にしな、春ワンマンや夏フェス出演で拡張する表現の幅 堂々のステージングで閉幕した最新ツアー『1999』レポ

 にしな が全国4都市5公演のワンマンツアー『1999』を完走。今回はツアーファイナルの11月17日・LINE CUBE SHIBUYA公演をレポートする。

 最新アルバム『1999』を軸とした今回のツアー。そもそも彼女の生年である1998年にプラス1したのはデビューから1年経過したことも含めた“アーティスト にしな ”のスタート地点の数字を表している。かつ、収録曲でもある「1999」の内容にも通じるが、80年代生まれ世代までにはお馴染み、ノストラダムスの大予言によると人類滅亡の年として、もしかしたら終わってしまうかもしれなかった年だ。彼女自身は生まれたばかりで、もちろん成長する中で知った事柄だが、「1999」の中で にしな はこの世の終わりの続きを生きようと歌う。日常の中の痛みや狡さを隠さない曲で注目された彼女は『1999』において、ファンタジーの世界でもその軸を貫き通している。表現者としての幅を大いに拡張したタイミングでの節目のツアーだったと思う。

 緞帳が降りたステージにぽつんと置かれたラジカセが「?」だったのだが、ファンにはお馴染みのかっぱ(アルバム「1999」のアートワークやトレーラー映像でも登場したことから)が登場し、クラップを促すというシュールなオープニングから、緞帳が開くとすでにメンバーはスタンバイ、にしな もフルアコをカッティングしながら歌うグルーヴィーな「スローモーション」でスタート。音源では儚さの中に芯のある声が広い会場の奥まで届く強さを持っていることに驚く。やはりスペシャルな声の持ち主だ。ハンドマイクに持ち替え、ステージを自在に動きながら「東京マーブル」、ラップのフロウに寓話的な歌詞を乗せた「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」と、踊れるナンバーを続けた。

 一転、アコギを指弾きしながら独特の息遣いが耳に残る「ダーリン」が深夜を思わせる群青のライティングも相まって染みる。また、アコギのストロークで自分自身の中にグルーヴを作るように歌う「真白」、ジェンダーを超えた恋愛を歌う「夜になって」と、人を想い突き動かされる感情の深淵に引きづり込まれる真骨頂は、もう戻れない森の中に歩みを進めるようなイマジネーションを掻き立てるイントロから始まった「桃源郷」でピークを迎えた。高低差のある歌唱は脆いようで強く、あるいは逆も思わせて、にしな というアーティストの他にない個性を最大限に表出させる。前半のハイライトだった。

 人間の業を見るような歌の表現と大きなギャップを見せるMCもまた彼女の一面で、ゆるいメンバー紹介で場を和ます。今年の春のワンマン以降夏フェス含め一緒にライブを作ってきたメンバーとより息が合ってきた様子が窺える。

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