稲垣吾郎を紐解く言葉:花、ワイン、ラジオ……アイドルの概念を更新し続ける秘訣とは

 「アイドル=元気いっぱいでハツラツ」というイメージが定着していくなかで、早くからミステリアスでクールという独自のキャラクターを確立していった稲垣吾郎。

 まるでグループの調和を図る“中間管理職”的なスタンス。好きな音楽を問えば、渋谷系や海外のポップシンガーの名前がサラリと並び、実年齢よりもグッと大人びた感性をのぞかせてきた。そして年を重ねるごとに、文学や映画、芸術を愛し、著名人とのトークからもクレバーな立ち回りを見せていく。

 一方で、髪型の乱れを気にするなどナルシストな部分を自らネタにしたり、“稲垣吾郎っぽさ”を逆手にとったお笑いネタでイジられるのを「うれしい」と笑ったり、親しみやすさも両立していく。その品のある佇まいと、ついつい「吾郎ちゃん」「ゴロさん」と呼びたくなる人間味あふれるスタイルは、“大人アイドル”の先駆けともなったと言える。

 30年以上も国民的アイドルとして活躍を続けながら、まだまだ新しい顔を見せてくれる余裕を感じさせる。そんな稲垣の魅力を、印象的な言葉たちから紐解いていく。

花:「蓮のように、漂うように生きていきたい」

 稲垣のミステリアスさは、彼の言動から押しつけや決めつけを感じないからかもしれない。例えば、花のある生活。稲垣は行きつけのフラワーショップを持ち、定期的に配達してもらうサービスを利用して常に花が部屋に飾られている状態を保っている。

 花好きがすっかり定着した稲垣だが、実は17歳のころに受けた雑誌のインタビューでは「花を見てキレイだとは思うけどね。男ってあまり花に興味はないから。お母さんや好きな人にあげるときぐらいしか、花を買おうなんて思わないんじゃないかな」と少々尖ったコメントを残していたことも。

 現状とは異なる過去の自分。しかし、稲垣はその正反対に感じられる自分に対しても「(花が)好きな片鱗は隠れていますよね」「まだ自分のために買うということに対する照れがあったのかな」と寛大な姿勢を見せ、むしろその変化を微笑ましく語る。否定や断定ではなくフワリとかわしていく。その様子が、稲垣を掴みどころのないミステリアスな存在に見せつつも、柔軟な人となりを感じさせるのだ。

 「自分の芯というものはしっかりとありながらも、風のように、蓮のように、漂うように生きていきたい」とは、フォトエッセイ『Blume(ブルーメ)』を刊行した際のインタビューで語られた言葉(※1)。蕾がほころぶ美しさを愛でるのはもちろん、風や水に揺られながらも凛として咲く強さもまた花の魅力であり、稲垣の美学に通じているように感じた。

ワイン:「自分なりの組み合わせを発見してもらいたい」

 アイドルが語る趣味として新しさを感じずにいられなかったのが、稲垣のワイン好きだ。それまでも年上の友人関係に恵まれ、本人曰く若くから「背伸び」をしながら趣味を広げていったという稲垣。そんな彼がワインにハマったきっかけは、25歳でドラマ『ソムリエ』(フジテレビ系)への出演だったという。

 ソムリエ役を演じるにあたって学び始めた稲垣の知識量は、今やワイナリーの人からも「まるでプロの人と話しているみたい」と驚かれるほど(『週刊朝日』2019年9月6日号より)。日本ソムリエ協会の名誉会員であり、フランスのルドーから“ワいるみた”の称号授与という芸能界でも屈指のワイン通としても知られるようになった。

 その見識の広さはレストラン&カフェ『BISTRO J_O』『J_O CAFE』のプロデュースの際にも発揮されており、「僕、いつかワインを造ってみたいなあ」という夢も抱いているというから、稲垣にとってワインに関わる仕事はライフワークとも言えそうだ。

 今年3月、稲垣はノンアルコールワインテイスト飲料『ノンアルでワインの休日』の新CMキャラクターに起用された。そのインタビューで語られたのが「ワインはマリアージュが大切ですからね」だった(※2)。そして「赤にはお肉、白にはお魚を合わせたいなと思いますが、スタンダードに捉われることなく、いろいろな組み合わせを試して自分なりの組み合わせを発見してもらいたいですね」と続ける。

ノンアルでワインの休日『ノンアルソムリエ』篇 30秒 稲垣吾郎 サントリー

 新しい組み合わせを楽しむということ。それは“稲垣吾郎”という素材を様々な作品と掛け合わせていくことを楽しむ、稲垣自身のスタイルにも当てはまるように思える。日頃、冷静で知的な稲垣が振り切ったコントを演じる面白さ。キラキラした印象を持つアイドルが狂気に満ちた悪役を演じて見せる覚悟……これまでもそんな意外と思われる組み合わせが披露されるたびに、嬉しい発見へと繋がっていった。

 そして、どんなにクセの強い作品と組み合わせてもおいしく成立するのは、稲垣の芯の強さがあってこそ。そして稲垣の味を知れば知るほど「新しい何かと組み合わせた稲垣吾郎を見てみたい」と知的好奇心をくすぐられる。また、それを誰よりも楽しみにしているのが彼自身なのだと思うと、さらに稲垣吾郎という人の味わい深さが身にしみる。

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