イヤホンズ 高橋李依×やぎぬまかな対談 「タイムカプセル」で表現される子供時代の自分との対話

「妥協って私、一番嫌いな言葉で(笑)」(高橋)

──先ほど、歌うときになるべく演じることを意識しすぎないという話がありましたが、実際のレコーディングではほかにどういったことを注意しながら歌いましたか?

高橋:私の場合は先にがっきゅ(長久友紀)とまりんか(高野麻里佳)が歌を入れてある状況で、3番目に録らせてもらいました。特にこの曲は3人でひとりの歩みを歌う形なので、合わせていく感覚を大切にしたかもしれません。

やぎぬま:最初からナイスピュアボイスを出されていたので、こちらもそんなにディレクションすることなく。3、4テイクくらい録って、スルッと終わっちゃいましたものね。

高橋:確かに、今回はテイク数が少なかった気がします。たぶん最初に歌った2人でがっつり方向性を固めてくれていたんですよね。

やぎぬま:最初に録ったのが長久さんで、プロデューサーさんが「演じすぎずに」と指摘していて。その際、「新幹線とか長距離の電車に乗りながら、車窓をボーッと眺めているくらいの感じをイメージしてほしい」と言っていました。

高橋:ああ、最初にがっきゅがちゃんと試してくれていたんだ(笑)。確かに、そんな感じはしました。当事者なんだけどちょうどいい俯瞰具合といいますか、そういう感覚はありますよね。

──今のその感覚って、すごくわかりやすいですね。あと、手紙だけど他人に届けるわけではなく、自身の過去や未来に届けると同時に、自分の心の中のつぶやきとしても捉えられますし。誰かに聞かせるというよりは、自分の中で噛み締めるようにも聞こえます。

高橋:まさに、そういう不思議な距離感で歌えたなと。1番を聴いて本当にその頃に戻れもするし、それを読んでいる大人の私でもあると思うし、どの視点でも聴くことができる、まさしく「手紙」という概念にぴったりな曲なのかなと。聴き手の立場によって没入具合が、どの時の自分にチューニングしていくか変わるんじゃないかなと思ってしまいます。

──実際、1番と2番とで歌で意識的に変化をつけているところはありますか?

高橋:声として変えているというよりは、考えていることを変えているみたいな感覚で。私も子供の頃は〈そもそも生きていますか?〉みたいな考えがあったので、自分の中の世界のサイズを変えた感覚に近いです。

──なるほど。聴いていると2番に移ったときに何かが変わった感覚は確かに伝わるんですが、その感覚的なところが大きいんでしょうかね。

高橋:きっと、音楽の雰囲気も変えてくださっているのも大きいですし、リズム感も2番になって少し変わるから、大人になる感覚というのも無意識のうちに作っていただいていたんだなと思います。たとえば、2Aの頭で「ジャン!」と入ってくるところで、わりとシャンとするといいますか。そういうサウンド面のサポートはすごく大きいと思います。

やぎぬま:そこは完全に無意識でした(笑)。2Aなんで、少し雰囲気を変えたほうが楽曲が面白くなるなと、それくらいの感覚だったんです。

高橋:でも、その変化が10年経ったという感覚にもフィットしましたし。その当時の自分のメッセージを読んでいるかのようで、言葉遣いも同じ人のはずなのに……ああ、敬語だからだ!

やぎぬま:そうです。タイムカプセルの事例を調べてみると、子供の頃は「〜ますか?」って大人の自分に向けて書いていることが多くて、それを採用しました。

高橋:なるほど! 無意識で敬語にしたくなる気分も、なんとなくわかります。10年後ってことは、ハタチを超えた大人に書く手紙になるわけですもんね。そりゃあ敬語で書きますよ。そして全体を通しての柔らかさと、語尾も含めた言葉選びが、年下の自分と今の自分の両方に、対等に話しかけているみたいでもある感じがします。私、2Cに出てくる〈折り合い〉って言葉がすごく好きで。大人になるにつれて妥協する場面とか、すごく出てくるじゃないですか。でも、妥協って私、一番嫌いな言葉で(笑)。

