PEOPLE 1が射抜く、狂った世の中に立つダークヒーローの本質 『チェンソーマン』と重なる“NOハッピー”な精神性
アニメ『チェンソーマン』(テレビ東京系)の勢いが止まらない。10月の放送開始以降、回を重ねるごとに、もともとの原作ファンやアニメファン以外の人たちも巻き込みながら熱狂の渦が拡大し続けているが、12月に入り、物語は一つのクライマックスへ向けてさらに熱量を高めながら加速している。今作の勢いをブーストさせる大きな要因となっているのが、全12アーティストによって書き下ろされた週替わりのエンディング・テーマだ。毎週、次はどのアーティストの楽曲がエンドロールを彩るのかを楽しみにしながら最新話をチェックしている人も多いと思う。
その12組のラインナップは、豪華絢爛なだけではなく、2022年の音楽シーンに新たな価値観を提示する新進気鋭のバンド/ミュージシャンが多数出揃っていて、その顔ぶれに痺れた音楽ファンは多いはず。そして、12月13日に放送された第10話では、PEOPLE 1の新曲「DOGLAND」がエンディング・テーマに起用された。
PEOPLE 1は2019年末、Deu(Vo/Ba/Gt/ Other)、Ito(Vo/Gt)、Takeuchi(Dr)によって結成されたロックバンドである。彼らがアニメタイアップ曲を手掛けるのは今回が初めて。加えて、アニメ公式サイトに掲載されている「1話目をジャンプで読んで、とても興奮したことを覚えています。その頃はPEOPLE 1自体やっていませんでしたから、まさかED曲を担当することになるとは」(※1)というコメントに表れているように、彼らにとって『チェンソーマン』は非常に思い入れの強い作品で、それ故に今回の楽曲制作に対する熱意は並々ならぬものであったことが伝わってくる。これまでの放送においても、様々なアーティストが独自の方法論で『チェンソーマン』の物語を彩ってきたが、PEOPLE 1は、この物語とどのように向き合いながら自分たちの表現を重ね合わせていったのだろうか。今回は、PEOPLE 1が第10話エンディング・テーマとして書き下ろした「DOGLAND」について迫っていく。
まず、サウンド面について。この曲のダークで退廃的な世界観は、今年リリースされた楽曲「銃の部品」をはじめ、これまでPEOPLE 1の楽曲が描いてきたものとリンクする部分が大きい。ここで、『CUT』11月号のアンケートにおける「「DOGLAND」はどんなアプローチで制作していきましたか」という問いに対するDeuの回答を一部抜粋して紹介する。
「表現方法こそさまざまですが、PEOPLE 1自体、わりと『チェンソーマン』的な“NOハッピー”みたいな世界観の曲が多いです。ハッピーなメッセージを発信していることは殆ど無いので、ある意味では通常運転ですり合わせができました。元々僕がわりとアングラな精神性なので、『チェンソーマン』という器の上で存分に発揮させてもらえたという感じです」
今回の楽曲における“NOハッピー”の世界観を象徴するキーワードの一つが、タイトルの「DOGLAND」だ。“犬”という言葉は、被支配の象徴として用いられることがあり、また、“負け犬”という言葉があるように、それはルーザー感の表れでもある。 1番の冒頭に〈結局銘々が命令だ/なりふり構わん徴兵制〉という一節があり、これはまさに公安の“犬”として不条理な戦いに身を投じていく主人公・デンジの置かれている状況と重なる。第10話では、あまりにも無慈悲な特訓のシーンが描かれていたこともあり、その話の最後に流れるこの一節は、深い悲痛な余韻を残す。