春野、オーディエンスに1対1で届けたライフストーリー 前向きな決意に満ちた初のワンマンライブ
ライブ終盤は「Drawl」「Love Affair」、イントロでピアノをポロポロと弾きながら「楽しんでいこう」と呼びかけた「Lovestruck」、そして「Kidding Me」「Dream」。「最後の曲……ひとつになれたらいいな」と言って「Angels」を歌った時間は、孤独を選んでいた人物が他者を巻き込んでひとつになることを欲望する姿とミラーボールが回る煌びやかな光景があいまって、実に美しかった。序盤の「ターミナルセンター」で歌った〈会おうよ〉は悲壮感や諦観が滲んだものだったが、最後に「Angels」で歌う〈会おうよ〉は前向きな決意に満ちているように聴こえた。
アンコールでは、2017年にボカロPとして発表し、初の殿堂入りを果たした「深昏睡」のアコースティックバージョンを披露。曲を演奏する前にタイトルを言うと大きな拍手が起こり、春野の「現在」だけでなく「過去」も大いに愛されていることを思い知る。最後は「僕の音楽は僕のために作っていて、僕の理念を形にしているものなんですけど、それに共感したり感情を揺さぶられたり勇気をもらったりしてくれるあなたたちがいることを、誇りに思います」とオーディエンスへの想いを素直に言葉にして、「Cinnaber」で幕を閉じた。
ステージの演出としては終始、春野の真後ろからピンスポットが差し、本人の姿は影になるような形だった。この日はファンクラブの開設も発表されたが、自分を他者へ開示する勇気と自信を少しずつ積み重ねている春野が、今後はどんなライブを見せるのかが気になるところだ。今回は春野とオーディエンスが1対1で向き合うような構成だったが、たとえばサウンドプロデュースを複数曲手がけているShin Sakiuraをサポートギタリストに招くなど、春野以外のプレイヤーの生音が鳴ることも彼の音像には抜群に合うだろう。最近ではAile The Shotaやくじらといったアーティストとのコラボレーション楽曲を発表し、これまでの春野とは異なる新たな面をすでに見せ始めているが、今後は国境も超えて、より多くのミュージシャンやリスナーとつながろうとしている。かつては「今の自分は世界一誰よりも寂しい人間だからっていう歌をうたっていた」という春野。しかし、こうしてEP『25』と初のワンマンライブでひとつの章を締め括った後、自身の人生を映し取って曲を描く彼だからこそ、より広い世界で多彩な感情や経験を知ることで、さらにバラエティに富んだ音楽を生み出してくれることとなるだろう。
※1:https://realsound.jp/2022/02/post-959607.html
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