日本のミュージシャンを世界に知らしめた<エレクトリック・バード> 金澤寿和とクニモンド瀧口が語り合う、稀有なレーベルの魅力

金澤寿和×クニモンド瀧口、エレクトリック・バード対談

今のシティポップ再評価と背中合わせになっている

——<エレクトリック・バード>には今まで話に出たような日本のフュージョン黄金期の名盤がたくさんあると同時に、デヴィッド・マシューズを軸にした海外のミュージシャンによる日本独自企画の作品もたくさんありますが、そのあたりはどう見ていましたか。

金澤:<キングレコード>は<A&M>とか<CTI>といった名門レーベルをライセンスしていたので、きっとその人脈のなかでデヴィッド・マシューズにつながっていったんでしょうね。<エレクトリック・バード>が面白いのは、いわゆるライセンス作品ではなくて、ジャパンマネーを使って海外のアーティストの作品をレコーディングしていったところでしょう。そういった意味でも、当時はすごく新しいことをやっていたレーベルだったんじゃないかな。

クニモンド瀧口:僕がジャズバイヤーをやっていた時は、ディジー・ガレスピーとかジム・ホールなどのカタログがあるので、てっきり海外のレーベルだと思っていたんですよ。日本人のアーティストもリリースしているのか、って(笑)。だから、<エレクトリック・バード>の成り立ちや歴史などを知って、「ああ、なるほど」と腑に落ちたんですよね。

金澤:特にデヴィッド・マシューズはキーパーソンのひとりですね。アール・クルーやグローヴァー・ワシントンJr.を看板にした作品があるんですよ。グローヴァーは<エレクトラレコード>だし、アールは<ブルーノート>と他のレーベルに拠点を置くアーティストが、どうして日本独自の企画でレコーディングできるのかが謎だったけれど、そういうのもありなのかっていうビジネスシステムも、<エレクトリック・バード>を通じて見えてきて勉強になりました。

クニモンド瀧口:確かにそうそうたるメンツですしね。ディジー・ガレスピーはもちろん、マーカス・ミラーからスティーヴィー・ワンダーまで、予算的にかなりすごいんじゃないかって心配になるくらい(笑)。

金澤:ガレスピーぐらいになると大御所だから、ギャラ云々は大して発生しなかったかもしれないですけどね。

クニモンド瀧口:そうなるとやっぱりキーマンはデヴィッド・マシューズですかね。

金澤:そこから広がったというのは確実にあるでしょうね。あと、ギル・エヴァンスがどういう役割だったのかはわからないけれど、大野俊三さんはその後からギル・エヴァンス・オーケストラに加入するし、レーベルを通してミュージシャン同士でいろんなつながりがあったんでしょう。

——今から<エレクトリック・バード>を聴き直すとしたら、どういう観点でとらえると面白いと思いますか。

金澤:いわゆる歌モノはほとんどないので、シティポップには結びつかないかもしれないけれど、例えば増尾さんの『グッド・モーニング』なんかはインストポップなんですよね。メロディもとてもきれいだし、シティポップと同じ感覚で聴けるというのが特徴かもしれない。森園さんもポップ寄りになっていくし、本多さんもブラジル音楽やラテンの要素が強い。辺境シティポップというとおかしいかもしれないけれど、今のシティポップ再評価と背中合わせになっているところもあるので、素直に入っていけるんじゃないかなと思います。

クニモンド瀧口:シティポップの文脈で聴くのもいいと思いますが、最近は和ジャズとか和フュージョンというくくりで海外でも評価が高くなっているんですよ。最初は歌モノのシティポップだったけれど、そこから派生してフュージョンまで掘り下げるようになってきたんだと思います。国内でも例えばDJ MUROさんのような人が和ジャズや和フュージョンをかけたりしていて、そういった動きに影響された若いDJが買っていたりとか。その流れで<エレクトリック・バード>を聴くのはいい傾向なんじゃないかなと思いますね。

――お二人にとってこれだけは外せない<エレクトリック・バード>の名盤といえばなんでしょうか。

金澤:やっぱりこれだよね(笑)。

クニモンド瀧口:増尾さんの『グッド・モーニング』(笑)。

金澤:あと、個人的にちゃんと聴き直さなきゃなって思っているのは、ギル・エヴァンスによるThe Monday Night Orchestra。デヴィッド・ボウイの『★(ブラックスター)』(2016年)以降、ラージ・アンサンブルが注目されるようになって、マリア・シュナイダーや挾間美帆さんみたいな人にスポットが当たるようになった今こそ、聴くべきかもしれないです。

クニモンド瀧口:大野俊三さんの『アンターレス』(1980年)は結構海外で人気があるんですが、個人的にはジャズファンクの流れで聴いていた『クォーター・ムーン』(1979年)を聴いてもらいたいですね。音の重なり具合なんかは完全にジャズファンクなんですよ。あと、12インチだけでリリースされている作品もあるので、まだまだ掘り甲斐があると思います。

■配信情報
日本を代表するジャズ/フュージョンレーベル<エレクトリック・バード>の膨大なカタログから52タイトルが配信
配信はこちら
https://bio.to/aXt4El

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