植木豪が演者・演出家として目指す姿 『ヒプノシスマイク』『進撃の巨人』など舞台への意識

好きなことだけはずっと愛していたい

――その『ヒプノシスマイク』シリーズは人気作として2019年から続いています。これだけ長く続く理由をご自身でどう分析されますか?

植木:これは圧倒的なコンテンツの力。ヒップホップって可能性がすごくあるものなんですが、今まで「声優さんがラップをする」ということを誰も思いつかなかったんですね。それをやったことでコンテンツとして大きなものになったんだと思います。僕、演出を手掛ける前に『ヒプノシスマイク』のライブを見に行ったのですが、お客さんがみんな手を上げていてヒップホップよりヒップホップでした。そのパワーに圧倒されて、そのままを舞台でもやらないといけないと感じて。なので、僕らも原作をリスペクトしているし、世界観を絶対崩さないようにしています。

――たしかに、植木さんの演出は原作の世界観にかなり忠実だと感じます。一方で、他の舞台では見ないようなアイデアも散りばめられていますよね。そのアイデアのティップスはどんなところからインプットされるのでしょうか。

植木:これね、「いやいや、ウソでしょ」って言われるんですけど、本当に毎日1本映画を観ているんですよ。今は気軽に観られるようになりましたけど、昔は毎日TSUTAYAでレンタルして観ていました。あとは漫画や舞台作品など、本当にいろんな所からヒントを得ています。これぞと思ったものはメモを取ったり。これを言うと「こいつイキってんな」って思われちゃうかもしれないですけど(笑)、僕は「世界は自分のためにある」と思ったほうがいいと思っていて。いろんな人が情報をくれているわけだから、全部自分のモノにするくらいの考えで吸収していった方がいいって思うんですよね。例えば、世界中のすごいダンサーの映像を見て、「ここまでできない」ってダンサーになることを諦めちゃう人が結構いるんです。そう思う気持ちもわかるんですけど、もったいないですよね。

――素敵なマインドです! 世間を見渡してみると、インプットはなんとなくできるけどアウトプットが苦手という人も多いように感じます。

植木:僕の場合は、キャラクターやコンテンツが一番よく見えることを目標にしてアウトプットを考えるようにしています。僕自身舞台に立っていて「本当はこうしたいのに」というフラストレーションを感じることもありましたし、アーティストが「本当はこういう曲を歌いたいのに」と言っているのも聞いたことがあります。時には、それが売れるための作戦という場合もあるんですけどね。そういった経験があるからこそ、僕はキャラクターやコンテンツが「この時が一番かっこよく見えました」という声にアンテナを張っていて。例えば、ブラックライトや影絵を使う演出って今はもう古いじゃないですか。でも、それがキャラクターにとって一番良く見える演出であれば採用する、という感じです。

――なるほど。『ヒプノシスマイク』でもキャラクターに焦点を当てているから、それぞれがより魅力的に見えているわけですね。1月7日からは演出を手掛けられる『「進撃の巨人」 -the Musical-』も始まります。

植木:毎日、「巨人をどうやって出すんだ?」と話し合っています(笑)。もう決まりましたけどね。

――まさのその巨人もそうなのですが、演出の工夫のしがいがありそうな作品です。

植木:そうなんですよね。立体機動や巨人の大きさなど工夫すべき点がたくさんあって。今もめっちゃ大きい巨人を作っています。装置を使うものもあれば、人が動かすものもあります。一番簡単なのってマッピングだと思うんですよ。大きな巨人を映しちゃう。でも舞台は人の力と心、汗が乗っかるべき。マッピングにすると映像の強みになってしまうんですよね。なのでもっとアナログな手法を取りたいと考えています。例えば影絵とか。影絵もどこから光を当てるかで大きさを変えられますから。

――なるほど。

植木:僕、『進撃の巨人』を初めて見た時に何に衝撃を受けたかというと、デザインなんです。海外の映画や『ジャックと豆の木』なんかにも巨人は出てきますが、あんなに歯があって、筋肉がむき出しで、蒸気を出しながら出てくる巨人って初めて。だからこそデザインを大事にしようと思って、それに合った演出方法をやってみようと考えています。

――演出も然ることながら、舞台を作る上で役者も欠かせないファクターの一つです。植木さんが考える「いい役者」とはどんな人のことを指すのでしょうか。

植木:「板の上で生きている」というのは大事なのかなと思います。例えば、歌ってちょっと不自然な方が好まれませんか? 売れている人って必ずモノマネされるし、ダンスなんて不自然の極み。でも、お芝居だけはみんな見る目がちょっと変わると僕は思っていて、不自然があってはダメなんですよね。今、僕がこうやって喋っていて、皆さんが僕を見ていて、スタッフさんは携帯で何かをチェックしていますよね。これが板の上に立つとみんないきなりできなくなるんです。普通に生きていたらできていることなのに。椅子に座っていたのに、急に「俺さ、こうなんだよね」とか言いながら立ち上がったり、何人かの役者はポケットに手を突っ込んでいたり、「そんな人いる!?」みたいな不自然なことが起こってしまいがちなんです。そうではなく、板の上でもいつもと同じように生きていられる人を見るととてもすごいと思います。それをいい役者という定義にしていいのかはわかりませんが、一番わかりやすい部分だし、一番難しい部分でもあると思います。

――なぜか「舞台だとオーバーに見えるのが普通」と思っていました。

植木:そうなんですよね。会場の大きさに合わせるくらいが一番いい。今、僕たちはものすごいスピードで喋っているじゃないですか。しかも1回も噛んでない。これを舞台でできたらものすごい俳優ですよ。それくらい「いつものまま演じる」というのが難しいんです。でもそれが芝居の面白さ、醍醐味でもあるんですけどね。

――「いい演出」についてはどう思われますか?

