花譜×長谷川白紙が探求した、歌声が持つ未知の可能性 意外な共通点も明らかになった「蕾に雷」コラボ対談
花譜が、3周年記念プロジェクト『組曲』第7弾として、長谷川白紙とのコラボ曲「蕾に雷」をリリースした。本楽曲は、長谷川白紙が花譜との会話からイメージを膨らませ、電気や雷というモチーフを音楽に昇華した楽曲。花譜による“電気の声”をサンプリングして楽器のように使用するなど、これまでにないアプローチを見せる実験的な音像となっている。
リアルサウンドでは、花譜と長谷川白紙の対談を企画。「蕾に雷」の制作秘話を発端に、トークを重ねる中で出てきた意外な共通点や、音楽にとどまらない質問合戦など、それぞれのアーティストとしての表現はもちろん、素顔まで垣間見える対談となった。(編集部)
「構造的な不安定さと芯の強さが同居している」(長谷川)
ーーお互いのことを知ったきっかけを教えてください。
長谷川白紙(以下、長谷川):クリープハイプの「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」のカバーで初めて花譜さんの歌声を聴いて、それがもうズッキュン! でしたね(笑)。声がヤバすぎて。花譜さんの歌声によってクリープハイプの歌詞に内在されていた視点が180度切り替わるような感覚を受けて、うわぁーってなりました。
花譜:ありがとうございます! めちゃくちゃ嬉しいです。私は崎山蒼志さんのTwitterで長谷川さんのことを知って、そしたら私の好きな諭吉佳作/menさんとも仲が良いことも発見して、そこから「あなただけ」を聴いたんです。それがすごく衝撃的で、なんだこの曲はと思って色々聴かせていただきました。素晴らしい作品をいつもありがとうございます!
長谷川:そんな……(笑)! こちらこそ素晴らしい曲をありがとうございます!
ーー長谷川さんは、花譜さんの歌を聴いてどんなことを思いましたか?
長谷川:発声のポジションがすごく上の方にあるのが特徴的で、ポジションが高いと猫の鳴き声のような高い音になっていくんですけど、こういった発声でわたしが歌うとしたら、楽曲の中で一瞬だけその音色が登場するような、飛道具的な使い方になることが多いんです。でも、花譜さんはそのポジションの緊張感を保ったまま歌い続けることができてすごいなと。
あと、声の入りと終わりの処理がすごく独特だと感じました。人の歌声は、楽音的な音やノイズ的な音など、色々な音が混ざって出来上がっていると思うのですが、声の入りや終わりでそのノイズ的な音をあえて発声している印象があって。もともとの声帯の作りももちろんあると思うのですが、それをコントロールされているところが素晴らしいなと。
花譜:あ、暑い(笑)!
長谷川:暑い?
花譜:(褒められて)体が熱くなりました(笑)。
ーー(笑)。花譜さんはボイトレはしているんですか?
花譜:上京するまではしていて、先生からも発声に関しては人と少し違うけど、そこが良さだからと言われていました。なので、ボイトレでも発声の仕方というよりも、体をどう使えばその音が出るのか、それまで感覚的にやっていたことを意図的に出せるように勉強していました。私は胴体の響きが少なくて、頭の方に響きがあるから高い音になりやすいとも言われていて。
長谷川:確かにそうかもしれませんね。いわゆるベルカント唱法のような、伝統的な歌唱法をマスターした方の歌声って、重厚に織られた絨毯みたいなイメージを抱くことがあるんですね。でも、花譜さんの歌声は引っ張れば千切れそうなくらいの繊細さがあると同時に、絶対に切れない力強さも感じるというか。構造的な不安定さと芯の強さが同居しているような印象があります……なんかわたしだけベラベラと話してしまって、ごめんなさい(笑)!
