藤井風「damn」MVを観て 自問自答と前向きなゆるさに象徴される生き方
今年の藤井風から感じる“前向きなゆるさ”
こうした作品のコンセプトに至った背景には、現在の彼のモードがあるように思う。今の彼には、肩肘張らずに進んでいきたいといった“前向きなゆるさ”を感じる。それこそMV冒頭の“カッコつけた藤井風”を自ら否定するような、いい意味での軽さがあるのだ。
話を一年前に巻き戻そう。2021年は藤井風にとって、まさに快進撃と言うべき一年だった。テレビドラマ『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)の主題歌に書き下ろした「旅路」に始まり、Honda『VEZEL』のCMソングとしてヒットした「きらり」を経て、Google Pixelとコラボした「燃えよ」に至るまで年間で3つの新曲を発表。その間にはアリーナツアーを含めたライブ活動も積極的に敢行した。とりわけ日産スタジアムにてピアノ1台だけで行った配信ライブは記憶に新しい。また年末には『NHK紅白歌合戦』に出場し、サプライズで会場に登場したかと思えば、大トリのMISIAのステージでは自身が提供した「Higher Love」でコーラスと演奏を担当。同番組の大団円的なラストに一役買っていた。
こうした目覚ましい活躍によって、去年は彼の存在を初めて知った人も多いことだろう。しかしこの怒涛の期間を通して、ある種の崇高なイメージが出来上がってしまったことは否定できない。アーティスト特有のどこか犯しがたい神聖な雰囲気と言えばよいだろうか。
今年の藤井風からは、そうしたパブリックイメージからあえて逸脱していくような活動が散見された。例えば4月に放送された『藤井 風テレビ with シソンヌ・ヒコロヒー』(テレビ朝日)がその好例だ。いま旬のお笑い芸人たちと共演し、自身初のコントに挑戦。ボケたりつっこまれたりする彼の姿に、普段のステージ上の彼とは違った魅力を感じて親近感を覚えた人もいたのではないか。それまで雲の上の人のような存在だった藤井風が、地上にふらっと降りてきたような不思議な空気を感じた。続いて5月から開催されていたツアーでは、終始リラックスした雰囲気によるアットホームなライブ作りが徹底されていた。いずれもどこか肩の力が抜けたような印象を受けるものだった。また雑誌『MUSICA』のインタビューでも彼はこんなことを話している。
「自分自身もいい意味で脱力感というか、ゆとりを持って生きていけたらいいなと思うし。それは音楽に対してもそう。もちろん力を抜くためには頑張らないといけない部分もあると思うけど、それも込みで力を抜いていけたらいいなっていうところは何となくありますね」(『MUSICA 2022年5月号』より)
脱力、ゆとり、力を抜く……。2022年の藤井風からは、こうした意識を随所に感じる。だからこそ、MV序盤の過去の自分に、これでもかというほどカッコつけさせているのだろう。ラストのオチで見せる渾身の変顔とポーズにこそ、今の“前向きなゆるさ”を持った彼の真髄が表れているような気がするのだ。
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