やぎぬま:わかります。

高橋:そういうときに、なんて言ったら大人へ成長できるのかと考えたら、「折り合い」ってすごくいいなと思っていたんです。

やぎぬま:大人になると、自分の限界点みたいなものもどんどん見えてきて、自分にできることと絶対にできないことの区別がつくじゃないですか。無理してそこにも行こうとしなくなりますし、そのほうが生きていく上では圧倒的に効率がいい。なので、大人になったら折り合いをつけちゃいますよね。子供の頃は「プロ野球選手になりたい」みたいな子もいたじゃないですか。

高橋:そういうことも含めて、この「折り合い」という言葉を選んで昔の自分にお話してあげられるところが大好きで。ある程度妥協しながら生きていますとか、ちょっと皮肉めいた大人じゃなくてよかったというか、当時の自分にも「これは折り合いなんだよ」と言ってあげられる自分になれていたらいいなと思いましたし、それを聞いて「折り合いって素敵だね」と言えるようなピュアだった自分でもあってほしい。そういうちょっとした部分も最高でした。

「7年間でいろいろ積み重ねてきたものがあるからなんだろうな」(やぎぬま)

──やぎぬまさんにお聞きしたいんですが、改めて声優として活躍されているイヤホンズの3人の歌唱に関して、どのように感じましたか?

やぎぬま:3人ともさすがだなと思いました。最初、もうちょっとワンコーラス目に子供感が出ちゃうのかなと思っていたんですけど、物理的に子供感を出さずにそれが伝わるナチュラルピュアさはさすがだなと思いました。2番も声を変えるというよりは、さっき高橋さんがおっしゃっていたように意識だけ変えて歌ってみてとディレクションしたんですが、そこでしっかり声に変化が表れるのはすごいですよね。

高橋:うれしい! ありがたいです。

やぎぬま:声優さんをやられていることもあって、もともとの声がめちゃくちゃ良くて、技術もしっかりあるので、本当に素晴らしいです。それも、ユニット活動の7年間でいろいろ積み重ねてきたものがあるからなんだろうなと思いました。

──イヤホンズというと、ボーカルワークやサウンド面でトリッキーさが際立つ楽曲が多いですが、この「タイムカプセル」はそこで戦う曲ではないですよね。そういう曲をここまで個性的に仕上げられたのも、7年の積み重ねあってこそだと思いますし、声や言葉に対して意識的な声優というお仕事をされている方々ならではの歌かなと感じました。

高橋:不思議ですね。自分たちも意識して変なことをしようとはまったく思っておらず(笑)、楽曲を咀嚼して歌い、3人それぞれがひとりの女の子を意識して、みんなで同じ方向を向く。ただ、それぞれ過ごしてきた幼少期も違うから解釈も違うと思うんですが、そんな中でみんなで寄り添った楽曲が“イヤホンズらしく”仕上がるのはすごく素敵ですよね。

──確実に“イヤホンズらしさ”というものを確立できたからこその、この1曲なのかなと。

高橋:昨年『identity』という作品を制作したこともあるんですが、そう言っていただけると、いつのまにかアイデンティティになっていたのかなと思ってしまいますね。

やぎぬま:それにしても、こんなに歌詞を受け止めていただいていたなんて、本当にうれしいです。

高橋:普段声優として台本を読んだり、文字と向き合うお仕事なので、素敵な歌詞をいただくと読んでいて楽しくて、口に出した瞬間に泣きそうになったりもしちゃいます。今回はリリックビデオも制作するので、本当に手紙だと思って、目からも受け取ってほしいですね。

「観た方それぞれにひっかかるポイントがあるんじゃないか」(高橋)

イヤホンズ「タイムカプセル」LYRIC MOVIE

──そのリリックビデオについても聞かせてください。この取材時点では完成前ですが、どんな内容になりそうですか?

