ゴスペラーズ、セルフカバーを通じた味わい深い旅 三浦大知やジャニーズWEST、郷ひろみら提供曲の秘話も明かす
これは単なるセルフカバーではない。懐かしい物語の続きであり、新しい物語の始まりでもある。ゴスペラーズの初のセルフカバーアルバム『The Gospellers Works 2』には、伝家の宝刀であるアカペラをはじめ、ソウル、R&B、クラシックなど、多様なジャンルを横断するバラエティ豊かな8曲をエントリー。名曲をゴスペラーズ流によみがえらせるだけではなく、アカペラをテーマにした青春エンターテインメント「アオペラ -aoppella!?-」プロジェクトに提供した最新曲や、先行配信曲「Keep It Goin’ On feat. Penthouse」では、大注目のバンド・Penthouseをフィーチャーしてスリリングなセッションを聴かせるなど、新たな挑戦もたっぷりと盛り込んだ意欲作だ。セルフカバーの域を超える画期的な作品に込めた思いについて、5人の本音を聞いてみよう。(宮本英夫)
“巻き込み力”が過去イチすごいアルバム
――郷ひろみさん、三浦大知さんから、ジャニーズWEST、「アオペラ」、小野大輔さんまで。ゴスペラーズの楽曲提供の幅広さを象徴するラインナップですよね。
黒沢 薫(以下、黒沢):「アオペラ」や小野大輔さんの曲は、セルフカバーアルバムを作ることが決まったあとから依頼が来たんです。最初に作ろうと思った時には、想定していなかったので。
村上てつや(以下、村上):たまたま楽曲提供の依頼があって、「だったらこっちも出していいですか?」と。結果として、ほぼ新曲として感じられるものも3曲入った上で、いろんな年代の曲が揃ったと思います。
――アーティスト的にも、アイドル、声優、ポップスのボーカリストと、色分けもできている。
黒沢:それと、サブスクリプションが強い人たちと、フィジカル(CD)が強い人たちも両方入っていて。巻き込み力は、過去イチすごいんじゃないかとは思います。いろんな界隈の人を巻き込む素地はある。
村上:コロナの中で、どういう形であってもファンのみなさんに喜んでもらえるものを出し続けなければいけない、という思いがあったので。セルフカバーというアイデアは前からあったんですけど、「出すなら今だろうな」と。それが、やっているうちにどんどん広がってきて、「アルバムまで行けちゃうね」という感じだったんですよ。
黒沢:最初は、配信だけという話もあったんですよ。
村上:でも8曲まで来れば、アルバムと言っていいんじゃないかという話になって。アートワークがついてくると充実感が全然違うので、CDを作れてやっぱり良かったですね。
――ジャケット、最高です。前作の見事なオマージュですね。
安岡 優(以下、安岡):前回の『The Gospellers Works』(コラボレーション曲やカバー曲を収録したコンセプトアルバム)の構図で、今の世の中はリモートワークということで、自分たちでパロディしてみようというところからスタートしました。
村上:このアルバムも企画ものなわけじゃないですか。その企画会議をリモートでしているような絵になっているのが、なかなかいいですよね。僕らのようなアーティストと企画会議というのは遠いイメージだけど、こういう作品だとフィット感もいいし、ジャケットと内容の絡み具合もいい感じに仕上がったかなと思います。
黒沢:これ、みんな別撮りですからね。時間差で来て、「前の人は何やってたの?」とか言いながら撮りました。
――キャラが出てますよね。北山さんが犬、酒井さんが猫とか。
北山陽一(以下、北山):自分が飼っている犬をインスタに上げているのをスタッフが見ていて、これ(ぬいぐるみ)を作ってくれました。言ってくれれば連れてきたのに(笑)。
酒井雄二(以下、酒井):僕の場合は「本物を連れてこれないか?」という打診があったんですけど、「ビビリなんで、無理だと思います」ということになって。それで写真を見せたら、ほぼほぼ印象が近いものができていて。あまりに良かったので「引き取らせてください」と言って、今うちにいます。本物と並ぶとわかんないです。
――黒沢さんはもちろんカレーを作っている。
黒沢:仕事してないですよね(笑)。しかもこれ、小道具のスパイスが足りないので現場で「これだとカレーは作れない」と言ったら、ちょっと嫌な顔をされたという(笑)。
――そんな素敵なアートワークに包まれた全8曲のカバーアルバム。これはもう、全曲に触れないと収まらないので、1曲ずつ深掘りさせてください。1曲目「DONUTS」(テゴマス)については、作詩した安岡さん、どんなエピソードがありますか。
安岡:曲はリーダー(村上)が先に作っていて、モータウンビートの曲調にツインボーカルが乗って、我々がバックコーラスをやることは決まっていたので。ミーティングで曲を初めて聴いた時に、「実家の押し入れからソウルのドーナツ盤が出てきて、それが素敵なラブソングだったから今度君に聴かせてあげるよ」というテーマが浮かんで、その場で決まりました。
テゴマスの二人(手越祐也と増田貴久)とは歌番組で何度か共演して、歌のうまさも音域の広さもわかっていたので、どのソウルの名曲をモチーフにしようかと考えて。「You Belong to Me」(The Doobie Brothers)の歌詞をあたって、今の若いカップルが使わないであろう大げさなラブソングの歌詞を盛り込んで作っていったら、どんぴしゃにかっこよく仕上がりました。主人公は若い設定だけど、かつて僕らもそういう時期を通ってきたわけで。偉大な音楽を若い頃に聴いて、それが僕らを通して「DONUTS」という曲になって、次の世代に音楽のバトンを渡していくーーそれをすごく実感したんです。最初はテゴマスに合わせて歌詞を書いたんですけど、今回僕らが歌う時に実は自分たちにもぴったりの歌詞だったんだなという気がしました。
