FAKE TYPE.がアルバム『FAKE SWING』で追求したエレクトロスウィング 再始動とメジャーデビューで生まれた変化も

FAKE TYPE.が追求したエレクトロスウィング

 FAKE TYPE.が11月16日にニューアルバム『FAKE SWING』をリリースした。

 DYES IWASAKI(トラックメーカー)とトップハムハット狂(MC/ラッパー)によるFAKE TYPE.。大ヒット映画『ONE PIECE FILM RED』劇中歌「ウタカタララバイ」(Ado)の楽曲提供でも注目を集めている彼らのメジャー1stアルバムは、“全編エレクトロスウィング”。FAKE TYPE.の音楽性の核がダイレクトに実感できる作品に仕上がっている。

 2017年から約3年の活動休止期間を経て2020年に再始動し、<ユニバーサルミュージック>よりメジャーデビューを発表したばかりの彼らに、これまでのキャリアや、新作の制作エピソードなどたっぷりと語り合ってもらった。(森朋之)

エレクトロスウィングを選んだポイントは「誰もやってない」と「やってて楽しい」

FAKE TYPE.インタビュー(写真=林直幸)
ーーメジャー1stアルバム『FAKE SWING』がリリースされます。“メジャーデビュー”は目標の一つだったんですか?

DYES IWASAKI:2017年から2020年まで活動を休止していたんですけど、その前は「メジャーデビューしたい」と思ってました。活動を再開した後、<ユニバーサル ミュージック>からお話をいただいて、二人で話し合って。

トップハムハット狂:自分としては(メジャーデビューを)意識していたわけではないんですけど、経験したことがなかったので、どういう感じか知ることはプラスになるのかなと。

ーー活動の幅も広がりそうですよね。

DYES IWASAKI:そうですね。すでにだいぶ違うよね?

トップハムハット狂:うん。まず、こんなにインタビューを受けることも初めてだし(笑)。

DYES IWASAKI:制作面でも変化がありました。これまでの作品は基本、自分たちでミックスをやってたんですよ。今回のアルバムはプロのエンジニアの方にお願いし、かなりブラッシュアップされて、洗練された音になってますね。

トップハムハット狂:音の鳴りが段違いだったんですよ。音源が上がってくるたびに、「ここの音域、どうやって出してるんだろう?」というようなことがけっこうあって。さすがプロだなと思ったし、さらに上のステージに上げてもらった感じもありますね。

ーーアルバム『FAKE SWING』は、“全編エレクトロスウィング”。ハウス、EDM、ドラムンベースなど、古き良きスウィングジャズの要素を合わせたサウンドが特徴的ですが、エレクトロスウィングに絞ったのはどうしてなんですか?

DYES IWASAKI:活動再開してから、エレクトロスウィングがさらに好きになったんですよ。以前よりも上手く作れるようになったと思うし、「俺らが流行らせようぜ」みたいな感じもあって(笑)。

トップハムハット狂:FAKE TYPE.といえばエレクトロスウィングというイメージも強いし、自分たちもやってて楽しくて。休止中に作りためた曲を解放したかったし、今回はエレクトロスウィングだけでいこうと。リリックを書く立場としても、まったく苦じゃないんです。トラックが良ければやる気が出るし、(DYES IWASAKIは)いつもストライクなビートを提示してくれるので。

ーーそもそもエレクトロスウィングの入り口はどこだったんですか?

DYES IWASAKI:Caravan Palaceの「Suzy」ですね。めちゃくちゃカッコいいなと思って。その後、この二人で音楽をやることになったときに、「エレクトロスウィングにラップが入ってるって、よくない?」という話になったんですよね。そういう音楽をやっている人は、日本には誰もいなかったので。

トップハムハット狂:うん。「誰もやってない」と「やってて楽しい」がポイントでした。

DYES IWASAKI:理解力が上がるにつれて、作る曲もレベルアップしてきて。ただ、活動休止前はエレクトロスウィングを作るのがちょっとつらくなってたんですよ。当時は“ネタありき”というか、元ネタの音をサンプリングして作ってたんですけど、だんだん限界を感じるようになって。活動再開後は作り方を変えて、ブラスの音を含めて、全部自分で打ち込むようになったんです。それが楽しくて、今に至るという感じですね。

トップハムハット狂:“ネタありき”の曲も好きだったんですけど、音源をすべて1から作ることで、さらにオリジナル性が反映されてきて。よりDYES IWASAKIのカラーが出てきたし、FAKE TYPE.のブランド力も強くなったのかなと。

トップハムハット狂(MC/ラッパー)

ーーエレクトロスウィングが日本の音楽シーンに浸透してきたのも、FAKE TYPE.の功績ですよね。活動休止中もずっと楽曲が拡散していって。

DYES IWASAKI:そうだと嬉しいですね。活動してない期間も、名前が独り歩きしていて。YouTubeの登録者数も増えたんですよ。休止前は2万ちょっとだったんですけど、再開したときは10万を超えていて、今は33万人超えなので(2022年11月現在)。こうして多くの人に聴いてもらえるのは、他の人がやってない音楽だからじゃないかと思って。

