花譜、『不可解参(狂)』で掲げた“MAD”の真意とは? 日本武道館で観測者に届けた狂おしいほどの愛

花譜『不可解参(狂)』レポ

 花譜がステージ上に戻ってきてからもダンスタイムは終わらない。ライブは第二部『THE PARTY』に突入していく。

 「ダンスが僕の恋人」を東京ゲゲゲイのMIKEYと、ORESAMAがひっさげてきた新曲「CAN-VERSE」、ガールズグループ・VALISとのコラボ楽曲「神聖革命バーチャルリアリティ」と、ジャンルの垣根を超えたアーティスト達と、息つく間もなく歌い踊る。

 ここで、アニメーション映像が流れ始めた。未来感のある街並みの中に停まっている一台の車。その運転席に座る幸祜が映し出された途端、会場に歓声があがった。後部座席にはヰ世界情緒、春猿火も乗っている。3人は花譜のいる武道館に向かおうとしているのだが、渋滞で間に合いそうもないようだ。困り果てる3人の前に現れた少年は、いつも花譜のそばにいるラプラスに姿を変え、空を泳いで3人を運んでくれる。「なんとこの武道館にV.W.Pのみんなが来てくれました!」と花譜が紹介すると、「来ちゃった。ラプラスに乗って」と3人がおちゃめに登場した。

 春猿火「緊張具合がいつもの100倍くらいすごくて。呼んでくれてありがとう」、ヰ世界情緒「上空から見ててもわかるくらいキラキラしてたよ」、幸祜「やばいね。緊張と迫力と熱気と身体の震えを感じる」とそれぞれに感想を述べる。同じユニットのメンバーがステージ上に上がったことで、花譜も一気にリラックスした様子で年相応の素を感じさせる姿でメンバーと言葉を交わす。

 この場に不在のもう1人のメンバー・理芽について、花譜が「理芽ちゃんは留学中ということで寂しいですが……」と言いかけた時、「ちょっと待った!」という声がかかる。「花譜ちゃんの武道館ライブに駆けつけないわけにはいかないなと思って本日一時帰国しました!」と理芽が登場し、会場に再び歓声が沸き上がる。V.W.P全メンバーがそろい踏みしたところで、5人は花魁鳥の衣装にチェンジ。ライブ第三部『FRIENDS』が開幕する。

 ヰ世界情緒との「深淵」、理芽と「魔的」、春猿火と「残火」を、そして、幸祜と新曲「歯車」を、メンバーを入れ替えながら立て続けに歌い上げていく。それぞれに歌唱した4人は「熱気がすごいね!」「いざ立ったら本当に広いなって思った!」と興奮冷めやらぬ様子で武道館ステージの感想を述べる。花譜も「会場の空気が美味しいね。ビニール袋に入れて持ち帰ろうね」と、花譜らしい独特のコメントを述べた。そこから全員で歌うのは「共鳴」。5人が並んで振りを踊るのがかわいいこの曲で、会場の一体感、お祭り感が最高潮となり、〈私たち最強なんだから〉という歌詞が力強く、高らかに響き渡った。

 4人から激励のメッセージをもらった花譜は、ボリュームのある尾のシルエットが特徴的な黒い新衣装、特殊歌唱用形態「軍鶏」に衣替え。『(狂)』のステージはついにクライマックスへと向かう。

 連作である「過去を喰らう」「海に化ける」を歌った後、その続きであり完結編となる新曲「人を気取る」を歌う。大人になることに怯え、大人になることをやめる、そして何かを諦める。そんな三部作完結編は、この日が初披露とは思えないほどの没入感と盛り上がりを見せた。

 ここで、改めて花譜はこのライブの意図について語った。

「今回の『不可解(狂)』の「狂」は狂う、MADとも捉えられるし、「あなたに夢中」とも取れると思います。花譜の活動は大変な世の中と連動してきました。その大変な日々がやっと落ち着いてきたと思ったら戦争が起きてしまって。それで今回のライブは、ちょっと馬鹿馬鹿しいくらい元気になれるものにしたいとプロデューサーさんと話しました」

 この説明により、ライブ当初で見せた花譜の今までにない明るさの理由が明かされた気がした。

 次いで歌うのは、このライブのテーマでもある「不可解」。この曲は唯一撮影が許可され、会場にぽつぽつと観客のスマートフォンの光が灯る。ポエトリーリーディングのような趣の強いこの曲は、花譜の声自体の魅力を分かりやすく示す楽曲だ。

 そして、連作である「未観測」、さらにその続きであり完結編となる新曲「狂感覚」を披露。レーザーの光がプラネタリウムのように武道館の高い天井に散る。

 ライブのラスト、画面にゆっくりと浮かび上がったのは、「VIRTUAL SINGER SONGWRITER KAF」の文字。会場には、驚きと共にどこか納得するような拍手が沸き上がった。戦闘服のような「軍鶏」から、ありのままの一人の少女であることが際立つワンピースへと着替えた花譜は、自身が作詞作曲を手がけた「マイディア」を歌う。

「私は高校1年くらいの時に曲を作り始めました。まだぺーぺーですが、自分の曲が大好きです。そして、私にとって大事な人、「マイディア」は、私の歌を聴いてくれるあなたでしたす。花譜はたくさんの人の愛やお力で成り立っています。ずっと変わらずにいられたのは歌が楽しいということで、その歌を誰かが聴いて好きでいてくれることがいつだって一番の支えです。思考のキャパが狭くて語彙力もなくて自分の内情を話すのが苦手だった私は言葉を飲み込むこともありました。それでも、自分の言葉で伝えたいと思うようになり、なりたい自分も、鮮明になっていきました」

 そう語る花譜は、これまでのライブのMCやラジオ、そのほかの場面で発信されるコメントからもその思慮深さ、言葉選びのこだわりが滲み出ていて、歌い手としてのみではなく、いずれ自らも創作する表現者になっていくのであろうことはうっすら予感はあった。

 実際、「マイディア」での聴く者の想像を掻き立てるような言葉選び、韻を意識した詞は、高いレベルでその世界観が完成されたものになっていたように思う。何より、花譜自身が自分の楽曲に対してはっきりと「大好き」と言えることが、これからの花譜のソングライターとしての未来を明るく照らしている。

「みんな私に居場所をくれてありがとう。私を武道館まで連れてきてくれてありがとう。みんなと見た景色、私は一生忘れません。また新しい景色をみんなと一緒に見たいです。どんなに暗い悲しみにまみれた世界でも明るく楽しく生きていくぞ!」

 途中涙ぐみながら、けれど最後には「らしい」言葉で明るくライブを締めくくった花譜。

 花譜が新たな何かに挑戦していくことは、花譜一人の活動におさまるものではなく、これから花譜に続くあらゆるバーチャルアーティストの可能性を広げるものになる。そういう意味で、その活動は自身のファンのみならず、多くの人間から「観測」されているはずだ。『不可解参(狂)』の一夜で、武道館という場に踏み切り、いくつもの次元を超えたコラボレーションを披露し、自身もソングライターとして踏み出した花譜の一歩はとても大きなものになっただろう。

 エンドロールの最後に明かされたライブの正式タイトル『不可解参CRAZY FOR YOU』。パンフレットには「君に夢中になる。「だれか」や「なにか」を愛する事が、きっと世界を動かすクレイジーな原動力」とある。瞬きする間もないほどの展開を見せたこの夜のライブはまさしく熱狂であり、花譜のそのチームが生み出す世界に夢中になる時間だった。

※1 『不可解参(狂)』公式パンフレット

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