ライブでの声出しに対する意識に変化も コロナ禍以降、セットリストや楽曲に与えた影響

 しかし声出しが禁止されて困らない人も、そのようなルールが及ぼす影響を避けることはできない。何故なら声出しの有無は、ライブの内容そのものにも変化をもたらすからだ。Dragon Ashの例を挙げてみよう。2002年リリースのヒット曲「Fantasista」はライブの定番曲と知られ、サビでは会場全体を巻き込む大合唱になるのがお決まりであった。しかしコロナ禍以降、バンドはこの曲を基本的にセットリストから外すようになっている。思い切った決断だが、これはシンガロングが楽曲にとって必要不可欠なものであると考えているからだろう。

 他にも、L'Arc~en~Cielが昨年開催したライブにおいてコロナ禍ならではの変化があった。「MY HEART DRAWS A DREAM」や「あなた」といった観客の大合唱が定番となった楽曲で、軽く鼻歌のように歌う「ハミング」が推奨されたのだ。歌詞がなく合唱ほどの声量にはならないものの、1万人以上の小さな声が合わさると想像以上にしっかり曲になっているのが興味深い。たとえ不完全であってもファンの声を必要としているという事実は、ミュージシャン側にとっても声出しがライブにおける重要な要素であることの何よりの証左だ。

 またアイドル楽曲においては、ライブでファンによるコールが入ることを前提として作られているものもしばしば見受けられる。しかしコロナ禍以降こうした光景が見られなくなったため、楽曲制作においても必然的に変化が生まれることとなった。つまり声出しの有無は全てのライブ参加者、アーティスト、そして作り手にまで広く影響を及ぼしていることがわかる。ひいてはライブに参加しないリスナーにとっても、リリースされる楽曲の変化という点で影響がないとは言い切れない。

 最近では、Jリーグが「声出し応援エリア」を6月から段階的に導入すると発表した。該当エリアにおいては座席間隔を広く保ち、不織布マスクを着用した上で声を出しての応援が可能になるのだという。ライブの現場において同様の方法をとるのは難しいかもしれないが、声出し解禁のタイミングは着実に近づいているのだろう。それまでは、ルールを守った上でライブを楽しみたいものだ。

※1:https://corona.go.jp/package/assets/pdf/jimurenraku_seigen_20220304_02.pdf

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