ポルノグラフィティ、5年ぶりアルバム『暁』で意識した“ファンに向けて届けること” 2人が明かす音楽的挑戦

ポルノグラフィティ『暁』インタビュー

 ポルノグラフィティから、約5年ぶりのオリジナルアルバム『暁』が届けられた。20周年の節目やコロナ禍、それぞれのソロ活動を経て完成した今作には、新曲9曲を含む全15曲を収録。2019年に開催した東京ドーム公演から刺激を受け、“ファンに向けて音楽を落とす(届ける)こと”を第一に考えるようになったと明かす岡野昭仁と新藤晴一。ファンがザワザワしてくれるものを作るという意識で臨んだ今作は、野心と挑戦に溢れながらも“ポルノグラフィティらしさ”が感じられる一作となった。5年での気持ちの変化や、岡野とtasuku、トオミヨウとのコライト、全ての作詞を新藤が手掛けるといった『暁』での音楽的なトライ、そして9月からスタートするツアーに向けた思いについて、2人に話を聞いた。(編集部)

ドーム公演で実感したファンの素晴らしさ

――約5年ぶりのアルバム『暁』はどんな気持ちで制作に臨みましたか?

岡野昭仁(以下、岡野):2019年にやった東京ドーム(『20th Anniversary Special LIVE “NIPPONロマンスポルノ’19~神vs神~”』)で20周年をたくさんの方にお祝いしていただいたんですけど、そこで僕らのファンの素晴らしさをあらためて実感したんですよ。みなさんの存在こそがポルノの土台なんだと。大きな節目にそんな再認識があったので、自分たちの音楽を落とすところが自然と変化した感じがありましたね。

――「落とすところ」というのは“音楽を届けたい対象”、ということでしょうか?

岡野:うん。今までは音楽シーンというデカい場所に自分たちの楽曲を落としていたイメージがあったんだけど、ここ数年はファンの方たちに向けて音楽を落とすことをまず第一に考えるようになったというか。で、そこに落とした楽曲たちは、ファンの方たちがしっかりと外に向けて広げていってくれているんですよ。例えば去年出させてもらった『THE FIRST TAKE』では、僕らの音楽を初めて聴く人たちに対して、ファンの方々が他の楽曲をオススメしてくれていたりとか、そういったコメントをたくさん目にすることができて。

――愛がありますね。

岡野:そうそう。だからね、今まで以上にたくさんの人たちに自分らの音楽を届けたい気持ちはもちろんあるんだけど、順番としてはまずはファンがちゃんと喜んでくれるものを作るべきだなと。その考え方には賛否あるかもしれないけど、今の自分としてはそういったアプローチで制作に臨みたいと思いました。

新藤晴一(以下、新藤):前作からの約5年を振り返ると、TikTokのようなSNSで若い世代の新しい音楽がどんどん出てきている状況になっているじゃないですか。そういった意味では、今の時代、今の世の中に対してポルノの音楽がどう響きうるのかが見えづらい部分もありましたからね。だったら僕らのことを第一に考えてくれているファンの方たち目がけて、今やれることをしっかりやるしかないっていう感じだと思います。

――本作には新曲が9曲収録されています。そこには揺るぎないポルノらしさが滲みつつ、同時に斬新な息吹きがたっぷり注がれている印象もありました。

新藤:今回は既発曲が多いから、全体を1つのコンセプトでまとめることはできなかったんですよ。なので、自分らとしては1曲1曲に真っ直ぐ向き合っていた感じではあります。

岡野:今のポルノとして楽曲を落とす場所が明確になったからと言って、何か大きく作風が変わったとか、そういった感じではないと思うんです。ただ、ファンの方が少しでもザワザワしてくれるものを作ろうということはちゃんと意識していたかな。楽曲単位で何かしらのトライをしていく姿勢は、これまでと変わらない部分でもあるし。僕個人としては今回、意識的に共作をした曲があったんですよ。そこはひとつのトライだったと思います。

