yama、周りからの叱咤激励に奮い立った1年を振り返る 『Versus the night』は決意のアルバムに
yamaが2ndアルバム『Versus the night』を8月31日にリリースした。
今作にはVaundyが提供した「くびったけ」(映画『線は、僕を描く』主題歌)をはじめ、川谷絵音が提供した「スモーキーヒロイン」や、ササノマリイ提供「ライカ」、DURDN提供「マスカレイド」、ACIDMAN 大木伸夫による「光の夜」「世界は美しいはずなんだ」といった豪華アーティスト陣によるバラエティに富んだ作品が収録。「それでも僕は」では作詞作曲に初めて挑戦するなど、これまでのyamaのイメージを更新するような新しさのある一枚になっている。
2020年に発表した「春を告げる」が大ヒットを記録し一躍注目を浴びたyamaだが、それによっていわゆる“夜系”なるシーンの代表として扱われたことが苦になり、一時はそうした曲を聴くことすら嫌だったと明かす。そして転機となったのが昨年のツアーで、とある公演で上手くいかないことがあり、yamaはそこで一度逃げ出したという。“自分自身との戦い”がテーマだという今回のアルバムは、そんな自分自身の弱さと向き合ったこの1年の思いが込められている。yamaがそこからどのように立ち直ったのか、そしてなぜ再び音楽の道を選んだのか、赤裸々に語ってくれた。(荻原梓)
「自分自身と向き合わなきゃいけない」と思い至るまで
ーーここ数年のyamaさんは一人で歌を録って投稿してきた時代から、人と関わって曲作りをして、さらに人前でライブをするに至るまで物凄く激しい変化を経験してると思います。yamaさん視点でこの数年間を振り返ってみると、どういったものだったんでしょうか?
yama:もちろんアーティストとしての自覚を持ち始めたという意味では変化してますし、自分のことをこういう風に話し始めたのも最近のことなので、みんなに見えていたyamaという人間味のない像から、どこか本来の自分に近づいていってる感じというか。今だんだんと素の自分をお見せできてるのかなと思います。
ーー以前は“音楽シーンに彗星のごとく現れた謎多き天才シンガー”のようなイメージがありました。
yama:その肩書きがキツかったんですよ(笑)。全然完璧じゃないし、恥ずかしくなっちゃうんですよね。本当はそんなことなくて、小さい失敗でもうじうじしちゃうし、ライブとか好きじゃなかったし、めちゃくちゃ人間臭いんですけど、そこは意図的に隠してきたんです。カッコつけたいなと思って。それをしなくなってきて、ようやく最近「親近感が湧きました」と言ってもらえるようになったり、共感してもらえたり、よりグッと入ってくれるファンは多くなったのかなって。
ーー逆にそれで悩むことは?
yama:もちろんありますね。最近悩んだのは、自分が言葉にすることで傷つく誰かがいるのはどうしても回避できないなと。
ーー昨日Instagramのストーリーに上げていた話ですか?(※投稿はすぐに削除された)
yama:あ、見ちゃいました? さっきそれで「書くなよ!」ってスタッフから注意されてて。でもどうしても耐え切れなくて……。というのも、自分が作詞作曲した「それでも僕は」のMVを監督までさせてもらったんです。ファンの中からエキストラを募ったんですけど、抽選で外れてしまった人や参加できなかった人から色々なご意見をいただきまして。「傷ついている」と直接言葉で伝えられてしまったり。ファンを思って書いた曲でもあったので、それが逆にこうやって武器になる瞬間もあるのかと。なんか難しいなって。
ーー文章からも悩んでるのが伝わってきました。
yama:これからも自分が意思を持って発言していく度に、そういう人は増えていくと思います。でも正直、後悔はしてなくて。今回は寄り添えなかった人もいるけども、「自分はこれをやりたかったんだ」っていう選択に関しては後悔してないですね。これまで(自分を)明かしてこなかった分、yamaという理想像がみんなに出来上がってるわけですよ。そことはどんどん乖離していくと思います。それで失望したと思われることもあるだろうし、でも逆に人間味があって面白いと思ってくれる人もいると信じてます。
ーー活動を進めていくとどうしてもそういうことは増えますよね。
yama:ありますよね。万人に受け入れられるわけじゃないと思うので。全員に好かれたいと思っちゃうんですよね。でもそういうことがあったとしても、自分の楽曲を作ったことと、エキストラとして参加してもらったこと、ファンの方とMVを作り上げたことに関しては絶対に後悔してないし、むしろこれからも大切な曲になるだろうなと思ってます。
ーーそんな中で2ndアルバム『Versus the night』がリリースされます。今作のテーマは“自分自身との戦い”だそうですが。
yama:今話したことともちょっと重なるんですけど、いつもどこか取り繕いがちで、そのせいで逃げ道を作っちゃうんですよね。ライブは苦手だからとか、作詞作曲も才能がないからって逃げてたんです。でもそういうことをするのはもう良くないなと。自分の道を自分で狭めてると気づかされることも多くて。今年はちゃんと自分自身と向き合わなきゃいけない年だなと思ったんです。
ーーこのアルバムタイトルは、去年と一昨年に開催した配信ライブのタイトルでもありますよね。
yama:当時は「春を告げる」がヒットしたことで、いわゆるインターネット発の“夜系”と言われるジャンルに括られることが多くて。そこから抜け出したい気持ちとか、自分はもっといろんなことができるのにっていうもどかしい思いがあって。その時は“夜と戦う”という意味でこのタイトルをつけたんです。それも今回のテーマに含まれてますね。
ーー“夜系”に括られることに対する反抗心があったと。
yama:今でもずっとあります。それまでは普通に聴けてたんですけど、そのせいでそういう音楽を楽しく聴けなくなっちゃったりして。自分が同じ土俵に立ってしまったので。
ーーむしろその代表みたいな存在になりましたよね。
yama:それがキツくなっちゃって。昔は色々と分析とかして素直に楽曲の魅力を楽しめてたんですけど、いざそこに括られてみると心から楽しめなくなっちゃったんです。(“夜系”のジャンルは)顔を出さない方が多いので、そんな中でどうにかライブをして差別化を図りたいと思ってたところ、提案してもらったのがあの配信ライブでした。
スタッフ:「春を告げる」で“夜系”に括られたことは本人的にはキツかったんでしょうけど、一番はyamaにとっての十字架が「春を告げる」になっていたことなんですよね。あれだけの社会現象になって、“一発屋”で終わるのではなく、それと戦おうっていう意味合いもスタッフ側としてはありましたね。ヒット曲を作ろうという。
ーー「春を告げる」を超える曲を作ろうという思いもあるんですね。
yama:あります、あります。
ーーあの配信ライブは当時衝撃的でしたが、一方で特設サイトに載っていたステートメントも印象的でした(※1)。「孤独とは、前に進むためには、必要な時間なのかもしれない」という最後の一文に救われた人も多いんじゃないかと思います。コロナ禍やSNS社会で物理的にも精神的にも「孤独」になる瞬間が多い時代かと思いますが、yamaさんはどんな時に孤独を感じ、それをどのように対処してますか?
