大滝詠一「幸せな結末」を生んだドラマ制作陣の熱意 『ラブ ジェネレーション』が放っていた特別な存在感

「幸せな結末」というタイトルの意味

 ドラマのタイトルバックで流れた、大滝の12年ぶりの新曲。夕陽が広がる風景、ガラス彫刻のりんご、画面の両端から歩いてくる木村と松の姿。さらに渋谷の映画館の看板(当時公開されていた『アナコンダ』『フィフス・エレメント』『コンタクト』『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』の看板が飾られていた)や、レインボーブリッジなど東京の街並みが次々と映し出されていく。出演者やスタッフのクレジットのテロップは、白字でフチが紫。そのオープニング映像は、いまでも大滝の歌声にのって脳内で再生されるほど印象深いものである。

 曲のタイトルは「幸せな結末」だった。英語にすると「ハッピーエンド」。つまり大滝が在籍していたバンド、はっぴいえんどの名前に結びつくのだ。当時10代でまだまだカルチャーの知識が乏しかった筆者は、それに気づいたときなんだか謎を解いたような嬉しさがあった。

 同曲は終盤、〈幸せな結末 きっと見つける〉〈いつまでも 愛してる〉と歌われる。「幸せな結末」というタイトルでありながら、楽曲のなかの物語は「えんど=結末」ではなく、〈きっと見つける〉とこれから何かが始まる気配を漂わせており、また〈いつまでも〉と永遠をあらわしてもいた。「幸せの結末」は決して「終わりの歌」ではなかった部分がとても感動的だった。

 そしてそのメッセージは、主題歌制作が叶わなかった『ロングバケーション』の物語も内包しているようにも思えた。『ロンバケ』は結婚式当日に婚約者が失踪した主人公・葉山南(山口)が、その婚約者とルームシェアをしていた瀬名秀俊(木村)と新たに同居生活をはじめ、次第にお互いをかけがえのない存在として意識していくラブストーリーだ。

 脚本家の北川悦吏子は書籍『NOW and THEN 北川悦吏子―北川悦吏子自身による全作品解説―』(1997年/角川書店)のなかで『ロンバケ』について、「人生最悪の時に出会ったふたりが最終回では最良の日を迎えています、という話」と記述している。その言葉はまさに「幸せな結末」と言えるのではないだろうか。

作詞を担当したのは「多幸福」、その人物の正体

 「幸せな結末」の作詞を担当したのは「多幸福」という人物である。この作詞家の正体は、大滝が書籍『大瀧詠一 Writing&Talking』(2015年/白夜書房)で「ドラマの監督さんです。当然ペンネーム好きの私が命名したんですけど、ハッピー・エンドからさらにオオノ・コウフクね。それ以上のことはないじゃないですか」と語っており、のちに大瀧詠一、『ロングバケーション』『ラブ ジェネレーション』と大滝詠一へ主題歌オファーを続けた当時のフジテレビプロデューサー・亀山千広、演出を担当した永山耕三の共同ペンネームであることも明かされている。

 「幸せな結末」という楽曲は、大滝に主題歌を書いてもらいたいと願い続けていたドラマ制作陣の熱意と、それに応えた大滝の想いの結晶と言えるのではないだろうか。

 そしてなにより、木村拓哉が主演する月9ドラマにはそれほど大きな価値があるのだ。先述した『ぎふ信長まつり』のキムタク・フィーバーをみると、もちろんその影響力は健在であり、また30年近く、木村が日本のエンターテインメントの中心にいることを認識させる。

 そのなかでも『ラブ ジェネレーション』は、大滝の主題歌も含め、さまざまな面で特別大きな存在感を放っていたドラマだったのではないか。

※1:https://www.fujitv-view.jp/article/post-13970/

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