――「Keep It Goin’ On feat. Penthouse」はもともと、三浦大知さんのソロデビュー曲でした。作曲を手掛けたのは黒沢さん。
黒沢:我々がいつもお世話になっている宇佐美秀文くんがトラックを作ってきて、僕がメロディを作るという形の共作だったんですが、もともとの宇佐美くんのトラックはバンドサウンドっぽかったんですよ。それで今はソウルやR&B、シティポップを咀嚼した若いバンドがいっぱい出てきているから、「誰かと一緒にやりたいね」という話をしていたんですけど、ちょうどその時にPenthouseがメジャーデビューするという話を聞きまして。ボーカルの浪岡(真太郎)くんとは、ご飯を食べに行くような仲だったんです。若手の中では稀有な声質と歌声を持っている人で、見た目はナイーブ系というギャップが面白いと思っていたので、「やってくれない?」という話をしたら快諾してくれました。
――いい声ですよね、本当に。
黒沢:浪岡くんはアカペラ界隈の人とも仲が良くて、「アオペラ」に関わっているとおるすくんと一緒に曲を作ったりして、コーラスアレンジメントができることは知っていたのでお願いしました。結果的に、我々がデビューした頃に流行っていたアシッドジャズに極めて近いものになって、すごくいいアレンジになりましたね。それで、もう一人の女性ボーカリストである大島(真帆)さんも本当に素晴らしいので、「2コーラス目はあなたたちでいってください」と。セッションみたいな感じで作ったので、スリリングな感じが大知のバージョンよりさらに増した感じがします。「浪岡と大島対ゴスペラーズで勝負だ!」という感じで、気合が入りましたね。
――確かに、バトル感があると思います。
黒沢:一番うれしかったのは、この曲を録ったあたりから彼らの人気がすごく出てきたこと。Penthouseを聴いていて、ゴスペラーズについてはテレビに出ているアカペラのうまい人たちね、という印象しかない人に、やっとここで聴いてもらえるかもしれない。「浪岡、本当にありがとう!」という感じです(笑)。もちろん、だいちゃー(三浦大知のファン)にも聴いてほしいし、いろんな界隈の人に聴いてほしいなと思ってます。
――かてぃん(角野隼斗/Penthouseのピアニスト)さんの個人ファンも多いですからね。
黒沢:そうなんです。かてぃんはクラシックファンが多くて、ゴスペラーズのファンと同世代ですから。これをきっかけにゴスペラーズを聴いてみよう、という人もいるんじゃないかと思ってます。とにかく、出来がいいと自分が思えるものができたので、そこが一番うれしかったですね。
――そして3曲目が「Special Love」(ジャニーズWEST)。これも作詞作曲が黒沢さん(作曲は竹本健一との共作)。
黒沢:「ゴスペラーズがプロデュースする、ゴスペラーズみたいな曲をお願いします」と依頼があったんです。だから、僕らでも最近作っていないような、正面からのバラードを作ってみました。コーラスアレンジメントは北山がやってくれたんですけど、かなり難しいものを彼らはしっかりと歌ってくれて、すごいなと思いました。仮歌も僕らが歌っていて、いわゆる「受け答えボーカル」みたいなところも担当を決めて歌ったんですね。「ゴスペラーズの誰がどのメンバーのパートを歌っているのか?」と当時ちょっとだけネットで話題になったんですけど、今回これで答え合わせができます。その時の担当のままで歌っているので。
個人的には、それまで歌詞を提供したことがあまりなかったので、かなり試行錯誤したんですけど、ファンの方々にも気に入っていただけたみたいで。こういう感じもありなんだなということで、ほかの提供曲につながったりしましたね。僕らにしては若い歌詞なんですけど、そのあたりの塩梅がこの曲でつかめたところがあるので、大事にしたい曲です。アレンジは、SoulflexのMori Zentaroくんで、元の曲がオーソドックスなバラードだったのに対して、アンビエントR&Bに寄せたものにしてくれて、今っぽいものになったと思います。
――そして「Sounds of Love」(小野大輔)ですね。これは作詞作曲が酒井さんです。
酒井:2021年に『#あなたの街にハーモニーを』というアカペラツアーを、コロナ禍でお客さんが声を出せない中で、声優さんのナレーションとお客さんの黙読による会話劇、という構成でやったんです。その時にお世話になったのが小野大輔さんで。僕は『ジョジョの奇妙な冒険』のファンなのでご一緒できてすごくうれしかったんですけど、声優さんの声のパワーでライブが大きな推進力を得るその表現力が、本当に素晴らしいと思ったんですね。小野さんは昔からゴスペラーズを聴いてくださっていて、そのあと「ぜひ曲を書いてください」というお話をもらったので喜んで書かせていただきました。さっき黒沢も言いましたけど、提供曲の面白みは、自分たちはこういう言葉は歌わない、こういう曲は歌わない、というものも出せるということだと思うので。先方のリクエストは、コロナ禍を意識して「今の世の中に向けて歌う歌を」ということだったので、それに真正面から応えようと頑張った結果、すごく素直な言葉が書けたと思います。それともう一つ、今回は僕らが歌うものと小野さんが歌うもの、2バージョンを同時に作るという、非常に稀有な進行だったんですね。
――なるほど。
酒井:そこで「お互い、好きにやりましょうね」と。できるだけ違うものになったほうが面白いじゃないですか。衣装を2セット用意してもらったようなもので、曲にとってはなかなか贅沢なデビューの仕方ですよね。とても幸福な曲だと思っています。