高橋:今回はメンバーでどういうテイストのイラストをお願いしようかと意見を出させていただいたんですが、また「在りし日」とは違った雰囲気ですごく可愛らしい絵に仕上げていただいて。本当に温かみがあって、曲を聴いたらこのイラストが思い浮かぶぐらい、自分の10歳の頃の記憶がこの色に塗り変わった気がします。しかも、3人とも「この曲ならこのイラストレーターさんにお願いしたいね」という意見が一致していて。みんなが楽曲に向き合うときの空気感が、自然と似ていたのかなというところでもあり、うれしく思います。

 それと、これは個人的にうれしいことだったんですが、レコーディングのときに歌詞に出てくる前髪の癖の話題になって、「私、左眉が出ているんですよ」って話したら、リリックビデオに左眉が出ている女の子が出てきて「あっ、私の前髪じゃん!」って。プロデューサーさんがその場でメモってくださっていて、反映してくれたんです(笑)。

──このアートワークも、リリックビデオと関連しているんですよね。

高橋:そうです。猫ちゃんがいるのも、まりんかが猫ちゃんを飼っているのと重なるし、どこかに当時の自分を振り返るアイテムがあるのかなと思います。私も幼少期、自分の部屋にこういう感じのローテーブルがあったんです。身長も今より小さいから、何をするにもローテーブルっていう環境はすごく印象に残っているので、同じように観た方それぞれにひっかかるポイントがあるんじゃないかと思います。

──おふたりは子供の頃、タイムカプセルを埋めた経験ってありましたか?

高橋:私、あります。ただ、埋める場所がなくて。お菓子の缶にみんなで手紙を入れたんですけど、「無断で穴を掘って埋めちゃうのもよくないよね?」って話になって、私が預かることになったんです。で、実家にずっと眠らせておいたんですけど、10年経つとみんな学校が変わって会えなくなってしまって。その頃にケータイが普及し始めて、でも電話番号もメールアドレスも知らないので、まだ実家に眠ったままです(笑)。

やぎぬま:すごい! タイムカプセルを持っている人、初めて見た(笑)!

高橋:申し訳なさすぎて、早く返しに行かなきゃと思っているんですけど。小学校高学年のときだったんですが、もう28歳になっちゃいまして(苦笑)。タイムカプセルに連絡先は書いておくべきですね(笑)。家で保管するから、封もセロハンテープのみで。なので、自分の手紙だけ開けて読んじゃいました(笑)。

やぎぬま:何歳のときに開けたんですか?

高橋:あの……定期的に開けちゃって(笑)。ひどいですよね。「ああ、そろそろ1年経ったなあ〜」みたいな感じで、タイムカプセルを台無しにした女なんですよ(笑)。

やぎぬま:(笑)。私は記憶が曖昧で、確か学校でやった気がするんです。でも、学校を卒業してから地元にあまり帰ってないので、開けたかどうかもわからないですし、何を埋めたかもさっぱり覚えていなくて。

高橋:中の手紙、郵送で届いたりしないんですかね?

やぎぬま:親からも聞かないので、自分で取りにいかないとダメだったんですかね。

高橋:タイムカプセルって、そういうシステムをしっかり決めないと勿体ないですよね。

「『20代、つらいけど頑張って』と言ってあげたい」(やぎぬま)

──もし今、10年後の自分に手紙を送るとしたら、どんなことを伝えたいですか?

高橋:まさに〈仕事してますか? 結婚してますか? そもそも生きていますか?〉ですね(笑)。

やぎぬま:私もそれを聞きたいですね(笑)。

高橋:真理ですよね。10歳の頃に感じたわからなさって、今もわからないままですし。早く教えてほしいです(笑)。

──逆に、10年前の自分に言ってあげられる言葉は?

高橋:ちょうど10年前の2012年が、私が声優になるオーディションを受けた年で。なので、「この事務所で大丈夫だよ」って教えてあげたいです(笑)。

やぎぬま:私は「20代、つらいけど頑張って」と言ってあげたいですね。

高橋:何がつらいかはボカしつつ(笑)。

──こういうテーマで楽曲を制作できる、今のイヤホンズの充実ぶりは興味深いです。

高橋:イヤホンって耳なのに、手紙に行っちゃうんだっていう感じもありますよね(笑)。

──でも、言葉だったり思いを届けるという意味ではつながるものがありますし。

高橋:不思議です。最初はダサい名前を付けようとして生まれたのがイヤホンズだったのに、今となっては人にダイレクトに届けられるようなめちゃくちゃいいユニット名で、すごく誇らしいです。

■リリース情報

連続配信リリース企画 第二弾楽曲
「タイムカプセル」
配信日:2022年11月18日
楽曲配信はこちら
URL: https://eaphones.lnk.to/timecapsuleMM

■関連URL
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