――クレジットを見ると、「暁」はtasukuさんと、「バトロワ・ゲームズ」はトオミヨウさんとの共同作曲となっていますね。

岡野:その2曲に関しては、ポルノのことをよく知ってくれているtasukuくんとトオミくんにそれぞれトラックをまず作ってもらい、そこにメロディを乗せていく作り方をしたんです。これまでの活動においては、アレンジされたトラックを聴くことで自分から新たなメロディが出てくるという経験を何度もしてきていたんですよ。最近で言えば「テーマソング」もそうだったけど、アレンジに引っ張られて途中でメロが変わることがよくあったんです。だったら最初にトラックを作ってもらっておけば、自分の強みである歌を最大限に響かせられるメロディを書くことに専念できるんじゃないかなと思ったんですよね。

新藤:昭仁がどうやって曲作りをしていたかは知らなかったんですけど、今回は、制作途中から完成度の高い楽曲が多いなっていう印象はありましたね。

――タイトル曲「暁」はポルノらしさを強く感じさせる1曲。アルバムの幕開けにふさわしい、力強い仕上がりだと思います。一方の「バトロワ・ゲームズ」はオシャレなサウンド感がポルノとしては新鮮な印象です。

ポルノグラフィティ『暁』MUSIC VIDEO

岡野:先に作ったのは「バトロワ・ゲームズ」で。最近好きでよく聴いているシティポップや海外のファンクをリファレンスとしてトオミくんに投げて。で、返ってきたものにメロディを乗せるという作業がすごく楽しかった。そこでトラック先行のおもしろさを強く感じられたことが「暁」にも繋がっていきましたね。「暁」はポルノの強みとして挙げていただくことの多い、マイナー調でBPMの速い緊迫感を持った曲という意図を持ってtasukuくんと作っていきました。

――本作では収録曲すべての作詞を晴一さんが手がけられています。そこも一つの大きなトライという感覚でしたか?

新藤:アルバムに収録される既発曲の作詞を僕がすべてしていたので、その流れで全部書いてみるということになったんですよ。トライと言えばそうなのかもしれなけど、自分としてはそれぞれいろいろ悩みながら、粛々と1曲ずつに向き合って書いていった感じでした。「暁」では漢字に意味を持たせる書き言葉的な詞を書いたから、「ジルダ」ではしゃべり言葉を使おうみたいな感じで、全体としてのバランスを取るのは1人ですべてを担当したからやりやすいところではあったと思います。「バトロワ・ゲームズ」は身近な人がそういうゲームに熱中していたので、そのイメージと現実世界を重ね合わせて書いていった感じですね。

岡野:すべての作詞をするっていう物量的な大変さは間違いなくあったと思うんだけど、1人の作詞家が書いているからこそアルバム1枚としてのいいまとまりが生まれているような実感はありますね。ポルノにとって新藤の歌詞は大きな強みだから、そこを5年ぶりのアルバムでしっかり打ち出せたのはよかったです。

――晴一さんが今回、特に気に入っている歌詞はありますか?

新藤:好きなのは「ジルダ」かな。これは昭仁の作った曲だけど、「こういう歌詞を書きなさい」っていう指針を明確に感じるメロディとアレンジだったんですよ。言葉を紡いで1曲にまとめていくのはすごく難しかったんだけど、向かうべき正解はわかりやすい。なので書き終わったときの達成感はすごくあったかな。逆に「悪霊少女」なんかは、どんな歌詞にするべきなのかが見えにくいっていうか……。

岡野:自分で書いた曲ですよ(笑)。まぁ往々にしてそういうものなんでしょうけど。

新藤:2コーラス目のAメロの前に2小節くらいの短い間奏があるんだけど、そこで急展開するんですよ。不穏というか絶望というか、そういう雰囲気になる。だから言葉に関してもそれに合わせて変化しないといけないし、でもそこですべてを解決しちゃうのもダメなわけで。頭からスラーッと歌詞を書いていったときに、「うわ、ここまで書いたのに、この間奏が来たか!」っていう衝撃はありましたね。もちろん自分で作った曲だから知ってはいたんだけど(笑)。全体としてのつじつまを合わせる難しさはすごくありました。

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