Tani Yuuki×片寄涼太(GENERATIONS)特別対談 独創的な眼差しが交差する「運命」制作秘話や、互いの交流を語り合う
「“頑張ってきてよかったな”と思えるギフトに出会えた」(片寄)
――片寄さんはこの曲を歌う上で何か意識したことはありましたか?
片寄:ちゃんと言葉を届けたくて、何を歌っているのかというところまでしっかり耳を傾けてもらえたらいいなと思いながら歌いました。韻を踏んでるところも多いので、ノリがいい分、聴き流されてしまうリスクもある。でも、それだともったいないくらい素敵な言葉がたくさん詰め込まれてるから、一つひとつの言葉を丁寧に歌うよう心掛けました。
――片寄さんの「運命」は聴き手に優しく寄り添うような歌い方が印象的でした。
片寄:あまりそういう意識はなかったんです。歌詞が日本語的で、ある種文学的だと感じたので、語りのイメージの方が近いかもしれません。
――Taniさんからボーカルディレクションはあったんですか?
Tani:時間がなくてできなかったんです。「最低限のこういう感じで」というのはお伝えしましたが、基本的に片寄さんバージョンのアレンジは全てお任せしていました。今おっしゃった通り、僕も片寄さんは聴き手に優しく語りかけるような歌い方だと思って、最終的にできあがったものを聴いたら、片寄さんがこの曲を大切に歌ってくださっているのをしみじみ感じましたね。
片寄:昨年この曲を提供していただいた時、この業界に入るきっかけとなったオーディションから丸12年、ちょうど干支が一周するくらいの期間を経て、ようやく「頑張ってきてよかったな」と思えるギフトに出会えた気持ちになりました。今まで経験した辛かったこともすべてが報われる思いでした。
Tani:僕はまだデビューしてから、干支で言ったら3匹くらいしか経験していないんですが、12年なんて想像もできないような膨大な時間です。だから片寄さんからダイレクトメッセージをいただいた時は、僕の中でもグッとくるものがあって。今まではある意味で自分自身のために活動していたようなところがあったんですけど、この曲に片寄さんがものすごく喜んでくださったことで、「誰かのために曲を作ることの楽しさ」みたいな新鮮な感覚を味わえたんです。あらためて片寄さんに楽曲提供できてよかったなって。
――そして、「運命」のセルフカバーがリリースされました。
Tani:ドラマの中のヒロインはもちろん、夢を追う人全員に向けて書いたので、片寄さんが大事な曲と言ってくれたのと同じように、僕の中でも大事な曲になっていて。この曲は絶対にセルフカバーしなくちゃいけないなと思いました。
――片寄さんはTaniさんの「運命」を聴いた時、どんなことを感じましたか?
片寄:全然違う曲みたいでしたね。ご自身らしさをたくさん詰め込んでいて、この楽曲がより深まった感じがしました。それとMV撮影の時に発覚したんですけど、ピアノのシンコペーションが違ったんです。
――というと?
