GLIM SPANKY、「不幸であれ」のフレーズの裏にある希望と愛 原点回帰のサウンドで表現する“本当の幸せ”

 今年8月に通算6枚目のアルバム『Into The Time Hole』をリリースしたばかりのGLIM SPANKYが、新曲「不幸アレ」をリリースする。不穏なイントロから始まるこの曲は、10月よりスタートしたドラマ『サワコ~それは、果てなき復讐』(BS-TBS)のための書き下ろし主題歌。「褒めろよ」や「怒りをくれよ」といった、初期グリムのシンプルかつハードな路線をさらに推し進めながら、どこかコミカルな要素も加わった一筋縄ではいかない楽曲だ。「嫉妬」や「欲望」「独占欲」など人間が持つダークな側面にフィーチャーしつつも、その先の「幸福」を歌うこの曲を2人はどのように作り上げたのだろうか。(黒田隆憲)

自分たちの過去の作品に向き合うことで気づくこともある

松尾レミ、亀本寛貴

──新曲「不幸アレ」はドラマ『サワコ~それは、果てなき復讐』の主題歌として書き下ろされたものですよね。ドラマと原作漫画について、お二人はどんな印象を持ちましたか?

亀本寛貴(以下、亀本):ドラマは僕らもみなさんと同じように、放映されている回までしか観ていないのですが、原作はお話をいただいてから最新話まで全て読みました。1話ずつ配信される、いわゆるネット連載のコミックは今まであまり馴染みがなかったので新鮮でしたね。音楽もそうですが、漫画もきっと受け取る側のフォーマットに影響されて変わっていくんだろうなと思いました。例えば、紙で読むのと、スマホで読むのとではコマ割や展開の仕方が変わってきたり。そんなことを考えながら読むのは楽しかったですね。もちろん内容もめちゃくちゃ面白かったです。

松尾レミ(以下、松尾):原作はかなりシリアスな内容ですし、とても複雑に絡み合った様々な感情を描いているので、その世界観を自分たちの楽曲にどう落とし込むかを考えながら、自分でも感情移入できるポイントを探しながら読みました。もちろん、それがドラマでどう再現されるかも気になります。

GLIM SPANKY - 「不幸アレ」Official Audio(Short ver.)

──ドラマの制作サイドからは、どんなリクエストがあったのでしょうか。

松尾:タイアップの場合、リファレンスとして海外アーティストの楽曲をいただくことも多いのですが、今回は私たちが2016年にリリースした「怒りをくれよ」をいただいたんです。

亀本:あの曲はデビュー2年目に作って、やっぱり今でも人気が高くて。そこからGLIM SPANKYを好きになってくれる人が、今でもすごく多いんです。

松尾:しかもアップテンポでハードロックな部分を前面に打ち出していて、それを超える内容にするにはどうしたらいいかを考えました。例えば「褒めろよ」(2015年)にも内包されているようなコミカルさを出すことによって、ドラマの世界観と組み合わさったときに面白くなるんじゃないかと思いながらメロディを書きましたね。

GLIM SPANKY-「怒りをくれよ」Music Video(Short.ver)
GLIM SPANKY ‐ 「褒めろよ」MUSIC VIDEO

──自分たちの過去の楽曲をリファレンスとして提案されると、「同じことはやりたくない」「これまでの焼き直しになっても意味がない」と思うことはないですか?

