豆柴の大群が短期間で遂げた大きな変化 『MAMEQUEST』大森靖子、ヒャダイン、清 竜人らの音楽がもたらした冒険心

 豆柴の大群が大きな変化を遂げている。

 昨年12月に結成3周年を迎えた豆柴は、そこから「新メンバーの加入」「3rdアルバム『MAMEQUEST』リリース」「後輩グループ・都内某所の誕生」という3つの変化を2カ月という短期間のなかで迎えることとなった。

レオナエンパイア、モモチ・ンゲールの加入

 カエデフェニックスの脱退と入れ替わるようにして豆柴に加入した、レオナエンパイアとモモチ・ンゲールの2人。歌唱力やMC、アイドルとしての愛嬌など豆柴全体のパフォーマンス性を底上げしていく可能性を大いに感じさせるレオナに、新メンバーオーディション『豆柴の大群なりの合宿』第二次審査の時点からクロちゃん(安田大サーカス)が「逸材」と太鼓判を押していたモモチは、それぞれが異なるポイントでグループ、さらに既存のメンバーである、アイカ・ザ・スパイ、ナオ・オブ・ナオ、ミユキエンジェル、ハナエモンスターの4人に刺激を与えている。

 レオナは後述する新曲「MUST GO」の歌い出しを例に、すでに既存ナンバーの印象的なパートを継承しており、その筆頭と言えるのが2月25日に日比谷公園大音楽堂で開催された『MONSTERS FES』で新体制後に初お披露目となった「PUT YOUR HANDS UP」だ。カエデのデスボイスが代名詞だったこの楽曲の〈プチャヘンザ〉を大胆にシャウト。筆者は現地でライブを観ていたのだが、デスボイスというよりかはどこか愛らしい、レオナなりの〈プチャヘンザ〉にチェンジしている印象だった。一方のモモチはその持ち前の明るさから、加入より2か月ですっかりグループに溶け込み、ムードメーカー的な立ち位置となっている。WACK代表の渡辺淳之介からはWACKネームを執拗にイジられ、2人のお披露目ライブとなった『豆柴の大群りりりスタート』内のコントでも重要な立ち回りを任せられていた。臨機応変に対応できるリアクションの良さは、まさにクロちゃんの言う「逸材」である。

『MAMEQUEST』に見えるメンバーの変化と冒険心

 そんな2人の新メンバーを迎え、2月22日にリリースとなったのがメジャー3rdアルバム『MAMEQUEST』だ。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)から誕生した豆柴はプロデューサーを経て、現在グループのアドバイザーを務めているクロちゃんによる最強/最狂のリリックが持ち味でありつつも、見方を変えればそれが頼みの綱にもなってしまっていた。今作では、Hi-yunk(KENJI03/BACK-ON)、木幡太郎(avengers in sci-fi)、大森靖子、須藤寿(HiGE)、ヒャダイン(前山田健一)、清 竜人の6人の作家陣が豆柴に楽曲を提供している。

 そのなかでも今の豆柴の主なサウンドを形作っているのはHi-yunkだ。アルバムの幕を開ける1曲目であり、ライブの出囃子にも使われているインスト「MAMESHiBA ON THE STAGE」は本作のタイトルである『MAMEQUEST』、さらにはアルバムコンセプトである「冒険」を予感させる構成となっており、所々にインサートされた8bitサウンドは確信犯的。さらに、合宿を経たメンバー6人が今の前向きな気持ちを歌詞に綴った「MUST CHANGE」の新バージョン「MUST CHANGE -WE KEEP CHANGiNG-」の作・編曲を担当している。Hi-yunkは今回のリリースにあたって「新生豆柴の二面性を楽曲で表現できたらと思います」(※1)とコメントしているが、その相反する豆柴の表情を楽曲に分かりやすく落とし込んでいるのが、「MUST GO」と「マラマーラ」である。

 「MUST GO」の歌い出しを務めるのはレオナ。新生豆柴を表す真っ直ぐな歌声、グループの新たな顔をMVではっきりと提示しつつ、疾走感のあるバンドサウンド、渡辺淳之介(JxSxK名義)が歌詞に込めたBiSから脈々と受け継がれている〈行かなくちゃ〉のメッセージはWACKサウンドを色濃く映し出している。筆者が驚いたのが、サビ前のBメロでキーがガツンと上がる跳躍進行だ。振り付けを担当したナオをはじめ、ミユキ、ハナエがそれらのパートをリードし、サビへと突入していく。これまでのサウンドを踏襲しながらも、新章に入った今の豆柴の勢いとメンバーのボーカル面での成長を実感させる見事なアルバムリード曲となっている。

