首振りDolls、ロックンロールを表現し続けた10年 最新アルバムで見せたバンドとしての生き方
踏み外したって別に悪くない、そういう生き方もある
――では、オープニングトラックの「Walk on the Wild Side」は、どのように生まれたんですか?
ナオ:これは本当に寝起きでメロディというかリフが浮かんだんですよ。それが気に入って、すぐにボイスメモに録って、ずっと頭の中で繰り返しながら、何となく歌も作って。ただ、頭の中で完結してできちゃったから、メンバーに再現してもらうのに最初は苦労しましたね。
ジョニー:最初に聴いたときに、ドラマーならではのリフやなと思ったんですよね、何となく。リズムもそうですけど、ギタリストが作るリフじゃないなって。でも、全体的には俺の中では昔のハードロックみたいなイメージだったんですよ。誰をイメージしたかって言われると、ジミー・ペイジ(Led Zeppelin)ですね。トーキング・モジュレーターを使ってるから、1970年ぐらいかな。ピーター・フランプトン(Humble Pie)も入ってるかもしれないです(笑)。
――そのトーキング・モジュレーターがいきなり出てくるところがすごく魅力的ですよ。
ジョニー:今どきのバンドじゃ、絶対ないっすね(笑)。使ってるギタリストも、最近はなかなかいないんじゃないですかね。
ナオ:ジョニーさん、上手なんですよね、トーキング・モジュレーターが。日頃からめちゃくちゃ使ってるわけでもないのに。
ジョニー:ホントに……得意っすね(笑)。ただ、レコーディングでしか使ったことない。セッティングすらできない。あの環境を作るのは、まず普通にライブハウスじゃ相当難しいから。
ナオ:坂下たけともさんのトーキング・モジュレーターを使わせてもらってるんですよ。いつもセッティングまでやっていただいて。だから、すごくお世話になってますね。
ジョニー:ホースはちゃんと洗って返してます(笑)。
――BON JOVIのヒット曲「Livin’ On A Prayer」でもお馴染みですが、トーキング・モジュレーターの実物を見たことがない若いミュージシャンはたくさんいるかもしれませんね。
ジョニー:ボコーダーとかはあるかもしれないけど、ホースをくわえるとか、意味がわかんないかもしれないですね。
ナオ:俺もいまだに原理はわかってないよ。
ジョニー:俺も上手く説明はできないけど、声を出してるわけじゃない? 口の開け閉めで、その空気の振動で音が変わるらしいんだけど、その原理はよくわからない。ガキの頃にジョー・ペリー(Aerosmith)がストローみたいなのをくわえてやってるの観て、何してるんだろう、酒でも飲んでるのかなと思ったんだけど(笑)、こういうことかと。ライブでも使いたいけど、アンプがもう1台必要になるんですよね。あれをやると脳みそが震える。あの感覚は癖になるかもしれない。ぜひショーンにもベースでやってもらいたい(笑)。
ショーン:確かにやってみたい(笑)。自分的にもこの曲は一目置いてたんですね。1曲目ってインパクトが大事だなと思ってて。その中でもやっぱりトーキング・モジュレーターはめちゃくちゃ効いてるし、ほぼ主役ぐらいの感じですからね。あと、このリフでほぼコード的展開もなくてずっと進んでいくのが、自分の趣味的にも好きなんですよ、ちょっと洋楽的で。
――70年代的という観点では、ドラムロールに導かれて、ギターソロにいくという間奏の流れも、またポイントでしょうね。
ナオ:ありがとうございます。そういう音楽をずっと聴いて育ちましたので、それ以外思いつかない(笑)。でも、すごくシンプルな曲だから、それぐらいやってよかったかなって感じですね。MVもこの曲で撮ったんですよ。
――そのMVはどのような内容なのでしょう?
