米津玄師、BUMP OF CHICKEN、緑黄色社会、羊文学……映像作家・林響太朗のMVに見る多彩な表現技法
2019年のRyu Matsuyamaとの対談(※3)では、「MVはアーティストのものだと思っている」「作家押しのMVは作らないようにしようと気をつけてます」とも発言しており、あくまで音楽をよりよく聴かせるための映像を追求しているようだ。ゆえに、バンドの演奏を鮮やかに映すことにも長けている。雨のパレード、マカロニえんぴつ、緑黄色社会など様々なバンドのMVでアグレッシブな接写による演奏シーンを見ることができる。
そんな林の作品において特徴的なのは“光”の表現だろう。緑黄色社会の「LITMUS」では自然光の淡い揺らぎや、時間による景色の移ろいを捉えたルックが印象に残る。さらに“光“とともに映し出される“影”も演出として機能していることにも注目すべき点だ。時折シルエットになるメンバーの姿はどこかミステリアスで、“誰もが抱えている秘密”という楽曲のテーマにも寄りそっている。
あいみょんの「愛を伝えたいだとか」や星野源の「Pop Virus」ではワンカットで撮影する中で照明の色合いを変えながら曲展開を際立たせるなど、光の切り取り方は林の持ち味であるが、それと同時に影の見せ方も美しいのだ。羊文学の「OOPARTS」はまさにその真骨頂。演奏シーンは白いライティングと漆黒の陰影が全編通して目を惹きつける。そしてそれ以外のシーンのレトロな色調とのコントラストによって、羊文学ならではのノスタルジーと神秘性を切り取っているのだ。
かつて小説家の谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』という随筆で、電燈のない時代に培われた「何でもない所に陰翳を生ぜしめて、美を創造する」という東洋人の感性について記していた。林の撮るMV、特に自然光が印象的な作品(BUMP OF CHICKEN「クロノスタシス」、緑黄色社会「幸せ」、odol「光の中へ」など)では特に“陰翳”の中に息づく美しさを探究したようなシーンが数多くあるように思う。美しい光とそこに残される影をも零さないMVたちは、古来より変わらない根源的な情緒へと訴えかけてくる作品と言えるだろう。
林のMVは記名性の強いものが多いように思えるが、キャノンのイベント『Canon Creator Society LIVE』(※4)において自らの作家としての個性について「自分の独自性は分からない」と語っていたことは驚きだった。しかし、ある意味でその流動的かつ柔軟な創造力こそが林の強い作家性と言えるのかもしれない。映像作家として名を馳せつつある林だが、今後の展望として映画監督業を挙げていたり、空間演出/インスタレーションといったアート方面での活動についても興味を示している。クリエイターとして網羅できる分野の可能性については幅広く、その活躍には今後も期待せざるを得ない存在だ。
※1:https://vook.vc/n/3483
※2:https://realsound.jp/tech/2021/11/post-914020.html
※3:https://www.cinra.net/article/interview-201805-ryumatsuyama
※4:https://youtu.be/qpr_mDuPUM4