トップハムハット狂:TikTokもそうですけど、二次創作的に自分たちの曲を楽しんでくれる人も増えて。あと、最近は楽曲提供の依頼も増えてるんですよ。いろんなアーティストとつながれるのもうれしいですね。

ーー天月、超学生など、人気の歌い手がFAKE TYPE.の提供曲を歌っていて。最近ではAdoが歌唱した「ウタカタララバイ」(映画『ONE PIECE FILM RED』)が話題になりました。

【Ado】ウタカタララバイ(ウタ from ONE PIECE FILM RED)

DYES IWASAKI:「ウタカタララバイ」を作ったときは、「これは歌えないかもしれないな」と思ってたんですよ。

トップハムハット狂:自分たちとしては「これくらいハードなものも提示できますよ」という様子見な感じでデモ音源を作ったんです。もうちょっとラップの難易度を下げた方がいいだろうなと思っていたんですが、そのまま採用されて。Adoさんが歌われた音源を聴いて、完成度の高さにビックリしました。

ーーAdoさん、かなり苦戦したみたいですね。インタビューした際、歌詞の意味をいったん置いて、音として歌ってみたとコメントされていました。

DYES IWASAKI:なるほど。僕も「ウタカタララバイ」のボーカルは驚きましたし、取り組み方が素晴らしいなと感じました。

ーーでは、アルバムの話に戻って。制作はいつ頃から始まったんですか?

トップハムハット狂:去年の11月くらいかな。「トラックできたよ。どう?」「いいね。じゃあ、リリック書くわ」みたいな感じで、少しずつ曲を作って。ある程度溜まって、「アルバムにしようか。全部エレクトロスウィングだね」という。けっこうゆったりやってましたね。焦って作るのがイヤなので。

DYES IWASAKI:追いつめられるとパフォーマンスを発揮できない気がするんですよね。楽曲に関しては、とにかく盛り上げたいという気持ちが強くて。テンポ感は曲によってバラバラですけど、前提としては“踊れる”“盛り上がる”が中心でしたね。

ーー特に最初の3曲(「At Atelier」「真FAKE STYLE」「KnickKnack Kingdom」)のスピードはすごいですよね。

FAKE TYPE. "真FAKE STYLE" MV
FAKE TYPE. "Knickknack Kingdom" MV

トップハムハット狂:速いですよね(笑)。

DYES IWASAKI:たぶん「もっと盛り上げたい」と思ってたんでしょうね。前作の『FAKE LAND』で早回しのエレクトロスウィングを初めてやってみて、それで味をしめたというか。「KnickKnack Kingdom」は、まさにその感覚で作った曲ですね。最初の2曲は、過去の曲とつながってるんです。「At Atelier」は「La Primavera」の続編、「真FAKE STYLE」は「FAKE STYLE」をアップデートさせているんですけど、どちらも元の曲よりテンポを上げていて。

FAKE TYPE.インタビュー(写真=林直幸)
DYES IWASAKI(トラックメイカー)

ーーこれだけBPMが速いと、リリックを乗せるのは大変じゃないですか?

トップハムハット狂:ライブのときは歌詞を頭に入れないといけないので、それは大変だと思いますけど、「これならやれるだろうな」という範囲で作ってるので、何とかなるんじゃないかな。

ーー高速ラップはトップハムハット狂さんの得意技ですからね。

トップハムハット狂:というわけでもないんですけど(笑)、筆が乗ると言葉を詰めちゃう癖があって。今回もそれがふんだんにちりばめられていると思います。ラップに関しては、自分は日本語をハキハキ発声してカッコいいタイプではないので、ちょっと崩すことで、いい感じに聴こえたらいいなと。

ーーラッパーの先人たちの影響もあるんですか?

トップハムハット狂:それはめちゃくちゃありますね。アメリカのラップもそうですけど、日本語ラップもずっと聴いていたので。RIP SLYME、KICK THE CAN CREW、キングギドラ、妄走族とか。般若、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND、KAMINARI-KAZOKU.も聴いてましたね。もちろん1996年開催のヒップホップイベント『さんピンCAMP』も観ました。

DYES IWASAKI:僕もまったく同じですね。令和のラッパーはわからないけど、自分たちの世代でヒップホップをやってたら、必ず『さんピンCAMP』は通るので。

トップハムハット狂:登竜門だよね。DYESもラップをやってたんですよ。むしろ自分よりも早く、インターネットにラップを投稿してたので。

ーーなるほど。日本語ラップの歴史を踏まえながら、FAKE TYPE.のスタイルを作ってきたと。

トップハムハット狂:そうですね。新しく楽しいことを見つけたから、今はそれをやっている感じです。

ーーエレクトロスウィングを軸にしながら、じつは音楽性も広いですよね。今回のアルバムからも、いろいろな“異国感”が感じられて。

トップハムハット狂:単純にいろんな音楽が好きですからね。FAKE TYPE.は海外のリスナーも多いので、みんなが楽しめるテイストにしたいという意識もあって。アメリカのヒップホップもそうだし、スウェーデンのヒップホップバンド・Movits!だったり。DYESはK-POPも聴いてますね。

DYES IWASAKI:うん、K-POPの影響はだいぶあると思います。

トップハムハット狂:シンセの音色とかビートの張り方とかね。

FAKE TYPE.インタビュー(写真=林直幸)

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