Vaundy、『紅白』初出場で締め括った音楽家としての“第1章” 想像の余地のない音楽に対する危惧も明かす

 現在までに8曲が1億回再生を突破、2022年末には『第73回NHK紅白歌合戦』に初出場を果たしたVaundy。番組を通じ、お茶の間にもその存在を知らしめた彼にとって、『紅白』で「怪獣の花唄」を歌ったことは“第1章”の締め括りだったという。今回リアルサウンドでは、そんなVaundyへのインタビューを企画。音楽活動を始めてから2022年までにあたる第1章の振り返りやライブに対する思い、「音楽はアートとデザインの中間にある」という考え方などをじっくりと聞いた。(編集部)

『紅白』は音楽家としての“第1章”の締めくくりだった

――最初に、『第73回NHK紅白歌合戦』に初出演した際の話を聞かせてください。出演が決まった時、どんなことを思いましたか?

Vaundy:船長としてみんなを『紅白』まで連れていけたんだなと一安心したというか。出演が決まった時にみんなが喜んでくれたから、「ああ、よかった」と思いました。子どもの頃から、何なら生まれる前からある番組ということで、出演できるのはすごいことだと分かっていたし、もちろん嬉しかったんですけど、年末はやるべきことが目の前にたくさんあったから、意外と直前まで緊張はしていなかったかもしれないです。

――当日はどうでしたか?

Vaundy:当日はめちゃめちゃ緊張しました。だけど歌い始めたらあっという間で、ちゃんとやりきれたと思います。僕の中で、音楽家として若い時期が2022年で終わるんだろうなという想いがあったんですよ。それを“第1章”と呼んでいるんですけど、『紅白』はその締め括りということで、いつも通り、今の自分をちゃんと出しきれてよかったです。正直あそこで失敗したら音楽家としてセンスがないからやめようと思っていたんですけど、ちゃんとカッコいいライブができたので、こうして今も活動を続けています。

――歌ったのは「怪獣の花唄」と「おもかげ」の2曲でしたね。「おもかげ」はmiletさん、Aimerさん、幾田りらさんとのコラボでした。

Vaundy LIVE "怪獣の花唄" (第73回NHK紅白歌合戦 歌唱曲) | 2022.09.09 one man live at BUDOKAN "深呼吸” (JAPAN/TOKYO)

Vaundy:「怪獣の花唄」は20歳になる直前に作った曲なので、第1章の締め括りに歌うことができて本当によかったですね。第1章の集大成の役割を十分すぎるほど果たしてくれたと思ってます。「おもかげ」は正直“出してもらえた”くらいの感覚で。3人に提供した曲ということもあって、「俺、要りますかね?」って言っていたんですけど、みんなが「出てほしい」と言ってくれたんです。だから僕にとっては「怪獣の花唄」が締め括りの歌で、ハッピーセットで「おもかげ」も一緒に歌わせてもらったような感じでした(笑)。

――特に「怪獣の花唄」はライブ感溢れるパフォーマンスでした。2022年は日本武道館での単独公演があったり、フェスにもたくさん出演したりと、ライブ活動を盛んに行っていたからこそ、その積み重ねがあの場で出ていたと言いますか。

Vaundy:(「怪獣の花唄」は)ライブのために作った曲で、フェスでもワンマンでもずっと歌ってきた曲ですからね。ライブはもう、誰にも負けないと思っています。僕、ライブは戦いだと思っているんですよ。やるからには誰よりもカッコいい演出をしなきゃいけないし、誰よりも上手い歌を歌わなきゃいけない。去年はずっとそういう気持ちでライブをしていました。

――何と戦っているイメージですか?

Vaundy:対バンだったら、他のアーティストのことを「どうやったらこの人たちに勝てるだろう」というふうに見ていますけど、それ以前に、お客さんのことは常に戦う対象として見ていますね。ライブではいつも「こっちは本気で挑んでいるんだから、そっちも本気でこいよ」と思ってます。音って振動で、空気が揺れて伝わるものなので、僕たちがやっていることってある意味肉弾戦だと思うんですよ。ゆっくり音楽を聴きたいならヘッドホンして曲を聴けばいいわけだから、ライブで僕と一緒にいる時は(お客さんにも)日常を忘れて全部捨ててほしいなと思うし、僕も戦場に乗り込むような気持ちで挑んでいる。やっぱり本気でやり合わないと楽しくないと思うし、僕はそのためにライブをやっているから、その空間を一緒に楽しんでくれる人たちがもっとほしいなと思いますね。

――自分も持っているものを全部出すし、お客さんにも出してほしいと。

Vaundy:それはこの仕事以前に、人間として大事なことですよね。アーティストって“超人間”だと思うんですよ。僕は自分のことを天才だなんて思わないし、特別な能力は持っていないし、本質的には他の人と何も変わらないんですけど、より本気で生きているというか。

one man live at BUDOKAN "深呼吸” (JAPAN/TOKYO) Photo by 日吉"JP"純平

――レーダーチャートの項目数は一緒だけど、値が大きすぎて、グラフの外側に突き抜けているようなイメージですか?