yama:昔から変わらずあるもので、常に感じてます。家族とか友人はいるんですけど、それでもやっぱり孤独感は拭えないですね。アーティストとして責任を取るのは自分だし、そこからは逃げられないものだと思ってます。でも最近は考えてることを周りの人に言うようにしてて。今までは自分で解決しようとしてパンクしちゃうことが多かったんですけど、「こんなことで悩んでてしょうもないな」ってことも、とりあえず誰かに話してみようと思って。人と共有するようにしてからちょっと楽になりました。人に話すこと、荷物を分けることは大事かなと思います。
ーー例えば人から掛けられた言葉や、何かの作品によって救われた経験はありますか?
yama:言葉には救われてますね。スタッフさんに「お前の音楽が好きでここまでついてきたのに」と言われて立ち直ったこともあります。
ーーというと?
スタッフ:去年逃げ出したんですよ。
yama:……そうなんです。ライブで上手くいかないことがあって、もう自分は人前に立つ資格なんてないなと思って殻に閉じこもっていた時があったんです。誰とも一切会話しないし(スタッフと)ずっと険悪なムードが続いてて。自分も怒られる理由は理解してたんですけど、お互いに話し掛けないみたいな状況でした。そんな時に、よく交流してるALIのLEOさんとその奥さんの(藤井)萩花さんが声を掛けてくださって。「そのステージに立ちたくても立てない人がたくさんいる中で、あなたが自分で選んでそこに立っているのに、これからそうやって何の意志もない状態で周りの人に操作されながら活動していくんだったら、もうやめて帰った方がいい」と言われて。そこでハッとさせられたんです。ここまで選択してきたのは自分であって、これからも歌い続けたいと思って今までやってきたことを忘れてたなと。その言葉を聞いてすぐに(スタッフに)電話を掛けて「すみませんでした」と謝りました。そしたら「俺はお前の失敗に対して怒ったんじゃなくて、音楽に向き合ってない姿勢に対して怒ったんだ。お前の歌が好きでついてきたのに」と言われたんです。声を掛けてくれたLEOさんと萩花さんもですが、いろんな人にここまで助けられてます。
そこからスイッチを入れ直して、ライブにもちゃんと向き合えるようになってきて。前までは怖くて目を瞑って歌ってたライブも、しっかりお客さんの顔を見れるようになってきたりして。みんな貴重な時間を使って来てくれてるのに、無駄にさせちゃいけないなと思って。色々とこの1年で気づきはありました。
ーー周りの人からの愛ある叱咤激励に奮い立った1年だったと。
yama:そうですね。厳しい言葉を掛けてくれる人って、大人になったらいなくなると思うんですよ。本気で叱ってくれる人がいることは幸せだなと思います。そんな思いが詰まってますね、このアルバムには。そのことがあってから作り始めたので、テーマとしては重たいし、歌詞も明るくはないかもしれないですけど、でも楽曲は前よりも明るくなってるはずです。
ーーアートワークに映ってるのは羊ですか?
yama:はい。“夜と戦う”というタイトルでもあるので、寝る前に「羊が1匹、2匹……」と数えて気持ちを落ち着かせたりする夜を表す意味で羊をジャケットにしました。初回限定盤は、生き物としては同じ羊だけど、色が違ってどこか自分だけが社会から浮いてる気がしているのを表現しています。人間も同じだと思ってて、なんで自分だけ社会に馴染めないんだろうとか、自分だけが上手くできないみたいな感覚ってあると思うんです。
ーーそういう他者からの疎外感や社会における孤立感は、yamaさんの音楽活動にどのくらいモチベーションになっていますか?
yama:かなりなってますね。というか、それしかないかもしれない。曲を書く時もそうですけど、原動力は怒りだったり悲しみだったり、負の感情が多いです。そういう感情を強く感じてる時にいい表現ができていると思います。逆に幸せな時っていい曲も書けないし、歌えないんですよね。