eill、「アクエリアス」TVCM曲起用でも集まる注目 広がり続ける音楽性の幅と一貫してリスナーに届けるメッセージ
「アクエリアス」TVCMにもマッチした「palette」の爽快さ
シンガーソングライター・eillの勢いが止まらない。メジャーデビュー以降、多くの名曲を生み出しているだけでなく、数々のタイアップを獲得している。「ここで息をして」はテレビアニメ『東京リベンジャーズ』のED主題歌となり、「hikari」はフジテレビの月9ドラマ『ナイト・ドクター』のオリジナルナンバーとして使用された。人気作品との関わりを経て、彼女の知名度や人気は上昇し続けている。最近はメジャー1stアルバム『PALETTE』のタイトル曲「palette」が「アクエリアス」新TVCMソングとしてオンエアされている。
「アクエリアス」のTVCMといえば、CMソングに注目が集まることが多い。直近ではUruが歌う「Funny Bunny」(the pillowsカバー)が“泣ける”と幅広い世代の間で話題に。[Alexandros]「月色ホライズン」やRADWIMPS「サイハテアイニ」など“青春”が想起されるような疾走感溢れる楽曲も主にティーンエイジャーからの支持を集めた。遡ればユニコーン「WAO!」、スピッツ「春の歌」、Mr.Children「innocent world」、ZARD「揺れる想い」なども起用されており、このラインナップを見れば今回メジャーデビュー2年目のeillが抜擢されたことのすごさが伝わるのではないだろうか。
今回CMに起用された「palette」は、自分らしく自由に生きることを肯定する軽やかなメッセージソング。CM内で仕事やランニングの合間にアクエリアスで水分補給する広瀬アリスと生瀬勝久の姿にもマッチした爽快な曲調は、聴いているだけで足取りを軽くしてくれそうだ。
キャッチーなメロディが際立つポップスを生み出してきたeill
eillはメジャーデビュー直後の話題性で注目されているわけではない。メジャーのフィールドに足を踏み入れたからといって自身のやりたいこと・表現したいことと異なる方向性に舵を切ったわけでもない。彼女の実力や才能が認められているからこそ結果がついてきているのだと感じる。「palette」はR&Bのエッセンスを感じる楽曲で、リズムの心地よさを重視した編曲が印象的だ。現代のトレンドを取り入れつつ、メロディはキャッチーで耳馴染みが良い。音楽ファンが聴けば唸ってしまう要素を盛り込みつつも、多くの人に受け入れられる開いた音楽にもなっている。つまり優れたポップスとして作り込まれているのだ。
先にふれた「ここで息をして」もそうだ。アニメタイアップということもあってか、疾走感ある演奏と力強い歌声で表現されている。聴いて自然とテンションが上がるポップスだが、音楽性の軸にあるのはR&B。ただのポップスとして聴き流すことができないような、良い意味で耳に引っかかる感覚がある。そんな音楽だからeillの楽曲はどれを聴いても印象に残るのだ。
思い返すとそれはインディーズ時代から変わっていない。2019年11月にリリースされたアルバム『SPOTLIGHT』の収録曲も同様に、最新のサウンドを取り入れたR&Bを軸にしつつも、キャッチーなメロディが際立つポップスが収録されていた。例えば収録曲の「20」は跳ねるようなリズムにキャッチーなメロディが組み合わさった楽曲だが、曲のベースは徹底的に作り込まれたR&Bである。この方向性は最新アルバムの収録曲と変わりない。以前から彼女の音楽性の軸はブレていないのだ。軸を変えずに進化したとも言える。次作であるミニアルバム『LOVE/LIKE/HATE』ではさらにサウンドのクオリティを高めた上に、新しい挑戦もしていた。「踊らせないで」ではキャッチーさに磨きをかけ、「Night D」では疾走感ある音楽に挑戦し意外な一面を見せ、「片っぽ」のような切ないバラードでは歌唱力の高さを改めて伝えた。そしてどれもがR&Bを軸にしつつ、ポップスへと昇華させている。インディーズ時代から自らの強みに磨きをかけ、その上で音楽性の幅を広げていたのだ。
その結果の一つがメジャーデビューなのだろう。活動の規模が変わっても、彼女の音楽性は変わることがなかった。それはメジャー1stアルバム『PALETTE』を聴けばわかるはずだ。このアルバムも全曲これまで大切にしてきた軸は変えずに制作されているように感じる。それでいてより多くの人にeillの魅力が届くであろうキャッチーさが強まった作品になった。これまでと比べても特にeillのメロディメイカーとしての才能が開花している。「花のように」のサビの美しいメロディは一度聴けば忘れられないほどのインパクトだ。「ただのギャル」で取り入れていたラップも新鮮だった。eillが生み出す音楽は常に新しい表現に挑戦することでよりジャンルレスになっているし、eillという一つのジャンルになりつつあるのかもしれない。