西方裕之、男女の幸せを歌った「おまえひとりさ」が異例のヒット 35年超えキャリアのルーツに迫る
終わったと思った後に訪れた自身最大のヒット
——シングルにはもう1曲「遠花火―新録版―」を収録しています。この曲は3枚目のシングル表題曲で、それを新たにレコーディングし直したそうですが。
西方:はい。この曲はデビューから3作目の曲で、前の2作は男歌だったんです。でも男歌が売れなくて、じゃあ女歌にしようということでレコーディングしました。でもこの時は、「俺はもう終わったな」と思いました。
——どうして終わったと思ったんですか?
西方:僕は、男歌でずっとやっていきたかったんです。だから女歌にしようと言われた時は、目の前がガラガラと崩れていくようでした。本当のことを言えば、歌いたくなかったです。でも言われるがままレコーディングして、発売したもののやっぱり全然売れなくて。それが半年くらい経った時、湾岸戦争の影響でニュース番組の緊急放送があったりして、歌番組の放送時間がズレることが増えて。ある時、たまたま自分の出演した歌番組が固まって放送された時があって、きっとそれを多くの人が観たんだと思うんですけど、それ以降カラオケで歌ってくれる人が増えたんです。それで知らない間にこの曲が、一人歩きし始めた。当時のメインの仕事はキャンペーンだったんですけど、地方のキャンペーンで「遠花火」を歌うと、「俺もよく歌っているよ」とか「また来てください」と言われるようになって、次にまた行くと拍手で迎えられるようになっていた。そこで「あれ? 少し売れてきたのかな?」って感じるようになって、丸2年「遠花火」を歌って、結果的に当時は25万枚くらい売れ、自分の一番のヒット曲になりました。それでレコード会社の移籍も経て35年経った今の西方裕之で「遠花火」を歌ってみませんか、というお話をいただいて、じゃあやりましょうと。
——巡り合わせというか、人生は面白いものですね。
西方:はい。当時は渋々という感じでしたけど、今はもう好きな曲になっていますから。だから今回はどうやって歌おうかと、いろいろ考えました。20代の自分よりも下手には歌えないし、でも改めて聴き直すと荒削りな部分がたくさんあって。なので変に「上手くなったでしょ!」というものにするのではなく、荒削りなところを少し直して、あまり変わらない印象になるように歌ってみようと思いました。角張っていた部分をちょっと削るみたいなイメージというか。歌手の方でよく自分の歌を歌い直す方がいますけど、正直言ってオリジナルのほうがいいって思われることが多いんですよ。
——分かります。
西方:だから、「オリジナルのほうが良かった」と言われないように、当時の自分の歌声に近くなるように歌ってみました。
——夏の季節にぴったりの曲で、橋の上で男女二人が花火を観ているという情景がすごく伝わります。
西方:そうなんです。この曲は、気持ちと言うよりも情景描写を歌っていますね。
——「おまえひとりさ」は、コロナ禍で再確認した絆や愛情を感じさせますし、「遠花火」は花火大会に行けない人が、これを聴いて花火大会に行った気持ちになってくれたらといった、コロナ禍であるからこその、存在意義みたいなものも感じさせますね。
西方:今年の花火大会はたくさんの人が観に来ていますよね。ようやく人の営みみたいなものが少しずつ戻ってきているのかなと思いました。でも、このシングルをリリースしたのは2月で、レコーディングした頃はもっと前なので、まだ先が読めない状況でもあったから、歌を聴いて花火を観た気持ちになってほしいなと思いながら録っていましたね。
——ちなみにコロナ禍のおうち時間の時は、何かハマりましたか?
西方:自分で家のリフォームをしていました。そもそも宅録をする時に、音が漏れないように始めたのがきっかけです。最初は部屋の防音をやって、その後は庭の手入れです。
——庭もいじり始めると、凝っちゃうんでしょうね。
西方:もう大変です。ホームセンターで25キロのコンクリートの袋を40袋買って来て、自分でコンクリートを敷いているところです。あとは門扉を作ったり、庭に階段をつけたり、表札も自分で作りました。
——すごいですね。
西方:表札の文字も自分で書いたんです。最初は業者に頼んだんですけど、ちょっとサイズが大きいのもあって「3カ月くらいかかる」と言われて。そんなに待てないと思って、自分で作ることに。何でも思いつきで、いろいろ自分でやっちゃうんです。
——プロフィールにも自転車や、アコースティックギターの収集など多彩な趣味が書かれていましたね。
西方:アコースティックギターは一時100本くらい所有していたんですけど、ひと部屋全部使っても収まりきらなくなってしまったので、泣く泣く減らすことにしたんです。愛着もあるのでなかなか減らせなくて、演歌歌手がこぶしを抜くのと同じくらい大変でした(笑)。最終的に30本くらいまで減らしたんですけど、それでもまだ多いかなって。
——アコースティックギターは、厚みもあるので場所を取りますよね。
西方:そうなんですよ。積み重ねるにしても限度があるし、ケースも四角じゃないものもあるから、テトリスみたいに上手くハマらないんですよね(笑)。自転車も今は8台あります。
——それも折りたたみ自転車だそうですね。
西方:はい。小径自転車と呼ばれる、タイヤの直径が16〜18インチくらいのものばかりです。自転車は自分でカスタムできるので、乗ることよりもカスタムするのが楽しいんです。
——基本的に凝り性なんですね。
西方:凝り性で欲しがり。だからどんどん集まっちゃうんです。最近は地方キャンペーンにもなかなか行けないですから、趣味に費やせる時間が増えています(笑)。
——では最後に、今後の目標などあれば。
西方:カラオケでみんなが歌う、聴く人もみんな知っている曲。「おまえひとりさ」を、そういうスタンダード曲にしたいです。ヒットさせることが大前提ですけど。
——あとは、この勢いで『NHK紅白歌合戦』出場とか。
西方:それは誰もが抱く目標の一つですよね。ただ最近は、庭の手入れで蚊に刺されるわ、日焼けするわで、仙人みたいな生活をしているので。またここから気持ちを引き締め直して、「おまえひとりさ」を一人でも多くの人に届けられるように頑張りたいです。
■リリース情報
西方裕之『おまえひとりさ c/w 遠花火―新録版―』
2022年2月9日リリース
1,273円(税抜)
M1「おまえひとりさ」 作詩:万城たかし/作曲:弦哲也/編曲:南郷達也
M2「遠花火―新録版―」 作詩:竜はじめ/作曲:徳久広司/編曲:南郷達也
M3「おまえひとりさ」 オリジナルカラオケ
M4「おまえひとりさ」 一般用カラオケ
M5「遠花火―新録版―」 オリジナルカラオケ
M6「遠花火―新録版―」 一般用カラオケ