花譜:いやいや、もっと話してほしいです! すごく嬉しいということをお伝えしたいです。
「歌えば歌うほど私自身が曲の中に沈んでいく」(花譜)
ーーでは、「蕾に雷」の制作について聞かせてください。長谷川さんは楽曲提供する際、相手の方にたくさん質問をしてイメージを膨らませていくんですよね。
長谷川白紙:そうです。半ば恒例になりつつあるのですが、共作してくださるお相手の輪郭を確かめていく作業というか。その方が何を思っているのか、どういう反応を見せるのか、そういうことを集積してイメージの起爆剤にするんです。その回答自体が歌詞や曲に直接反映されることはあまりないのですが、わたしの想像の原動力になるような作業でして。でも、花譜さんの場合は、すごく不思議な体験になったんです。花譜さんの話を聞きに来たのに、なぜかわたしが勝手に喋り出してしまうという(笑)。
花譜:私が話した分、返してくださるのが嬉しかったです。私が特に驚いたのが、長谷川さんの口から『アメトーーク』(テレビ朝日系)というワードが出たときで。長谷川さんも『アメトーーク』を見たりするんだって(笑)。質問の内容も不思議で、突拍子もないことというか。
例えば「川は好きですか?」みたいな、今まで考えたこともないことを聞かれて。あと、「この世で一番怖いものは何?」という質問があって、その時は「死ぬこと」と答えたんですけど、よくよく考えたらそれは一番じゃない、みんなが怖いものだったなって気がついて。私自身が本当に怖いのは、人に嫌われることだと気づきました。長谷川さんとお話しする中で、私自身のことを考えるきっかけになって、一つ自分のことがわかりました。
長谷川:それはよかったです。意味のないような質問をずっと繰り返すだけなんですけど、何かしら発見になったのであれば嬉しいですね。あと、花譜さんが絵の話をしているときに、女の子の絵を描くことが多いとおっしゃっていて、特に髪を描くのが気に入っていると話していたんですけど、それがすごく印象的に残っていて。髪って線の集まりだと思うのですが、その線の集まりを描くために対象を選んでいるのかなと。これはわたしの解釈ですけど、それってあるものの要素を分解して、再解釈するような作業に近いのではないかと思いましたし、その思考法がバーチャルアバターを持つ花譜という存在とすごく重なったんです。そこは曲を作る上でかなり大きかったですね。
ーーMVでも分解と再構築のような演出が印象的に取り入れられていましたね。そういったやりとりから完成した「蕾に雷」を初めて聴いた時はどう思いましたか?
花譜:最初にデモを聴いたときに、すぐ歌いたくなったんです。最初は感覚的に歌って、それを長谷川さんに提出したら、良かったところや楽曲の解説をすごい長文でいただいて。それで、私の方も「これはこうだったんだ、ならここはこうしようかな」みたいなイメージが止まらなくなりました。そこからいっぱいレコーディングした中から厳選したものをお送りして。あと、長谷川さんから“電気の声”が欲しいというお願いがあって、その作業がめちゃくちゃ楽しかったんです!
長谷川:この曲は電気の曲だと思ったときに、歌が終わってからのパートは花譜さんの声で“電気のパーティー”みたいなものを表現しようと思ったんです。花譜さんの声は可能性に満ち溢れているというか、どんな発声でもできてしまうのではないかと勝手に思っていて。一か八かで「電気みたいな声をください」とリクエストしたら、120点のものがきたんです。最初はびっくりしたんですけど、いや、花譜さんならできちゃうだろって(笑)。その時は、自分の中でいろんな感情が渦巻きましたね。できないと思ったことを当然のようにできてしまうことに嫉妬すら覚えたというか。
花譜:いやぁ、嬉しいです(笑)! 最初に“電気の声”と聞いた時は「ピーーー!」みたいな音が思い浮かんで、そういう音をたくさん録ったんですけど、声だけで人じゃないものを表現できるんだと思って。“電気のパーティー”と聞いた時も、私の中のパーティーはズンズンなっているイメージだったので、胸に響くような音を作ってみたり、「これはめっちゃ電気っぽいな」とか考えながら色んな音を録っていったんです。それで出来上がったものを聴いたら、私の声の8小節の後に、長谷川さんが「俺のターン!」みたいな感じでさらに8小節を入れていて、そこも笑っちゃいました(笑)。
長谷川:あのパートも半分くらいは花譜さんの声を使ってるんですよ。花譜さんが作ってくれた低音の音を引き伸ばして、割った音が「俺のターン!」の下でも鳴っていたり、声を細切れにしてスネアの代わりに使ってみたり、あの作業は死ぬほど楽しかったです! 手を叩いて笑っちゃいました(笑)。
花譜:あれも私の声だったんですね! 私も最高に楽しかったです! あと、私が長谷川さんの曲を聴いて思うのが、すごく抽象的になっちゃうんですけど、心の奥の方で「この感覚なんか知ってる」みたいな気持ちで。私の中にあったことを少しずつ思い出して、懐かしくなったり、寂しくなったり、楽しくなったり……そういう気持ちにどんどん埋もれて押し潰されていくような感覚があるんですけど、その重量感が心地いいというか。「蕾に雷」を聴いた時も同じで、歌えば歌うほど私自身が曲の中に沈んでいくような感覚がありました。
長谷川:歌詞を書いているときに、少し押しつけすぎているかなと思ったんですけど、そう感じていただけたなら良かったです。花譜さんの中にある物語に「蕾に雷」を落とし込んでくれたことが純粋に嬉しいですね。