豆柴の大群「MUST GO」MUSiC ViDEO

 一方の「マラマーラ」は、「FLASH」「そばにいてよ Baby angel」「MOTiON」といった楽曲に並び、これから豆柴のライブチューンとして育っていくことを予感させるデジタルハードコア。モモチも初めて作詞に参加した歌詞には、「冒険」にちなんだワードが散りばめられており、この「マラマーラ」も呪文の一種なのであろう。ただ、はっきり言ってしまえば重要なのはそれらのメッセージ性ではなく、頭を空っぽにしても盛り上がれるサウンド面にある。ズンズンと重低音が鳴り響く野音では、ハナエによるその振り付けも相まって、すでにライブアンセムとなっている印象だった。

 大森靖子の提供曲「kill me holy slowly」は、学生時代に大森の楽曲に救われていたというミユキは「学生時代に大森靖子さんの音楽と出会って、何もかも曝け出してくれることが自分に語りかけてくれてるみたいで、代弁してくれてるみたいで、何度も大森さんの世界に助けられたし、愛をもらっていました。そんな大好きな方と一緒にお仕事が出来て、信じられないし、大切に大切に歌っていきます、、!」とコメント。編曲は大久保薫が担当しており、BiS「割礼GIRL」やBOYSGROUP「Vibes Vibes」のタッグとしてお馴染みだろう。メルヘンな雰囲気が漂うシンセポップは大森の記名性が爆発した楽曲だが、同時に「MUST GO」をも上回るほどのハイトーンからは豆柴にとっての挑戦が伝わってくる。大森がコメントしている「全ての冒険者は親を捨てて何かを覚悟して街を出る」「夢は私を殺していくけれど、生きてさえいれば、すべてゆっくり癒してくれる。」(※2)といった思いは、冒頭の〈アドベンチャーなら ママとさようなら〉、ラストの〈君を 君を 君を 捨てて次の街まで〉といったパートに落とし込まれており、上京してきたメンバーの多い豆柴のシチュエーションと「冒険」がマッチしたリリックでもある。さらに、1サビで〈君は〉、2サビで〈kill me〉、大サビで〈君を〉と韻を踏みながら、ラストに〈エンディングできっと 君を思い出すけど〉で譜割りを変えて躍動感を生み出しているのは特筆すべきポイントだ。

 清 竜人が提供した「暖かくてね冷たい夜を越えて」の切なさを纏ったピアノの音色と力強いバンドサウンドという表裏一体とも言える楽曲の中心にあるのは、清 竜人が言う確かな「アイドルだからこそ放出できるエモーション」だ。アルバムの曲順的には9曲目の「桜色」、10曲目に「MUST CHANGE -WE KEEP CHANGiNG-」が続くが、清の「アルバムのラストを飾る楽曲のオファー」「締め括りに相応しい楽曲に仕上がった」(※3)というコメントからは、8曲目の「暖かくてね冷たい夜を越えて」がアルバムの物語の幕を閉じる立ち位置にあり、その後はアンコール、もしくはボーナストラックと捉えることもできる。我々豆粒からは見えてこないメンバーの日々の余白を想像させる歌詞であるとともに、一人ひとりの孤独に寄り添ってくれる――そんな、これから大切に歌われていく楽曲になっていくことだろう。

 ほかにも、「メンバーの強烈な個性が曲にマジックをかけた」(※4)という、ホラーとミュージカル要素の奥に唸りを上げるベースラインがサウンドのポイントにある木幡太郎による「D.E.A.D」、「豆柴ちゃん達とミーティングする機会を得て、曲のイメージはすぐに固まりました。歌詞を共作できたことも嬉しかった!」(※5)という嬉々としたコメントを送っている須藤寿はドリーミーなオルタナティブポップに辿り着いた物憂げな歌い方が際立つ「Re:Birth」を提供、ヒャダインの「捻りの無いウキウキなアイドルソング」(※6)というコメントの裏にアレンジとしてはところどころで“バグ”が垣間見える遊び心万歳の「やったぁ!クリアだ!おめでとぉ!」を収録。6人の作家陣を迎え入れた上で、WACKサウンドを、豆柴のサウンドを新たに構築している『MAMEQUEST』は、彼女たちにとっての紛れもない冒険だ。

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