ao、若き表現者が丁寧に紡ぐ歌声とリリック 堂々とした佇まいでオーディエンス魅了した人生初ライブ

 この日の最後に演奏したのは、6月8日にリリースされる新曲「リップル」。曲の背景について、aoはこう語った――「今までなんとなく生きてきた主人公がいて、誰かが書いたシナリオを進んでいるような気もするし、それを自分で選んでいるような気もするし、とにかく曖昧に過ごしていたんですね。ある日一人の存在が現れて、その子を引っ張り出して新しい世界を広げていく。そういうストーリーをもとに作った曲です。最近私もそういう出会いをして、音楽への考え方が広がりました」。ハイハットの刻みが心地よく鳴るアップテンポなエレクトロポップで、軽快なビートと深みのあるaoの歌が交わることによって新鮮な色彩を帯びた楽曲に仕上がっていた。「リップル」など新曲3曲を含む、計10曲を披露し、彼女にとっての初ライブは幕を閉じた。

 aoの声と歌唱はやはり逸材であると、ライブを見ても思わされた。彼女の歌声は、様々なサウンドスケープを描ける可能性を持っている。グレース・ヴァンダーウォールをルーツにして響かせる歌は、J-POPらしくないメロディの紡ぎ方、言葉の揺らし方・伸ばし方、発声の仕方や息の混ぜ方が新鮮で心地いい。今後、ステージ上で自分の殻をさらに破って、より音楽に浸かりながら、場を掌握するパフォーマンス力を身につけたときに、どんなライブ空間ができ上がるのかがとても楽しみだ。

 aoは自身で作詞作曲を手掛けているが、彼女の書く曲は、海外アーティストや同時代のグローバルな音楽に影響を受けた上で、J-POPシーンにおいてはユニークなサウンドやメロディを見事にポップスに昇華している。それに加えて、リリックも奥深く、作詞力のポテンシャルも大いに感じさせる。各曲において、言葉の並べ方が面白く、自分なりのテーマやメッセージが固まっていながらも、聴いた人の想像が自由に膨らむ歌詞を綴ることに長けている。また、グレース・ヴァンダーウォールの影響を感じるのが、彼女が『アメリカズ・ゴット・タレント』で披露したオリジナル曲は、学校の廊下での出来事や自分と身近な人の間で起きたことを歌詞にし、自分を縛るものから自由になって、「自分」を知るための意志を歌い放つものだったが、aoもまさにそうだということ。音楽の中で言葉を吐き出すことで自分の心情や出来事を整理して次に歩んでいける、とでもいうような、自分で自分を進めるための歌を紡いでいるように思う。そんな芸術こそが人の心を動かすのだと、この若き表現者からライブでも教えられた。

 aoは多くの人に愛されるポップさを持ちながら、日本の音楽に新たな種類の「美しさ」を加えてくれる存在になっていくだろう。aoがグレース・ヴァンダーウォールに影響を受けて人生が変わったように、ao自身が同世代や下の世代の人たちの人生を動かすきっかけを与える存在にすでになっていることは、このライブに足を運んだオーディエンスたちの表情が証明していた。

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