マルチクリエイター Payao、Amazonでの会社員経験を経て“言葉”と向き合う今 右脳と左脳のハイブリッドで生まれる音楽とは
「自己肯定感、自己受容」の力を高めて、前向きになってほしい
ーー最新曲「酎ハイラプソディー」は、〈缶酎ハイを片手にはしゃぐ君〉に対する思いを描いた、ノスタルジックなポップチューン。〈短い間だとしても人は愛しあえるなら〉という歌詞、京都の街並みを映したMVもそうですが、親しみを感じさせる作品ですね。
Payao:ありがとうございます。「酎ハイラプソディー」はサウンドも歌詞の言葉選びも、ポップ全開ですね。MVはちょっとユルいというか、「聴き手の方に寄り添う」というテーマもありました。
ーーPayaoさんは楽曲以外にも、風景写真に言葉を添えたツイートも積極的に行っています。
Payao:最初は副産物のようなものだったんですよね。今はとにかく情報量が多いので、楽曲のリリースが3カ月に1曲くらいのペースだと、沢山の情報に埋もれてしまう。「楽曲以外に毎日発信し続けられるコンテンツはないだろうか」と考えたときに、自分はやはり「言葉」がいいなと。弾き語り動画もいいんですけど、日々投稿したいのは詩だなと思ったんです。日常のなかで浮かんできた言葉、考えた言葉と一緒に、写真を添えてアップすれば、そこに物語が生まれるんじゃないかなって。最初は楽曲制作の合間にやってたんですけど、多くの方から反響をいただけたんですよね。
ーー言葉を求めているユーザーが多いんですね。
Payao:そうだと思います。もっと踏み込んで話すとーーこれは自分がやっていること全部に言えるんですがーーPayaoの楽曲や言葉、活動によって「自己肯定感、自己受容」の力を高めて、ちょっとでも前向きになってほしいという気持ちがあるんです。曲作り、歌詞、ツイートもそうですけど、「いろいろあるけど、そのままでいいんだな」と思ってもらえたらなと。「この人もこんなに悩んでるだな」でもいいんですけど、ちょっとでも安心してほしくて。そのことにはっきり気付いたのは、この1年くらいなんですけどね。
ーー表現活動を続けるなかで、モチベーションが明確になってきたと。
Payao:はい。今って、悩みがあるとすぐ検索しちゃいますよね。たとえば眠れないときは“不眠”を検索して、とりあえず答えを見つけて、実践しないで終わったり。つまり自分で考えなくても“答えらしいもの”を一瞬で見つけて、満足できてしまう。そういう状況において、クリエイティブはまったく正解がないんです。特に詩には定型がないし、文字数も決まってない。その詩がどういうものか、良いか悪いかも、受け取ってくれる各自が判断するものなので。答えを出さなくても大丈夫だし、自分で考えるツールの一つにしてもらえたらなと。
ーーPayaoさんの言葉をきっかけにして、じっくり自分と向き合ったり、考える契機になるわけですね。
Payao:僕のフォロワーのみなさん、本当に思慮深いんですよ。歌詞や詩を深読みして、詩的なリプライを返してくれて。そういう行為は、日常のなかにある細かい幸せを感じられる力につながると思うし、すぐに答えや結果を求める現代の風潮へのアンチテーゼでもあるのかなと。そこはこれからも伸ばしていきたいですね。「深夜の二時間作詩」というアカウントもその一つで、こちらからお題を出させてもらって、みなさんに詩を投稿してもらうんです。たとえばイヤなことがあったとしても、その思いを言葉に託して投稿して、“いいね”が付けば少しは気持ちがラクになるんじゃないかなって。
ーー言葉を受け止めて、自分のなかで思索して、詩という形にして投稿する。時間をかけた豊かな行為だと思いますが、一方でPayaoさんは、“短期間でいかに利益を上げるか”というIT戦略にも長けていて。この対比は特徴的ですよね。
Payao:おっしゃる通りだと思います。IT企業の多くは、長期的に何かを考えることが足りてないと感じます。僕は京都に住んでいるんですが、京都には“天保〇年創業”の和菓子屋さんや料理店がけっこうあるんですよ。そういう方々とお話をすると、“次の100年”の話になるんです。“100年後のために、今、何ができるか”という発想を持っているし、それはつまり、“良いものは100年後も残る”と実感できているからだと思うんですよね。ITやアパレルはそうではなくて、次に来るトレンドを予測しながらどんどん変化していかなきゃいけない。先のことは長くても3年後くらいまでしか中々考えられないんです。
ーー確かにそうですね。
Payao:ただ、僕たちが“きれいだな”“いいな”と感じるものって、普遍的だと思うんですよ。恋愛しているときの感情も、おそらく『源氏物語』の頃から根本は変わってなくて。それを突き詰めると“いいものとは何か?”という話になるので、難しいんですけどね。
ーー音楽業界でも効率が重視されることは多いですからね。
Payao:これは僕の印象ですが、音楽業界はどちらかというと左脳が足りていない気がします。マーケットが何を求めているかをそこまで調べようとしないというか。あと、CDの単価は大体同じですけど、あれもちょっと不思議ですよね。ハイブランドの服が高いように、お金をかけて作った作品であれば、1万円で売ってもいいと思うんです。
ーーPayaoさんの活動は「酎ハイラプソディー」以降、次のフェーズに入るそうですね。
Payao:はい。ツイートもさせてもらったんですけど、第1章は実験的なポップス、第2章は心に残る歌詞を追求してきて。第3章はこれまでを踏襲しつつ、世間に伝わる、聴いたことがないものを作りたいんですよね。音楽やカルチャーは、その前の流行を否定しながら伸びてきたと思っていて。自分の活動もそうで、自己否定しながら進んでいきたいんですよね。