Tani:拍の取り方が違ったんですよ。
片寄:そうそう、ピアノの拍の取り方が違うんですよね。制作の時にデモの段階から誰も違和感なく進めてしまったんですけど。
Tani:片寄さんバージョンの方が難しいです。
片寄:偶然の産物だよね。聴く人によって聴きたいクリックが違って、僕の方はピアノは最初は三連で、サビになったら四分になる。でも、いいものができたのは確かで、2つの「運命」に明確な違いができました。
Tani:他にも転調してる箇所とか明らかな違いはあるんですけど、一番の違いはその出だしからの拍の取り方が違うところです。いい意味で2つの差異を演出できたと思います。
――Taniさんのバージョンは、曲を通してボーカルが熱を帯びていくのが印象的です。声を荒げたり、叫ぶようにして歌ってますよね。
Tani:片寄さんの「運命」を“寄り添う”だとすれば、僕の「運命」は“本人になって”歌っています。普段いろんな選択肢や決断しなくちゃいけない瞬間があって、これまで選んできたことの先に今僕たちは立っているんですけど、本当にこの選択でよかったのかなと不安になる瞬間ってみんなあると思うんです。選ばなかった方の未来は当然見られないわけで、これから先にどういう選択をしていけばいいのかなって。でも、歌詞にある通り〈辿ってきた奇跡が答えになる〉んです。選択肢の中に正解があるんじゃなくて、選んだものを答えにしていけばいい。だから今までもこれからも、選んだ自分を肯定してあげたい。だから“選んだ自分を鼓舞してあげる”ような感覚で歌いました。
――MVは片寄さん視点とTaniさん視点の2つが制作されたんですよね。
Tani:同じストーリーをシンメトリーに描いてます。
片寄:2つを比べて観てもらうと面白いんじゃないかと思いますね。
Tani:元々歌詞の世界を広げてくれるようなMVにしてほしいというリクエストを僕がしていて、歌詞に〈物語〉というワードを使ってるのでMVも物語調にしてほしいということは、事前にお伝えしてました。この曲はラブソングではないので、MVも“LOVE”だけでは嫌で、それまでの苦悩や葛藤もちゃんと描いてほしかったんです。“LOVE越しの葛藤”じゃなくて、“葛藤越しのLOVE”っていうんですかね。
――ワンカットなので撮影は相当大変だったのではないかと想像します。
片寄:本当に大変でした。寒いし、しかも雨の日だったので。時間をかけて撮影しましたけど、監督が納得できるものって結局、お互いに1本ずつくらいしか撮れてないんですよ。その一発一発の緊張感みたいなものも感じられる作品になったんじゃないかな。あとは出演してくださった俳優の2人も毎回ベストパフォーマンスをしてくれて、自分はそれに引っ張られたと思っています。演者側も気を遣わなければいけない部分が多くて、カメラ位置であったり、カメラマンさんの動きや、どういう角度で撮ってるのかなど、色々なことを意識しなければいけなかったんです。その中で自分がフレームの中に入ったり、出たりしなければいけない。結構、知らない間にカメラマンさんが後ろにいてぶつかりそうになることも多かったです。
Tani:何度かぶつかりました。雨だったというのもあって、キャストさんが滑って転んじゃったり。
片寄:そうそう、本当に難しかった。床が滑るのでなかなかワンカットを最後まで撮り切ることができなくて。
――雨の日を狙ってたわけではなかったんですね。
Tani:そうなんです。雨が降っていてほしいエリアはあったんですけど、そこは天井があったので人工的に雨を降らせてます。逆に、雨が降ってほしくないエリアにずっと雨が降ってたんですよ。だから小道具も濡れちゃったり、風も強かったので色々な物が倒れたり……。
片寄:そうそう、照明も倒れたりとかね。思い返すと結構大変でした。撮れただけラッキーですよ。
Tani:それにしても、みなさん演技が上手いなって思いましたね。俳優さんはもちろんですけど、片寄さんも。
片寄:いやいやいや(笑)。
Tani:傘の持ち方一つとっても、すごく綺麗なんですよ。しかもちゃんとどこにカメラがあるかを把握して、表情で演技もされていて。捨てられたノートにカードを挟むシーンがあるんですけど、僕は傘を持ってるとうまくいかなかったんです。そしたら片寄さんから「入れる動作はこうすればいいんじゃない?」という、普段から演技をしているからこそのアイデアを出してくれて。僕の中では皆さんにものすごく助けられた現場でした。
片寄:でも、Taniさんはめちゃくちゃ吸収が早くて器用でしたよ。もし僕が同じようにデビュー3年目とかだったら、こういうテクニカルな撮影はできなかったです。撮影中に裏でも盛り上がってたんですよ。俳優さんたちと「Taniさんはお芝居やらないんですか」って。
Tani:俳優さんたちと僕の3対1みたいな構図でしたよね。
片寄:『僕らの時代』(フジテレビ系)みたいな感じで楽しかったよね。あれ結構、撮れ高あったなあ(笑)。
――俳優業の予定は?
Tani:ないです、ないです!
片寄:RADWIMPSの野田洋次郎さんが松永大司監督と映画を撮ったりもしてましたし、いろんな角度があるので出会いによっては全然アリですよね。それこそシンガーソングライターの役でもハマりそうだし、本当に器用なので観てみたいです。
Tani:ぜひ機会があれば……(笑)。