ナオ:20代をすべて首振りDollsに捧げた私としましては、しっかり道を踏み外しているなという自覚を持っているわけでございます(笑)。友達は就職したりとか、結婚して子供ができてとか、そういう人生を歩んでいる中で、私はロックバンドをやってるわけじゃないですか。でも、すごく楽しいし、自分らしく生きてるなとは思っていて。それを歌にできるようになったのも、10年という月日がそうさせてくれたのかなって思うところもあるし。初めて買った車が100万で買った中古のハイエースで、それが今のうちの機材車なんですけど、もしかしたらライブハウスにいたり、自分の家にいたりするより、高速道路で過ごした時間のほうが長かったりするのかなって。そういう20代だったから、そのハイエースと一緒にMVに出ているんです。ハイエースでマイウェイ、ワイルドサイドを行ってる感じの映像になってます。
――歌詞の世界の通りですよね。
ナオ:そう。踏み外したって別に悪くないというか、そういう生き方もあるんだよみたいな。だって、こんな立派な<キングレコード>からCDを出させてもらって、何て立派に踏み外してるんでしょうって感じですよね(笑)。自分がやりたいことで、ちゃんとステップアップできてるなと思いますよ。しかも、流行ってないロックンロールをやりながら(笑)。
――この曲が始まると、すごく安心感がありますね。リズムアンサンブルのタイトさや力強さに引き込まれる感じがあって。
ナオ:すごく自分らしい後ろノリのビートで、いい感じですね。でも、意外とクリックを聴きながらやってるんですよ。
ジョニー:でも、クリックがないようなルーズなビート感で、そこがとても気に入っています。
――そこも10年のキャリアがなせる技でしょうね。
ナオ:そうかもしれないですね。昔はちゃんと合わせることしか考えてなかったけど、今はクリックの中でいかに自分を出すかみたいな演奏になってきましたね。
――バンドの歩みということでは、「スローモーション」にも触れておきたいところですね。曲も歌詞も同時に浮かんできた感じでした?
ジョニー:まずサビができて、その後に歌詞の乗ってるメロディの部分はできてたんですけど、間奏やイントロは、あまりピンとくるものが自分の中になくて、メンバーと一緒にスタジオでああだこうだやってできた感じなんですね。間奏とかも結構遊んだというか……いいサビができたら、あとは何でもやってもいいみたいなところが自分の中にはあって(笑)。ショーンのシンセも入ってますし、ギターソロも光センサーで音が変わる、ワンワン鳴るエフェクターがあるんですけど、それをショーンに手で操作してもらって、俺が弾いてるみたいな。
――あの音はワウではないんですね。
ジョニー:そうなんです。ワウっぽい効果が出るんですけど、光センサーだから、もっと激しいですよね。さらにフランジャーとかもかけてるから、とんでもない音になるんです。歌詞の内容としては、幼少期の思い出、初めてロックに触れたときのようなイメージですね。
――確かにそういう光景も見えてきますよね。たとえば、〈3号線〉というのは、北九州を通っている国道3号線のことでしょう?
ジョニー:よくご存知で。思い出の道です。高校生のときに、生まれて初めて博多のハードロックカフェを目指して、3号線をチャリで50キロぐらい移動したんですよ。もう、死ぬかと思った(笑)。朝5時に出発したんですけど、俺は体力がなかったから、一緒に行った友達は先に到着して……それこそ〈pal pal〉の前に集合やったわ! 地元のレンタルビデオショップ屋さんなんですけど、友達に「これで頑張ろうぜ」ってタフマンを渡されて(笑)。その友達は一緒にバンドをやってたんで、今度のアルバムを聴くよって言ってたけど、どう思うんだろう? 「俺のことじゃね?」とか思ったら、ちょっと気まずいな(笑)。
――そんな経験も題材の一つになっているわけですね。
ジョニー:そうですね、今思えば。
――〈憧れのシルバースターへ〉というのは?
ジョニー:「シルバースター」は魚座っていう地元の先輩のバンドの名曲なんですよ。ただ、魚座だけでもなく、言葉としてもカッコいいし、最初にシルバースターってつけた人ってずるいじゃないですか(笑)。だから、憧れの先輩へという気持ちも込めて、〈シルバースター〉を使わせていただきました。
ナオ:結構、地元のことを入れてるよね。
ジョニー:地元感出てます。きっと北九州の方々はピンとくると思うんですけどね。
――冒頭から〈pal palのディスクを盗んで〉と告白しちゃってますが、大丈夫ですか?
ジョニー:大丈夫です、盗んでません(笑)。レンタルしただけです。
ナオ:童夢は何屋さんだったっけ?
ジョニー:童夢は戸畑にある古本屋さんなんですけど。
ナオ:もちろん、ぶっ壊して(笑)?
ジョニー:ません(笑)。ちゃんとお金を払って買いました。よくしてもらってます。店のおっちゃんとは結構仲が良かったんですよ。
ナオ:じゃあ、本当にいい子なんやね、ジョニーは。決して盗んだり壊したりしない(笑)。
ジョニー:しない(笑)。歌の中ぐらいは好きに歌ってもいいからね。
ショーン:楽しい曲ですよね。ハードかつ、サビはエモーショナルで。今のエピソードを聞いて、より好きになりました(笑)。
ジョニー:確かに。このエピソード、ライブのMCでも言いますわ。
ナオ:長くなるからやめてくれ(笑)。
――ははは(笑)。音的な面白さで言うと、「刹那」もイントロから揺らした音が聞こえますね。
ジョニー:あれは実はコーラスなんですよ。
――コーラス!?
