「羽生結弦だったら絶対に最後までやり切るぞ」が魔法の合言葉 Toshl、表現者として人生の転機になった出会いを語る
カバーアルバム第3弾『IM A SINGER VOL. 3』をリリースしたToshI。音楽番組やバラエティでも活躍、画家としての顔も持つ彼に「人生の転機となった出会い」について聞いた。(森朋之)
「羽生さんの一挙手一投足すべてに心が震えました」
——ToshIさんはシンガー、画家を中心に幅広く活動されています。様々な活動のなかで、人生の転機となった出会いはありますか?
ToshI:羽生結弦さんとの出会いは非常に大きかったですね。出会いは2019年の『ファンタジー・オン・アイス2019』。僕の楽曲「マスカレイド」と「CRYSTAL MEMORIES」でコラボレーションさせていただいたのですが、ものすごい衝撃を受けました。羽生さんはアスリートとして、嘘偽りのない勝負の世界を生きてこられた方。短い期間でしたが、その凛としたお姿を間近で見させていただいて、ストイックな姿勢に感銘を受けました。演技はもちろん、立ち居振る舞い、礼儀正しさ、周囲の人たちへの心遣い、感謝の心も素晴らしくて、またユーモアや無邪気な面とのギャップも。羽生さんの一挙手一投足すべてに心が震えましたね。
——オリンピックをはじめ、国際的な舞台で歴史に残る活躍をしながら、常に高いレベルを求め続けるスケーターですからね。
ToshI:二人でお話をさせていただく時間も少しあったのですが、体の状況も精神的なことも、本当に大変な世界なんだなと実感して。しかも羽生さんは、それを表に出すことがないし、言い訳を一切しない。何が起きても受けて立ち、チャレンジを続けていらっしゃいますし、何度転んでも立ち上がる。その姿には、孤高の職人魂も感じます。周りの評価に関わらず、自分が目指すものに向かって、コツコツと努力を続けて。実はレコーディング作業も同じ様な感じもします。地味な作業を積み重ね、その作品に魂を込めるという。
——なるほど。“肉体を使った芸術表現”も、フィギュアスケーターとシンガーの共通点ですよね。
ToshI:羽生さんと比べるのはまったくもっておこがましいですが、歌を歌って表現するというのは、メンタル、フィジカルを使うという点で、アスリートと確かに共通しているところはあるかもしれないですね。僕は若い頃から、漠然と“表現者になりたい”と思っていたんです。羽生さんはまさに表現者ですよね。『ファンタジー・オン・アイス』で、羽生さんのフィジカル、メンタルを駆使して、芸術性を極限まで高めた表現者としての存在感は、言葉にならぬほど圧倒的でした。
——羽生さんから受けた影響は、どんな場面で感じますか?
ToshI:創作活動などをしているなかで、チャレンジに直面すると、臆病になること、逃げたくなることもあるんですが、そういうときに「羽生結弦だったら、どうするだろう?」と考えるんです。「ゆづだったら絶対にあきらめない。逃げ出したい時ほど、そこへ飛び込んでいくはずだ」と自分を奮い立たせます。特に絵を描いているときは、そういうことが多くて。絵は歌よりもさらに深く自分の内面と向き合う必要があったり、根を詰めてひたすら描き続けなくてはいけない時もある。基本的には自分の楽曲をテーマに描画しているので、たとえば「マスカレイド」の世界に深く深く潜っていく必要があって。そこにはどんな叫びがあって、それはどんな色、形なのかを捉え、それを筆に宿す——。それは自分の痛みや傷を抉ることでもあって苦しくて逃げ出したくなる時もある。そんな時に喝を入れてくれるのが、「羽生結弦だったら、絶対に最後までやり切るぞ」という魔法の合言葉です。先日も、100号キャンバス10枚使用した横幅8メートル以上ある大作を、何カ月もかかって描き切ることができました。魔法の言葉、結弦効果絶大です(笑)。
——表現に向き合うパワーの源になっている、と。
ToshI:そうですね。もう一つ、絵を描くことで、それが歌に返ってくることを経験したことも大きなことです。楽曲を絵として描いた後に、その楽曲を歌うと、歌の表現がさらに深みを増していることに気づきました。そのことを含めて、羽生さんとの出会いは、自分にとってこれ以上ない絶妙なタイミングで、これ以上ない本当の本物と出会わせていただいた、衝撃的な出来事だったのです。心から感謝しています。