Mrs. GREEN APPLE、映画『ラーゲリより愛を込めて』に重なる大森元貴の生き様 「Soranji」で歌った“繋がりを諦めない心”

 映画『ラーゲリより愛を込めて』が12月9日より公開された。同作は、第二次世界大戦終了後にシベリアの強制収容所(ラーゲリ)に不当に抑留された日本人のノンフィクションが原作の映画。過酷な環境下でも生きて帰ろうと仲間を励まし続けた人物・山本幡男を二宮和也が演じている。

 過酷な環境と一言で書いてしまったが、零下40度超えの環境で長時間の労働を強いられ、食事はまともに与えられず、朝起きたら仲間が栄養失調で死んでいて、日本人捕虜同士での裏切りや争いも起こる、しかもこの理不尽な状況がいつ終わるのかは分からないーーといった抑留者の置かれた環境は想像を絶するものだ。映画ではそういった描写もあるが、「悲しい」とか「痛々しい」と思う以前に、こういった状況を引き起こした人間という存在そのものへの嫌悪感すら湧いてくる。だからこそ絶望から自ら命を絶つ者が出たという話も納得できてしまったし、生きるにしても、いっそ心を閉ざし、感情を持つことを諦めてしまった方が楽になれそうだと思ってしまった。

映画『ラーゲリより愛を込めて』予告【12月9日(金)公開】

 しかし山本は、生きることへの希望を強く訴え続ける。予告編では、山本と同じく抑留者となった男・松田研三(松坂桃李)の「生きてるだけじゃダメなんだ。ただ生きてるだけじゃ。山本さんのように生きるんだ」という台詞が登場するが、ここで言う“ただ生きてる”状態とは、生きた心地を感じられないまま命をただ保っている状態のことだろう。アメリカの歌だとかロシアの歌だとか関係なく、「美しい歌だから」とお気に入りの詩やメロディを明るい表情で口ずさむ山本は、どこまでも人間的に生きた人だった。どんな時も家族や仲間を想い続け、愛に生きた人だった。冷たい荒野に咲く一輪の花のように、山本の存在はやがて抑留者たちの希望の象徴となり、その生き様は周囲の人物に、時代を超えて受け継がれていく。

 そんな『ラーゲリより愛を込めて』の主題歌がMrs. GREEN APPLEの「Soranji」だ。〈貴方に会いたくて〉という歌い出しは、大切な家族との再会を信じる山本幡男の願い。ストリングスや聖歌隊を従えたドラマティックなバラードは、重厚な映画のエンドロールに流れるにふさわしい。澄んだ空気を纏った鎮魂歌で、どの部分を掘り下げても寂しさ、虚しさ、喪失感といった感情に行き着くが、凄まじい求心力を放ちながら全ての感情はやがて昇華され、喜びや祝福に満ち溢れた曲へと形を変えていく。挫けてしまいそうな自分自身に言い聞かせる〈生きて欲しい。〉から腹に落ちた言葉として歌われる〈生きてみよう。〉、遠くにいる誰かを想いながらの〈生きてて欲しい。〉へとサビの歌詞が変化するに従って、心から零れる独白、口に出して確かめる意思、他者へ手渡すメッセージと大森元貴(Vo/Gt)の歌の性質も変化していく。絶望的な状況でも希望を諦めないこと。人の醜さや残酷さに触れても、人を想い、愛する気持ちを手放さないこと。筆者は映画鑑賞後、〈有り得ない程に/キリがない本当に/無駄がない程に/我らは尊い。〉というフレーズが持つメッセージの重さに衝撃を受けるとともに、そうだ、これだけ強く大きな愛だからこそ、山本の半生は2022年現在まで語り継がれたのだろうと感じ入った。タイトルの「Soranji」はおそらく“諳んじる”から生まれた造語だろう。そして、この“諳んじる”が映画における重要なモチーフになっている。

Mrs. GREEN APPLE「Soranji」Official Music Video

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