ネクライトーキー、二度目のセルフカバーで切り拓く可能性 5人が石風呂の楽曲と向き合い続ける意味とは?
ネクライトーキーがミニアルバム『MEMORIES2』を6月15日にリリースした。朝日(Gt)がボカロP・石風呂として発表した楽曲をリアレンジして音源化するセルフカバー作品であり、『MEMORIES』(2019年)の続編となっている。ネクライトーキーの結成からすでに5年が経ち、音源やライブで石風呂の曲をカバーすることがバンド活動のリズムになりつつあるが、今回は昨年のオリジナルアルバム『FREAK』を経たからこそ、そこと対峙するような作品として作られたとも言えるだろう。セルフカバーとはいえ、ボーカロイド楽曲をバンドの生演奏でアレンジするのは容易ではないはずだが、そこで見せる一人ひとりのアイデアやテクニック、そして5人でのまとまりこそが、ネクライトーキー独自の魅力である。誰よりも楽しみながら、それでいて真摯に音楽と向き合う5人に話を聞いた。(編集部)
「思い出にしておくのがもったいない曲たちを、丁寧に聴き返したい」
ーー昨年リリースされたアルバム『FREAK』は、ミュージックラバーとしての色々なエッセンスが凝縮されたネクライトーキーの到達点のような作品だと思いました。そこから大きなツアーを経て、「次はどうなる?」と思ったら2作目のセルフカバーミニアルバムのリリースということで、ちょっと意表を突かれました。1作目の『MEMORIES』をリリースしたときから2作目を見据えていたんでしょうか。
朝日:いつか2作目を出そうっていう話はしていました。正直『FREAK』を作ったあと、俺すっごく疲れてて、そんなに曲を作りたくないっていう……(笑)。だからセルフカバーならどうにかなるかなって。
藤田:そんなネガティブなこと言いますか(笑)? まぁ『MEMORIES』のときに溢れた曲が2曲あったので、それはいずれ絶対音源化したいなと思ってたし、他にもツアーのたびにみんなのやりたい曲が溜まっていったんですよね。それもあっていいタイミングでした。
中村郁香(以下、中村):収録曲のうち、3分の1はもともとライブでやってた曲だから音源化しないのもねっていう感じで。
カズマ・タケイ(以下、タケイ):『FREAK』は、今の朝日が本気で自分と対話して出てきた真面目な部分を凝縮したアルバムなので、『MEMORIES2』はそれと対峙する形というか。若いころの朝日が作った曲は歌詞やアレンジが尖っていて、今と真逆なんですよ。だからその振り幅が面白いんじゃないかと思った部分もあります。
中村:若さがあるよね。
ーーなるほど。朝日さんはゼロから曲を作るのがなかなかうまくいかない中で、セルフカバーだったらできそうだと思ったんですね。
朝日:自分が気に入っていた曲ばかりでしたしね。あとすごく良い気分転換になりました。昔の曲に触ってると「いや、もっと作れるわ」って思えたので、今は楽しく新曲を作れています。
ーーボカロP出身のソングライターを含むバンドは他にもいますが、ボカロとバンドでどこかベクトルを分けているイメージがあるんです。でもネクライトーキーは、石風呂時代の曲もバンドでやっているのが面白いですよね。ネクライトーキーにセルフカバーが必要なのはなぜだと思いますか?
朝日:理由は色々あるんですよね。ライブでやるなら音源もあった方が絶対に楽しめるし、すごく若いころに作った曲だから、今ならもっとできるのにみたいな気持ちもあるし。あと10年前に作った曲が今でもちゃんと届けられることが嬉しいですね。今はどんどんアップデートしていく時代なので、昔の曲を届けるっていうのは逆行してるかもしれないけど。そもそも昔作った曲のリメイクって、何かきっかけがないとできないものですが、僕らにはボカロとバンドっていう違いがあるから自然な流れで出せるんですよね。思い出のままにしておくのがもったいない曲たちを、ネクライトーキーを好きでいてくれている人たちと、ちゃんと丁寧に聴き返したい。そういう願望と押しつけみたいな感じです(笑)。
ーー楽曲への愛ですね。ネクライトーキーって、朝日さんも含めメンバーの皆さんが朝日さんの楽曲大好きですよね。
藤田:はい、大好きです。演奏させてもらえて光栄だと思ってます。
朝日:そこまで言われると……(笑)。
ーー今回の収録曲はどうやって選んだんですか?
藤田:ツアーをやって「新しい石風呂曲やりたいね」「どれやる?」って話し合って決めた曲もあるし、それとは別に選曲会議で決めた曲もあります。
ーー選曲会議はどんな風に進むんですか?