亀本:確かにそれはあるのかもしれないですが、同じことを素直に踏襲することについて、自分は悪くないと思っているんですよ。例えば「怒りをくれよ」にしても「褒めろよ」にしても、「この曲のいいところはどこなんだろう?」みたいな視点で、自分たちの過去の作品に向き合うことで気づくこともある。さすがにもう20代じゃないから、何も考えずにただひたすら純粋に作り続けて、毎回ヒットを出すというわけにもいかなくなってきていますしね。

──ポテンヒットに頼るのではなく「確実に当てにいく」というか。キャリアを重ねれば重ねるぶん、その精度も上がっていくのでしょうね。

亀本:それもあるし、続けていくうちに感覚も変わってくるんですよ。それによって、自分がもともと持っていた良さを忘れてしまうこともある気がしていて。「怒りをくれよ」とか今改めて聴き直してみると、本当に音数も少なくてびっくりしました(笑)。

松尾:そうだね。当時はメロディもとにかくシンプルに作ることを心がけていて。いろんな素材を組み合わせて1曲にするような、最新アルバム『Into The Time Hole』の時の作り方とはまた全然違うのですが、これはこれで素晴らしいなと思えるようになったというか。自分のメロディを作曲するときの脳でもう一度聴き直すということをこれまでしてこなかったので、そういう機会を今回もらえたこともラッキーだなと思いました。

──ある意味では原点回帰だけど、そこに至るまでに紆余曲折があったからこそ書けるメロディがあったり、「みんなが思うGLIM SPANKYらしさ」に気づいたりするんでしょうね。

亀本:そうだと思います。

──作曲がGLIM SPANKY名義ということは、まず亀本さんがトラックを作って、そこに松尾さんがメロディを乗せていくやり方だったのですか?

松尾:はい。亀の作ったコード進行が結構シンプルだったので、そこにどうやってストーリー性のあるメロディを乗せるか?を考えました。

亀本:例えば「褒めろよ」はマイナーなコード進行の上にマイナーペンタトニックのメロが乗っている。だけどあまり暗さは感じず、むしろ明るくすらあるのはなぜなんだろう?ということを松尾さんと話しました。そこが音楽としてコミカルに感じる部分でもあるのかなと。

松尾:「不幸アレ」のトラックは、コードだけ聴くとパワーコードでマイナーともメジャーとも取れるような響きだったので、そこに暗いメロディを乗せることも、明るいメロディを乗せることもできる。具体的に言うと、まずAメロの部分は妖しい導入にしたかったので暗いメロディを乗せ、Bメロでは一転して明るいメロディを乗せることで、「この曲は明るいんだか暗いんだかよく分からないな」みたいなコミカルさが出ると思ったんです。

──なるほど。確かにBメロになると急にメロに浮遊感が出てくる。

松尾:そうなんです。で、サビで再びマイナーメロディになって強さが生まれるという。

──しかもサビは、ドラムもスネアの4つ打ちになったりリズムがハーフになったり、目まぐるしく展開してジェットコースターに乗っているような感覚になります。

亀本:まさに。ギターリフを弾いているところは2、4でスネアが入るシンプルな8ビートですが、BPM160ちょっとくらいのテンポの楽曲の歌メロのサビがそれだと、あまりにもJ-ROCKすぎるというか(笑)、ありきたりな印象がでてしまうので、とにかくサビでドンタン、ドドタンはやっちゃダメだ! の一心で、なんとかそこを避けて通るためにいろいろ試行錯誤した結果、まずスネアの4つ打ちはOKで。

松尾:ジャニス・ジョプリンの「Move Over」的なね。

亀本:でもずっとそれだと退屈だから、メロディや歌詞に合わせて途中でハーフをはめて緩急をつける。今のリスナーは急激な展開に割と対応できる気がしているので、リズムが複雑に変わってもきっと大丈夫だろうなと思ったんです。

松尾:タイアップなので、お茶の間にも馴染みやすく、なおかつGLIM SPANKYとして「ハードロックっぽさ」をどう解釈するか。亀のリフにしても私のメロディにしても、今回はそこへの挑戦だったんです。個人的には結構攻めた曲ができたんじゃないかと思っています。サビの最後の〈不幸であれ〉のメロも、「ここは思いっきり振り切ってしまおう」という感じで作りましたね。

亀本:自分たちらしさをちゃんと出しつつ、ドラマ制作側のリクエストにもしっかり応えて作った楽曲です。

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