ジョニー:そう。僕がエンドース契約している、Sound Project “SIVA”というブランドのエフェクターなんですよ。普通のコーラスじゃないけど、シンセっぽい感じに、結構エグくかかる。ショーンのイメージの中ではその音があったみたいで、結果的に目立つ音になって、リード感が出たところがありますね。
――耳に残りますよね。作曲者のショーンさんは、どんな思いで書いていたんですか?
ショーン:この曲のようなドッタドッタン、ドッタドッタンっていう、ちょっと小気味のいいリズムが好きなんですけど、今回は他にそういう曲がなかったので、リズムをとりあえず作って、ギターとかも考えて、こんな感じでお願いしますと。
ジョニー:これは本当にショーンプロデュース感が強いというか、ショーンのこだわりが詰まってるんですよね。だから、ギターとかもショーンのイメージになるべく近づけようと徹底して頑張りました(笑)。
ショーン:ちょこちょこアレンジしてくれてて、そこもすごく気に入ってます。
――聴いてすぐに、これはショーンくんの曲だろうなと思いました。
ナオ:バレてるよ(笑)。
ショーン:音的な感じなんですかね? 自分が作る曲って、ミドルテンポの横ノリが多いんですけど、これはわりとギターロックっぽいかなと思ったんですけどね。
ナオ:「刹那」はどんなふうに歌ったらこの曲が活きるのかなとか結構考えましたけど、わりとありのままの自分の感じで歌ったら、ショーンくんが思ってた雰囲気に近かったみたいで。だから、すんなり歌も録り終わったし、歌詞も覚えやすいし、とてもいいですね、ライブでやっていく上で(笑)。ギターロックなのに、今までの首振りDollsになかった感じ。その辺の上手いところを持ってくるショーンくんはすごいなと思いますね。だから、バンドとしてもどんどん進化できてるのかなという気はします。
――歌詞はどういうイメージだったんですか?
ショーン:今はやめちゃったけど、みんな夢中になって頑張ってたものってあると思うんですよ。そういう心を思い出す、あの頃を取り戻そうぜみたいなことですね。それが表向きなんですけど、もう一つはライブですよね。以前はフロアのお客さんはすごく盛り上がってたけど、今はおとなしくするしかない。でも、コロナが明けたら、またワーッてなろうぜみたいな。そこが一番言いたかったことですね。
――「無限回廊」もまた面白い曲ですね。
ジョニー:これも首振りDollsとしては、初の試みをしまくったような感じの曲ですよね。ちょっとトラックっぽい感じだったり。ショーンもボーカルデビューしてますし。
ナオ:でも、ショーンくんがベースリフを最初に持ってきたときから、いい曲だねって思ってた。
ショーン:もともとはAメロとかも歌っぽくしたくなくて、ポエトリーリーディング的にずっと喋ってるようなものをイメージしていて。それでちょっとトラックっぽいものをベースに考えたんですけど、やっていくうちに、まずはナオくんにいつもの首振りDollsっぽく歌ってもらって、途中のBメロからポエトリーリーディングを入れようということになって。その語りの部分は、最初はナオくんにチャレンジしてもらったりもしたんですけど……。
ナオ:私ね、音楽が鳴ってるときに朗読することが本当に苦手みたいで……ノっちゃうんです(笑)。
ショーン:ちょっとかわいいラップっぽくなっちゃう(笑)。
ナオ:そう。だから、ショーンくんにレコーディングしてもらいましたね。
ショーン:感情を殺して。でも、サビやAメロはすごくイメージ通りに歌ってくれて。
ジョニー:ショーンのあの語りを聞いて、なるほどこういうことかと思ったんですよね。
ショーン:混線してきた何かの放送がバーッて流れるってイメージなんですよ。
ジョニー:ぜひ次のアルバムでもショーンに語りをやってもらいたいですね。ポエトリーリーディングを踏まえた上で、俺が曲を作ってみたらどうなるかなって(笑)。
ショーン:じゃあ、次、ぜひお願いします(笑)。ラストは、この暗い雰囲気から、ちょっと明るくした、救いのあるメロディを持ってきたくて展開を変えて。でも、その後ろではまたゴニョゴニョと何か言ってる。ただ、ここはナオくんの歌をメインにして、その語りはあえてあまり聞こえないようにしたんですね。何を言ってるのか知りたければ、歌詞カードを見てほしいなと。