中村:まずみんなで候補曲を挙げるんですけど、最終的には朝日さんの思い入れとかが決め手になったかな。
タケイ: 5人いるとさすがに意見が割れるので、最後は朝日が決めますね。
日本松ひとみの参加がもたらした新たな風
ーーなるほど。今回、日本松ひとみ(ex.東京カランコロン)さんが「君はいなせなガール」にゲストボーカルとして参加されていますね。
朝日:この曲、僕自身は気に入っていたんですけど、実は技術的に可能なのかがわからなくて長い間寝かせていたんですよね。
ーー技術的にというと?
藤田:ツインボーカルの曲なんですけど、一人はもっさだとして、ライブだともう一人が私になるんです。でもベースを弾きながらあの曲を歌うのは技術的に厳しいかなっていうことで『MEMORIES』への収録は見送りました。それで『MEMORIES2』の話が出始めて、今回チャレンジしてみた感じですね。
ーー藤田さんの成長によって演奏できるようになった曲だったんですね。日本松さんを迎え入れた経緯も知りたいです。
朝日:他にも候補の方は色々いたんですけど、元々ボーカロイドで曲を作ったときに、なんとなくせんせい(日本松)の声を想像してたんです。今は積極的に音楽活動をやっているのかわからなかったんですけど、ダメ元で声をかけたらOKをもらえました。
ーーそのオファーは日本松さんも嬉しかったでしょうね。イメージの元となった人だと伝えましたか?
朝日:レコーディング中にこっそり伝えたら、「えーそうなの?」みたいな感じでしたね。
タケイ:すごく喜んでいるように見えたよ。
ーー日本松さんのどういうところに魅力を感じてたんですか?
朝日:そもそもボーカロイドって打ち込みだから、あまりピッチのランダム性がないんですよね。昔は“電子の歌姫”っていう触れ込みもあったくらいですから、人らしく歌わせるものではなかった。それをもっと人らしく歌わせるにはどうしたらいいか、どうしたら飛び道具みたいな飛び抜けた感じの歌になるのかなって考えたときに、せんせいのあの柔らかさとポップさが揃った歌声が理想に近かったんです。
ーーそれが実現したのはエモーショナルな話ですね。音源を聴くと、もっささんとは声のタイプがかなり違うから聴き心地が良いし、面白かったです。レコーディングは一緒にやったんですか?
朝日:7割くらいもっさが終わらせた状態で日本松さんに来てもらって、擦り合わせながら一緒にやっていく感じでした。
ーーもっささんは、誰かと一緒にネクライトーキーの曲を歌うのはこれが初めてですか?
もっさ:初です。私は日本松さんが来てくれることにウキウキしてました。バンド結成当時から朝日さんに「この曲はせんせいに歌ってほしいんだよね」ってずっと刷り込まれてきたので、一番良い形になったなと。レコーディングで、冒頭の〈ちょっと嘘つきに生きていたい〉っていうフレーズを聴いたとき、ディレクターさんと朝日さんと私が、「あ、ハマった……!」って息を飲んで一瞬後ろに反り返ったのをよく覚えてます(笑)。
藤田:日本松さんの声が入った音源を聴いたときに、「本物や!」って思いましたね。本物はボカロなんですけど(笑)。
中村:私もそこで「わーお!」ってテンション上がっちゃいました。あと後半で掛け合いして一緒に歌ってる部分があるんですけど、声質が違うのにこんなに合うんだって驚きましたね。さらにライブではまた声質の違う藤田とのツインボーカルも聴けるから、同じ曲でも聴かせ方が変わって面白いなって思ってます。
タケイ:みんな聴きながらニヤニヤしてたよね。
ーープリプロで曲を詰めていく時間もありました?
タケイ:この曲は一度もライブでやったことがなかったので、ゼロから練習しました。ボーカルの技術的な問題という話がさっき出ましたが、楽器も相当大変でしたね(笑)。
ーー楽曲の展開も複雑ですからね。『FREAK』と比べて、『MEMORIES2』のレコーディングはリラックスできましたか、それとも別の緊張感がありましたか?
タケイ:人によって違うかも。僕は音色や原曲との差別化については考えましたけど、「サカナぐらし」を除けば基本的な展開はボカロ版と大きく変わらないので、そういう面では苦労しなかったから、まぁリラックス寄りですかね。
藤田:私は音色のイメージなどで悩んだ部分はありましたね。あとボカロだけじゃなくて、実際の演奏でレコーディングしてる原曲もあるので、それとはまた別でネクライトーキーとして良いものにしたいっていう気持ちもありました。とはいえ私もリラックス寄りです(笑)。
ーー「ロック屋さんのぐだぐだ毎日」は長めの間奏がありますし、アウトロもがっつりプレイされていましたね。
タケイ:この曲に関してはガッツに全振りです(笑)。細かく考えながらやるというよりは、もう勢いで。
藤田:あんまりテイクを重ねたくなかったですね。昔ライブでやっていたので、そのときの気持ちとかを思い出しながらやりました。
タケイ:ライブ感そのままにやってますね。