エルヴィス・プレスリー、The Beatles、Sparks……伝記映画はなぜブームに? 閉塞した現代社会を生きるヒント

 ところで、もともと伝記映画やドキュメンタリー映画は昔からあるもので、決して目新しいジャンルではない。それがいまになって数多く制作されているのはなぜだろうか。

 その一因として、昨今の閉塞的な雰囲気が考えられる。さまざまな制限を強いられるコロナ禍での不自由な生活と、出口が明確に見えない不安。ロシアのウクライナ侵攻による緊張状態と、そこから生じる世界的な経済危機。混沌とした現代社会にあって、人々はかつて慣れ親しんでいたロックスターの人生に触れ、そのアーティストへのシンパシーと、過去へのノスタルジーと、そしてそのアーティストに夢中になっていた当時の自分の活力を追い求めているように思える。

 映画の多くは、そのアーティストが決して順風満帆に活動を続けてきたわけではないことがしめされる。さまざまなトラブルや困難にぶち当たり、肥大化していくプレッシャーやストレスにもがき苦しみながら、周囲の人やファンに支えられ、なんとか前進していこうとする姿を映し出す。そこに要するエネルギーは相当なものであるはずだ。人々は、そんなタフな人生を乗り越えてきたアーティストにポジティブなエネルギーを見出し、それを自身の生き方のヒントとして享受しようとしているのではないだろうか。閉塞した社会を生きる人々のそんな心理が、昨今の伝記、ドキュメンタリー映画の流行の一端となっているような気がしてならない。

 アーティストをテーマにした映画は、これからも目白押しだ。BEE GEES、ランディ・ローズ、ホイットニー・ヒューストンらのドキュメンタリーは年内の日本公開が決まっている。デヴィッド・ボウイの作品も来春に日本で観られるようだ。

 昨年末にネット配信され、後に劇場公開もされた『ザ・ビートルズ : Get Back』に続くThe Beatlesの新作映画も公開されたばかり。『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』なるこの作品は、彼らが文字通り、バンドとしても、人間としても“さまよっていた”時期をテーマにしたドキュメンタリー。まったく違ったシチュエーションではあるが、当時のThe Beatlesの姿は、閉塞した現代を生きる人々になにかしらのメッセージを投げかけるのではないか。

『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』予告編

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