ゴスペラーズ、セルフカバーを通じた味わい深い旅 三浦大知やジャニーズWEST、郷ひろみら提供曲の秘話も明かす

「アオペラ」の物語を“ゴスペラーズ目線”で綴った歌詞

――そして、「アオペラ」に提供した、リーダーが書いた「Follow Me」と、安岡さんが書いた「RAINBOW」の2曲。これはもう、「アオペラ」のコンセプトを考えると、ゴスペラーズのためにあるような企画じゃないですか。

村上:ありがたいことに、「すべてお任せします」という感じでした。というのも、「アオペラ」のコンセプトを作っている人たちは、当然ながらアカペラ大好きな人たちなんですよ。実際、我々が所属していたアカペラサークルの後輩だったりして、この作品に関わっている人はみんな、広い意味での仲間なので。先方も、満を持して僕らに振ってくれたようなところもありましたし、それは非常にうれしかったです。アカペラが青春アニメの題材になること自体が、僕らが始めた頃の感覚からすればだいぶ先に進んだということですよね。そこまで日本のアカペラのシーンが成熟したという、一つの到達点だと思います。「アオペラ」のコンセプトとして、私立高校のイキった奴ら(FYA’M’)と、もう少しおとなしい都立高校の奴ら(リルハピ)、2チームが切磋琢磨していく設定があって。僕が書いた「Follow Me」(FYA’M’)は、強気にカマしちゃってるけど、本当は弱気な部分を持っていて、見てる人にもわかっちゃってるんだよね、みたいな感じですね。それって、俺と黒沢が、高校の文化祭でアカペラをやっていた時の気持ちそのものなんですよ。「どうだ!」って感じでやってるけど……。

黒沢:不安もあるよね。

村上:「大丈夫かな、これで?」って(笑)。アカペラは音楽的にもすごく不安定なものだから、それが高校生なら、メンタル的にもさらに不安定になるし、みたいなことをFYA’M’の曲で書いてみました。それとは対極的なのがリルハピの楽曲。

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安岡:FYA’M’が先にあって、それを見て始めたのがリルハピということなので、背中を追いかけているところがあったりしながら、アカペラを始めたばかりのときめきを歌にしたいなと思って。ボイスドラマを聴き込んで、「彼らならどんな曲を作るだろう?」と考えたら、彼らが今置かれている状況は、まさにかつての僕らだなと思ったんですね。学生の頃にアカペラに出会って、「かっこいいじゃん」って無条件に夢を見られて、挫折もチャンスでしかなくて。詞を書いていけばいくほど、自分たちのことを書いている感じになってきました。

 「アオペラ」の進行とアルバムの進行が同時だったので、同じ物語を、彼らの目線と僕らの目線で二つの歌詞を書き分けるのはどうでしょうかと提案をさせていただいたんですね。彼らは未来の自分たちを想像している目線で歌って、ゴスペラーズは「あの頃の僕らは」という目線で歌っている。

村上:「アオペラ」バージョンと少しだけ歌詞が違うんですよ。見ている場所が違う。

安岡:同じ物語から生まれた、双子の2曲です。一続きの物語として、並べて聴いてもらうと、すごく面白いかなと思っています。

安岡 優

――納得しました。では「五時までに」(郷ひろみ)について。

北山:この曲は、3人の共作(安岡、北山、妹尾 武)になっていますけど、みんなが均等にアイデアを出しあったという意味ではなくて、3人がその場で一緒に作ったということですね。たとえば僕が思いついたことを安岡が言葉にして、「いいじゃん」と思ったら僕がメロディをつけて、妹尾さんがピアノを弾いて、というふうにやっていったら、驚くほど短期間でできました。それを郷ひろみさんが歌ってくださって、すごくうれしかったんですが、「もしあの曲をゴスペラーズが歌っていたらどうなったんだろう?」ということはずっと頭の中にあったんですね。それが今回やっと現実のものになりました。

安岡:結果的に、デモテープに限りなく近いアレンジになったね。

北山:この曲を作った時の衝動に戻ってみようと思ったので。郷さんのイメージをゴスペラーズでどう変えるかということではなく、郷さんバージョンと違った良さを引き出すとなると自然とそうなったんですね。当時のデモにはキーボードで弾いたストリングスのフレーズが入っていたので、生のストリングスカルテットをお呼びして、「僕らの歌に反応して、存分に歌ってください」とお願いをして。5人プラスピアノ、弦カルの10人で、この詞とメロディに対して反応したらどうなるかを、うまく音源にできたなと思います。

