Kenta Dedachi、メジャー1stアルバムに込めた希望のメッセージ コロナ禍による心の変化を物語るパーソナルな作品

 Kenta Dedachiからメジャー1stアルバム『Midnight Sun』が届けられた。7月末に配信リリースされた本作には、ストリーミングを中心にヒットを記録した「Strawberry Psycho」「Beau」、爽やかなポップネスが印象的なリードトラック「Sparkling Lemonade」のほか、Michael Kanekoがギタリストとして参加した「Better days」、ジャズのテイストを取り入れた「Green Eyed Monster」などを収録。彼自身のルーツミュージックと現在のグローバルポップの潮流が結びついたハイブリッドな作品に仕上がっている。コロナ禍の2年半における心の動きを反映したリリックも聴き応え抜群だ。

 8月24日には、完全生産限定盤のCDもリリース。Bonus Discには『Midnight Sun』収録曲の英語バージョンや日本語バージョン、小坂忠、AmPm、FAITH、The Burning Deadwoodsらとのコラボ曲、客演曲を収録。彼の多彩な音楽性を体験できる。

 今年4月にメジャーデビューを果たし、アーティストとして新たなフェーズに入った Kenta Dedachi。本作のリリースにより、そのグローバルな才能はさらに幅広いファンに共有されることになるだろう。(森朋之)

自分の音楽で誰かがちょっと幸せになったらいいな

ーーKentaさんはLAと東京を行き来しながら音楽活動を行っていましたが、インディーズ期に発表したアルバム『Rocket Science』(2019年)以降、コロナの影響により移動が制限されて。制作などにもかなり影響があったと思うのですが、いかがですか?

Kenta Dedachi:コロナ禍になって1年くらいはまったくアメリカにいられなくなって。2021年の春からは少しずつ緩和されてLAには戻れたのですが、ルールもいろいろあって、やはり行き来するのは難しかったんですよね。制作に関しても日本のチームがLAに来られない事情があり、今回の『Midnight Sun』はすべて日本で録ってます。確かに影響はあったんですが、いくつかの決まったスタジオで制作するのはやりやすかったし、かなりラクだったかも(笑)。一緒に曲を作ってくれたプロデューサーの方々(KOSEN、Renato Iwai、Rouno、Kibunya)は皆、海外での制作の経験があって。日本で作っても日本のサウンドになるというわけではないし、今のアメリカのポップスのプレイリストに入っていてもおかしくない     と思える曲ができた。それは自分にとっても発見でしたね。

ーーソングライティングについてはどうですか? アメリカと日本では目にする光景も違うし、自然と歌詞の内容にも変化が出ると思うのですが。

Kenta Dedachi:確かにそうなんですが、たとえば「Tattooed Hollywood」は、アメリカでの生活を思い出して書いたんですよ。ほかにもLAの風景を思わせる曲があるんですけど、これまでに見てきたことだったり、自分のなかで想像したことをもとにしているんですよね。あと、映画からインスピレーションを受けて曲を書くこともあって。アメリカの映画や音楽もリアルタイムで接することができるし、LAにいなくても、海外にいるのと変わらない感覚で作ることもできたのかなと。

"Tattooed Hollywood" Music Video

ーーなるほど。アルバムには既存の楽曲も入っていますが、作品としてまとめるうえで、どんなことを意識していましたか?

Kenta Dedachi:曲順はすごく考えましたね。収録曲はほぼ全部、コロナ禍の中で書いたんですよ。なのでアルバムを聴いたときに、僕の心の動きを感じてもらえるようにしたくて。「Midnight Sun」「New Beginning」からはじまって、真ん中あたりで「Better days」「Green Eyed Monster」などのネガティブな思いを表現した曲があって、最後の「Rewind」は前向きな思いを歌っていて。アルバムを聴いていると、この2〜3年の歩みが蘇ってくるし、自分のなかでもいろんなことが思い出されますね。

ーードキュメンタリー的な雰囲気もある、と。

Kenta Dedachi:うん、そうですね。この数年はある意味、刺激的だったとも思っていて。こういう状況にならなかったら感じなかった思い、できなかった曲もあるし、それが自分の成長にもつながったので。

Kenta Dedachi Major 1st Album "Midnight Sun" Teaser

ーーアルバムのタイトル『Midnight Sun』は、北極圏や南極圏の真夏に見られる、真夜中も沈まない太陽のことだとか。

Kenta Dedachi:そうなんです。北極、南極では、30日間まったく太陽が出ず、暗闇の世界が続いたあと、24時間ずっと太陽が照り続ける期間が来る。コロナという暗い期間が明けたら、陽射し溢れるシーズンが僕達のもとに戻って来ることを信じて、この言葉をタイトルにしました。

ーーリスナーにもポジティブなイメージを与えたかった?

Kenta Dedachi:はい。僕の周りにも友達や家族を亡くした人がいるし、仕事がキャンセルになったり、多くの人がすごいストレスに晒されていたと思うんです。その最中にリリースするアルバムだから、希望のメッセージだったり、聴いてくれる人を励ませる作品にしたくて。この期間、僕自身も「自分の音楽で何ができるか?」をずっと考えていたし、それがアルバムのテーマにもつながっていますね。

ーー人々を肯定したいというのは、コロナ以前からKentaさんの表現の軸になっていたと思います。

Kenta Dedachi:ソングライティングをはじめる前、YouTubeでカバーをアップしはじめたときから、「自分の音楽で誰かがちょっと幸せになったらいいな」と願っていたんですよ。今回のアルバムに関しては、自分自身の暗い部分もしっかり出しながら、希望のメッセージを歌っているのが、以前とは違うところなのかなって。自分にとっても大切な曲ばかりですし、これまで以上にパーソナルな作品だなと思います。

ーーでは、アルバムに収録された新曲について聞かせてください。「New Beginning」は題名通り、新しい始まりを描いた楽曲です。

Kenta Dedachi:僕自身もそうだし、チームのスタッフと話すなかで、“新しいスタート”をテーマにした曲はどうだろう、ということになって。アルバムのために書き下ろした作品ではないんですが、テーマ的にもすごくフィットしていたので、序盤に持ってきました。なんて言うか、もう元の生活には戻れないし、以前の自分に100%戻ることもないと思っていて。いい意味で振り切って、気持ちを新たに進んでいこうというメッセージを込めた曲ですね。

ーー歌詞にある〈holy ground〉(神聖な場所)は、Kentaさん自身が好きな言葉だとか。

Kenta Dedachi:この言葉から、清くて、パラダイスみたいで……という場所を思い描く人も多いかもしれないですが、この曲では痛みを感じたり、辛い思いをした場所のことを表現していて。コロナになってからの1年間、大学の授業はすべてリモートだったんですが、時差の関係で夜中に授業を受けなくちゃいけなくて、身体も疲れたし、体調を崩したこともあったんですよ。でも、その中でも新しい出会いがあったし、いろんなことを知ることができて。辛い時期があったからこそ、今の自分がある。そう考えると、あのどん底の時間は“holy ground”だなと。

ーーすごい考え方ですね! それにしてもKentaさん、18歳から20歳までの期間は本当にいろんなことがありましたね。

Kenta Dedachi:そうですね(笑)。歌詞にもありますけど、18歳の頃は雑誌を読んで「こんなことをやりたい」ってハッピーな想像をしてたのに、20歳になってすぐにパンデミックになって。日本では20歳ってビッグな節目の年齢じゃないですか。それなのに何もできなくなって……。それもいい経験だったなって、今は前向きに捉えてますけどね。

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