植木:大前提として全セクションの皆様がご自身の力を最大限に発揮していただくというのは一番大事だと思いますが、作品のテーマをしっかり見せられるかどうか、ですね。今、僕は演出にレーザーを使ったりしているんですが、それは『ヒプノシスマイク』だから。別の作品だと『アクダマドライブ』でも使っていますが、それもサイバーパンクな世界を表現しているからですし、逆に『進撃の巨人』では1本も使っていません。作品ごとの見せたいものを一番どストライクな状態で見せられるのがすごい演出なのかな。『スパイダーマン』なんかもアニメから出てきているから、ある意味2.5次元作品だと思うんですけど、原作に忠実な上にいい演出が乗っかっているからずっと愛されていますよね。僕もそうでありたいという思いのもとで演出をしています。『ヒプノシスマイク』であれば、マイクを持って人の精神を攻撃するじゃないですか。きっと攻撃を受けている人が見えている世界ってかなりなものですよね。なので、映像やLED、レーザーをキツめに使っています。ちょっと過剰かなとは思ったのですが、アニメを見たら僕の演出以上に過激な演出がされていて(笑)。ラップしたら爆発して飛んでいった人もいたので、「僕の解釈であってる」と確信が持てました。

――次々と素晴らしい演出がなされた舞台が増えていますが、この先舞台はどう進化していくと思われますか?

植木:バーチャルの世界との繋がりが強くなっていくなとは思っています。今って僕にとって一番面白い時期。生のもの、バーチャルのもの、その間のものもあるすべてがある状態なんですよね。最近はバーチャルの分野がすごく進化してきているので、生のものが少なくなってしまいそうな寂しさは感じますが、きちんと向き合っていかないといけないなと思っています。ホログラムを顔につけて舞台に出る、なんてことも増えてくるじゃないですかね。でも、やっぱり真ん中には人間の汗やフィジカルがあってほしいです。

――あまりにもバーチャルによりすぎると、クオリティの高いアニメや映像作品との違いが小さくなってしまいそうですね。

植木:そうなんですよ。僕もそれは懸念していて。でも、オンラインゲームをしていると普段あまり喋らない役者とたくさん話せたりもしますし、今までインタビューは紙の本でしか見られなかったのにこうしてネットでも見られるようになりましたし。両方とも良さはあるんですよね。僕は今、初音ミクと一緒に踊ったりもしているんです。ライブをすると、お客さんがミクさんについての会話で盛り上がっていて、皆さんの中には初音ミクが実在しているって感じています。それって素敵なことだし、ちゃんとバーチャルを認めて取り入れていく方がいいんだろうなって考えるようになりました。

――たしかに、可能性が増えそうですね。では最後に、この先植木さんが目指す姿を教えてください。

植木:この世界に入った当時、今みたいになっているとは思っていなくて。でも、努力をしていたら誰かが必ず見ていてくれるはずなので、好きなことだけはずっと愛していたいです。これ、結構難しくて。好きなことでさえ、好きな人でさえ、人って飽きちゃうんですよね。こうして継続できているのは応援してくれる方、どこかで見てくれている方、僕を好きでいてくれる方がいるから。だからずっと続けていきたいと思います。年齢を重ねたら年齢を重ねたなりの踊り方もあるし、その年でしか出せないものをずっとやっていきたいです。

――誕生日である12月15日には新曲「NEVER HIDE」がリリースされましたが、それもその一環でしょうか?

植木:そうですね。アメリカにブロードウェイを観に行ったのですが、空いている時間ができて。そこで曲を作って、勝手にMVを撮影しました(笑)。僕にとって歌は心の中にある言えないことを言うための武器。今までの人生で感じたことをたくさん歌に込めました。タイトル「NEVER HIDE」は「決して隠れない」という意味なので、ずっと表に出続けて必ず先に行く、常に扉を開けていきたいという思いを歌にしました。映像も遊び心を持って撮ってきたので、ぜひ楽しんで観てください。

植木豪 GO UEKI - NEVER HIDE (Short ver.)

■リリース情報
「NEVER HIDE」
2022年12月15日(木)配信
配信:ハイレゾ配信 
価格:500円(税込)
「NEVER HIDE」配信サイト:https://lnk.to/Never_Hide

■『「進撃の巨人」 -the Musical-』
https://www.shingeki-musical.com/

■関連リンク
植木豪 公式サイト
https://www.amuse.co.jp/artist/A0158/index.html
植木豪 公式Twitter
https://twitter.com/PaniCrew_GO
植木豪 公式Instagram
https://www.instagram.com/goueki/

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