北山陽一

――そしてアルバムを締めくくるのが「会いたくて」(夏川りみ)。作詩は安岡さん、作曲は黒沢さんです。

黒沢:思い出話から入っていいですか? この曲を提供した時に、レコーディングにも行かせていただいたんですけど、りみちゃんは歌う前にまずご飯をしっかり食べるんです。僕はレコーディングの前には食べられないんですけど、しっかり食べて、「そうしないと、声出ないからさ~」って。

村上:今の、一応モノマネです。

――あ、失礼しました。流しちゃいました(笑)。

黒沢:(笑)。で、2回歌って、ディレクターの人は「ちょっと調子悪いから、もう一回歌ってみようか」と言うんですけど、僕は横で聴いてて何も調子悪くないと思ったから「えっ?」って。そして3回目にバシッと歌って、「はい、OK」って。3テイクですよ。しかも、一筆書きで。すごい人に曲を書いたなって、驚嘆しました。そんな、何十年に一人のボーカリストの、鈴が鳴るような倍音の歌声に対抗するには、5人がかりで行くしかない。そういう気持ちもありつつの、アカペラバージョンです。北山が、クラシック的な旋律の美しいコーラスアレンジメントをしてくれたので、僕らはなんとか5人がかりで、また違う「会いたくて」が表現できたんじゃないかなと思います。

安岡:曲を書いた当時は、僕らもりみちゃんも20代で。「涙そうそう」であまりに大きな世界を歌っているから年齢不詳に見えますけど、僕らとはクラスメイトの女の子としゃべってるみたいな感じなんですよ。だから、恋をして強くもなるし弱くもなる、ただの20代の女性のまま恋をしてほしいなと思って、歌詞を書いて。それをまた男が歌うのも、シアトリカルですごくいいので。いい感じに仕上がってるんじゃないかなと思います。

――そんな全8曲。これは単なるセルフカバーではないですね。物語の続きであり、答えであり、新しい物語の始まりでもある。

北山:このアルバムの曲を聴いて、酒井さんが「おかえり」と言ったんですよ。僕らが楽曲提供する時は、自分の子供に旅をさせる気分なんですね。だから今回セルフカバーできることになった8曲は、戻ってきてくれたなということだなと思うし、二十歳の子もいれば、生まれたばかりの子もいるんですけど、「おかえり」という言葉がすごく合いますね。

村上:本当に、シンガー、ミュージシャン冥利に尽きる作業だったなと思います。まだ次の作品がどうなるかわからないですけど、この作業はきっと生きるだろうなと思いますね。実は、やりたかったけど許諾が取れなかったとか、やってみたけどハマらなかったという曲もあるんですよ。でもその全部が面白くて、今回やれなかったものも、楽しみが先に延びたということかもしれないので。グレートジャーニーじゃない、スモールトリップなんだけど、すごく味わい深い旅だったなと思います。

――間違いないですね。

村上:始まる時は、「もう曲はあるから楽じゃん」みたいな、軽いノリのスタートだったんですけど(笑)。やっていく中でいろんなものが出てきて、一つひとつクリアしていくのがすごく面白かったですね。

安岡:それぞれの元の歌と、並べて聴き比べてもらいたいですね。

北山:時代的にも、サブスクリプションサービスがあって、それがやりやすいと思うんですよ。そういういい時代が来るまで待った、みたいな話なのかなと。

黒沢:確かに。我々のファンだけの楽しみではなくすることが、前よりは楽になったよね。

村上:カバー相手のファンの反応も見れるしね。昔は楽曲提供しても、どう思っているのかがわからないところもあったから。それが今はわかるから、そういう面白さはありますね。

■リリース情報
ゴスペラーズ『The Gospellers Works 2』
2022年7月6日(水)リリース

<初回生産限定盤>
CD+Blu-ray
¥3,410(税込)
<通常盤>
CD only
¥2,860(税込)

<収録曲>
楽曲タイトル / 提供アーティスト(敬称略)
1.「DONUTS」 (テゴマス)
2.「Keep It Goin’ On feat. Penthouse」 (三浦大知)
3.「Special Love」(ジャニーズWEST)
4.「Sounds of Love」(小野大輔)
5.「Follow Me」(アオペラ・FYA’M’)
6.「RAINBOW」(アオペラ・リルハピ)
7.「五時までに」(郷ひろみ)
8.「会いたくて」(夏川りみ)

■関連リンク
公式ホームページ

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