Vaundy:そうですね。本当にどれくらい突き抜けられるか勝負という感じで、例えばちょっと擦り傷ができただけで大げさなくらいに「痛い!」ってなるし、何を見ても「これはこうで、こういうことなんだろうな」と考えたくなっちゃう。“本気”の境地を出せるからこそお金をもらえるのが音楽家でありアーティストだと思っているので、毎回戦いだと思いながら歌ってます。

one man live at BUDOKAN "深呼吸” (JAPAN/TOKYO) Photo by 日吉"JP"純平

――先ほど言っていた、2022年で第1章が締め括られたという感覚について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?

Vaundy:2019年から活動を始めて、音楽を仕事にできるようになったんですけど、MVを出して、ライブをやらせてもらえて、タイアップもやらせてもらえるようになって……「とりあえず全部やってみよう」というのが第1章のテーマで、それが『紅白』で「怪獣の花唄」を歌ったことで締め括られた感じがするんです。だからこれからはまた違う曲が出てくるかもしれないし、「あ、これ第1章の時の雰囲気じゃん!」ってちょっと戻ってきた時にエモーショナルになることもあるかもしれない。それくらいのストーリー性が自分の人生に出てきたなと、第2章に突入した今やっと自覚しています。お客さんには、曲を楽しむのと同じように、僕のストーリーをエンターテインメントとして楽しんでもらいたいんですよ。人生以上に面白いものって作れないので。曲は変わっていくし、僕は進化していきますけど、ドラマの主人公を見守るような気持ちで見てもらえたら嬉しいですね。今はドラマで言うところの第2期が始まったタイミングなので、第1期を振り返りたいという人は各自で振り返ってもらって。『紅白』で初めて僕を知ったという人は、第1期を見直してもらった方が楽しめるかもしれないけど、別に第2期からでも面白いよ、という状態にはしておきたいなと思っています。

――第1章のVaundyの音楽はどんなものだったと感じていますか?

Vaundy:僕からすると、モノ作りってお金が発生した時点でデザインになるんですよ。それを理解したというのが第1章での一番大きな発見だったかもしれないです。デザインとは何かというと、人が生活するうえで発生した問題を解決するために作られる道具ですよね。「外でも綺麗な水が飲みたいな」というところから水筒が生まれたり、「でも持ち運びに不便だな」という問題を解決するために、ペットボトル飲料が生まれたり。音楽はアートとデザインの中間にあるものだから、作り方がそれにそっくりなんです。例えばタイアップは、クライアントからの「こういう映像で、こういう俳優さんが出る、こういうストーリーのドラマです、この条件に合う主題歌はありませんか?」というオーダーを受けて、僕が音楽をデザインして渡すことなので。曲もデザインだし、ライブもデザインだし、ライブで売るグッズもそう。全部がデザインだと理解できたのが大きかったですね。

――大学でデザインを学んだことがそのような思考に繋がっているんでしょうか?

Vaundy:いや、確かにデザインに触れられた経験自体は大きかったものの、大学で学べるのは基礎だけなので、実践的なことはむしろ学校の外で学んでいました。去年の武道館のグッズは自分でデザインしたんですけど、そういうふうに自分の仕事を実験場にして、実際にお金を動かすことで、初めてデザインの勉強ができたという感覚が大きいですね。グッズはまだまだカッコいいものが作れると思っているんですけど、カッコいいものを作るためには予算が必要で、お金を動かすためにはどういうことが必要で……ということを考えつつやっていかなきゃいけないので。予算が大きければ大きいほど、学びも深いし責任も深い。これは座学だけでは身につけられないし、10代のうちに仕事を始めておいてよかったなと思ってます。

――そのうえで、第2章ではどんな楽曲が生まれそうな予感がしていますか?

Vaundy:正直「これはデザインだ」と気づいてしまった時点で、「これはもう、モノ作りの核心を突いてしまったんじゃないか?」という気持ちがあるので、この先何を作ればいいのか、最近分からなくなってきちゃっていて。だから第2章は迷走して、意味不明なものを作り上げるかもしれない(笑)。でもまあ、ここから発展していくのかなとは思います。デザインの中に「こういうのはどう?」という提案を入れたり……そういうことは今までもしてきたんですけど、もっと面白くできるなと思っているので。2023年以降はそういうところを考えながらやっていこうかなと思っています。

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