桑田佳祐、アリーナで響かせたソロ35周年の集大成 ポップスの愉快さと批評性を届ける極上のエンターテインメント空間に
ロックンロール、ブルース、ソウル、レゲエ、ラテン、昭和歌謡などを奔放に融合させた音楽性。市井の人々に寄り添う応援歌、社会に鋭い言葉を突き刺すメッセージソング、官能や切なさが滲む愛の歌、人間の業を肯定するような歌詞。そして、凄腕ミュージシャンやパフォーマーを率い、圧倒的なエンターテインメントへと結びつけるボーカルとパフォーマンス。日本を代表するポップ歌手は、今もなお変化と進化を続けている。そのことをはっきりと実感できるステージだった。
桑田佳祐が2022年12月28、30、31日、全国ツアー『LIVE TOUR 2022「お互い元気に頑張りましょう!!」』の追加公演『LIVE TOUR 2022「年末も、お互い元気に頑張りましょう‼」』を神奈川・横浜アリーナで行った。
ソロ活動35周年の記念日(2022年10月6日)を経て、11月23日にベストアルバム『いつも何処かで』をリリース。11月から12月にかけて、5大ドームを含めた7都市を回る前述の全国ツアー(総観客数40万人超え)を開催した桑田。数々の名演を繰り広げてきた横浜アリーナでも、“これぞ桑田佳祐!”と快哉を叫びたくなる圧巻のステージを繰り広げた(本稿では12月30日の公演をレポートする)。
舞台の上にはバー“若い広BAR”のセット。男性のバーテンと女性店員、男性客がひとりグラスを傾けるなか、店の扉から「こんばんは」と登場したのは、そう、桑田佳祐。オープニングは「こんな僕で良かったら」。ジャジーなサウンドとともにバーの店員が踊り出す演出は、まるで伝説の音楽バラエティ番組『シャボン玉ホリデー』のようだ。
さらに「若い広場」で心地よい一体感を生み出した後(途中“前川清”風の声色で客席を沸かせた)、「1年ぶりに横浜アリーナに帰って参りました。みなさん、よろしくおねがいします!」という挨拶とともに「炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)] へ。〈開演お待ちどうさん/ご来場 大変御足労さん〉と高らかに歌い上げ、13000人の観客を迎え入れた。
最初のMCは「私、原 由子の夫です。暮れの差し迫ったなか、お集まりいただきありがとうございます」という言葉から。「どうぞ、お座りになってくださいね。私のコンサート、盛り上がりませんから。すぐ終わります(笑)」というトークで場を和ませる。
「今年もあと2日ですからね、厳かにやろうかと。私も66チャイですからね、波乗りの歌なんかやりません」と言いつつ、この後はソロアーティストとしての代表曲、ヒット曲が次々と披露された。鈴の音、雪を想起させるライティングとともに披露された「MERRY X’MAS IN SUMMER」では、間奏で“もういくつねるとお正月”(「お正月」)という一節を織り込み、季節感を演出。桑田が赤いテレキャスを弾いた「可愛いミーナ」では古き良きポップソングの素晴らしさを現代に蘇らせる。そして「真夜中のダンディー」でライブは早くも最初のピークへ。“ストーンズ×ディラン”と称したくなるサウンド、〈愛と平和を歌う世代がくれたものは/身を守るのと 知らぬ素振りと悪魔の魂〉という辛辣で深淵な歌詞が響き渡り、心と体を揺さぶられる。斎藤誠(Gt)、中シゲヲ(Gt)のハモリのギターソロのカッコよさ、エンディングで「Smoke on the Water」(Deep Purple)の一節をぶち込む遊び心も楽しい。
「明日晴れるかな」で未来への希望を美しいメロディとともに歌い上げた後は、ラブソングが続いた。1988年、ソロ2作目のシングル曲としてリリースされた「いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)」では、過ぎ去ってしまった夏と“君”への思いーーこの組み合わせも桑田の十八番だーーを洗練された演奏が際立たせる。さらに汽笛、海鳥の声から始まった「ダーリン」では横浜の風景を映し出す映像とともに、別れのシーンをまるで映画のように描き出す。そして斎藤誠のブルージーなギターに導かれたのは、「NUMBER WONDA GIRL〜恋するワンダ〜」。女性の魅惑的なパワーをモチーフにした歌、最高&最強のバンドグルーブが絡み合い、観客も楽しそうに体を揺らす。曽我淳一(Key)、山本拓夫(Sax)のソロ演奏を含め、バンドの魅力がダイレクトに伝わってきた。
“ご当地民謡”、横浜にちなんで選ばれたのは「赤い靴」。「Stairway to heaven(天国への階段)」(Led Zeppelin)のイントロのフレーズとのマッシュアップ、最後はなぜか“異人さん”ではなく、“ひいじいさん”に連れられて行くというオチで客席を沸かせた。細かいネタ、めっちゃ仕込んでるなあ、リハーサルも緻密にやってるんだろうなと勝手に感心していたら、「心を込めて歌わせてもらいます」という言葉とともに「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」が奏でられた。〈栄光に満ちた者の陰で 夢追う人達がいる〉というラインは何度聴いてもグッと来るしーー聴く者すべてに光を当てる歌詞だと思うーー観客が拳を突き上げるなかで響く〈Woh oh oh〉というコーラスの高揚感も最高。もともとは東京五輪イヤーを盛り上げるべく制作された楽曲だが、桑田佳祐のライブの定番曲になっているのはもちろん、今や国民的アンセムと言っても過言ではないだろう。
メンバー紹介のコーナーでは、全員の人となりと演奏を丁寧に伝えながら、ちょいちょいネタを挟む。ホーン隊(山本拓夫/Sax、寺地美穂/Sax、菅坡雅彦/Tp)は「伊勢佐木町ブルース」を奏で、コーラスのTIGERが色気たっぷりの“アーン”とため息。ずっこけながら「ドリフじゃねえんだから(笑)」と笑う桑田自身も楽しそうだ。
ここからはアコースティックコーナー。フォークロック的なアプローチの「鏡」、生楽器の特性とダイナミズムを活かしたアンサンブルに唸らされた「BAN BAN BAN」(KUWATA BAND)、そして、ラテンの匂いを振りまく演奏と官能的なボーカル、女性ダンサーのエロティックな舞いが絡み合う「Blue〜こんな夜には踊れない」。生楽器の響きの豊かさ、アレンジの妙が際立つ、素晴らしい演奏だった。
ここで桑田は『第73回NHK紅白歌合戦』に、“桑田佳祐 feat.佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎”として出演し、「時代遅れのRock’n’Roll Band」を披露することを報告。また、『紅白』で最後のライブパフォーマンスを行う同郷の先輩ミュージシャン・加山雄三にも触れ、「同じ機会にご一緒できて、嬉しいです」と語った。