覚なのですね。

谷郷:そうですね。ただ、バーチャルタレントのみなさんについては、生配信で活動するタレントのためのシステム開発などを進めて、2017年にときのそらさんがデビューしたのですが、最初はやはり、なかなかお客さんが集まってくれるような状況ではありませんでした。

ーーときのそらさんの初配信に訪れた視聴者は13人ほどで、関係者の数の方が多かった、というのはよく知られたエピソードです。

谷郷:ですから、所属タレントたちがたくさんの方々に認知していただけている今の状況については、隔世の感があります。

ーーみなさんが人気になった決め手はどんなことだと感じてらっしゃいますか?

谷郷:それは単純に、「埋もれていた才能が発掘された」ということが一番なんじゃないかと思います。また、ここ数年の流れとして、技術的な進歩によってライブ配信が主流のひとつになっていって、動画を楽しむだけではなく、ライブストリーミングを通してインタラクティブにコンテンツを楽しむことが受け入れられたことも、大きな要因のひとつだと思っています。

 コロナ禍に入り、人と人とのつながりを求める気持ちが高まっていた中で、ストリーミングを通して同じ趣味を持つ方々が、ひとつの場所に集まることが受け入れられていったといいますか。ライブ配信などを活用したVTuberの活動は、ただ単にタレントと双方向的なやりとりができるものではなく、タレントを中心として様々なファンのみなさんが参加できる“コミュニティ”になっていることが大きな特徴です。人々がつながりを求める中で、ライブ配信の特性が受け入れられていったことは大きい気がしています。

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