Miricah&が描く、大都市の中で繰り広げられる恋愛模様 リアルで繊細な感情を表現した「東京3部作」を読み解く
街によって大きく雰囲気を変える大都市、東京。そんな東京の街と、その地に生きる人物を歌詞やサウンド、MVで表現し、大都会の中で繰り広げられる物語を描くMiricah&というプロジェクトがある。
Miricah&は、音楽プロデューサーであり作詞家、作曲家のMiricahが、ボーカリストとともに楽曲を作り上げるプロジェクト。人間の表向きの心だけでなく、いきいきと過ごしているように見える人物の裏側に潜むであろう葛藤や矛盾、強がりを代弁する歌詞を、都会の夜に似合うサウンド感とともに描いている。2021年12月からスタートしている「東京3部作」では、1作目で表参道、2作目では新宿を舞台にその風景や男女の関係性を描き、7月には3作目となる、渋谷を舞台にした楽曲をリリース。その地で生きる人々の繊細な感情を、ボーカリスト・himikaの歌に乗せている。
2021年12月にリリースした「あなたと表参道」は、表参道での恋愛模様を描いた楽曲だ。2000年代のR&Bを彷彿とさせるビートとシンセサイザーのサウンドがお洒落な都会の夜を思わせ、力強さを感じつつもどこか喪失感のあるhimikaの声色はサビで〈あなたと表参道 それは魅惑のランド Fake boyfriend〉と韻を踏み、メロディの中毒性を作り出している。サビに向かうBメロでも、〈I know〉と〈なしにしよう〉、〈倦怠感〉と〈罪悪感〉が同じメロディラインで奏でられることで強調されており、そのゆるやかかつ目立つ韻が聴き手を惹きつける。
相手がスーツを着こなす描写や〈ショーウィンドウ〉、〈ハイブランドの香水〉といった、きらびやかで高級感のある単語が並び、大人びた雰囲気を漂わせている本曲。そんな街に溶け込めず、相手との関係性にも満足していない、疎外感をおぼえる女性の戸惑いが随所に挟まれることで、リアルな心情を描いている。
新宿を舞台にした2作目「SHINJUKU without you」は、導入の落ち着いたキーボードが悲しみを誘う楽曲。ローテンポと打ち込みのビートが夜の都会を彷彿とさせる雰囲気は「あなたと表参道」と共通するものがあるが、イントロの中盤で登場する残響のないキーボードのリフが、街の煌々とした雰囲気や人の多さを印象づけるようでもある。
かつてのパートナーを、その思い出の地である新宿にて回想する本曲。〈あなたのいない新宿の街で 1人で呑むの もうどうにでもなれ〉とサビの終盤ではアルコールとともに未練を飲み込む。2コーラス目では〈あなたが「好き」と言ってくれれば アルコールがなくてもハイになれるの〉という歌詞もあり、そこには諦観や後悔がにじんでいる。
歌詞には喪失感と諦観が漂い、ファルセットの混じるhimikaの歌声にも切なさややるせなさを聴き取ることができる楽曲だが、ラスサビの直前ではそれまでの歌詞と反するように〈ほっとかないで〉と叫ぶように歌っている。まるで、アルコールの力を借りて思わず本心を叫んでしまったという具合だ。
また、イントロで用いられたリリースカットピアノのフレーズは、アウトロではエフェクトがかけられ、不安定な印象に。楽曲を通した心情の変化を表しているようである。