BTSが『PTD ON STAGE』を経て掴んだもの ラスベガス公演からも伝わった“7人のヒーロー”たちの軌跡

“世界で一番弱い英雄”たちは、7人揃ってスーパーヒーローに

 『PTD ON STAGE』が公演ごとに顔つきを変えてきた部分といえば、アンコールの曲目だ。最終公演では「HOME」「Anpanman」「Go Go」そして「Permission to Dance」がセレクトされた。なかでも注目したいのは、「Anpanman」だ。同タイトルで示しているのは、おなかが空いて困っている子がいれば、自らの顔のアンパンを分け与えるあの『アンパンマン』のこと。この曲について、以前RMはV LIVEで「世界で一番弱い英雄。頭を取ると力がなくなります。体調も良くないし、筋力もない。だけど今日も一生懸命頑張る」と話していた。そして、「一番僕たちらしい歌だと思います。BTSのアイデンティティはこの『Anpanman』だ」とも。

 『PTD ON STAGE』を開催した昨秋から今回の最終公演まで、様々な試練もあった。それでも7人フル出演のセットリストを変えることはなく完走することにこだわったのも、彼らなりの考えがあってのことだったように思う。

 「正直、僕らのステージでメンバーが1人欠けるのはとてもリスクが高いです。それでも健康が第一ですので大切にしたいと思っています。ですが、今回JINさんにとっては違いました。練習のときもなんとかやろうと頑張ったJINさんに大きな拍手と声援をお願いします。ありがとうbro(兄弟)!」と、ケガを押してギリギリまでステージに穴を空けまいと奮闘したJINをねぎらったのは、“振り付けチーム長”と呼ばれているJ-HOPEだ。

 「顔が赤くなる」と照れくさそうにしたJINがコメントする番になると「正直、僕はチームの重荷になっていました。僕たちは7人で1つのチームとして行動するのにケガをしてしまった」と話す。すると、Vがすかさず「重荷なんかじゃないですよ」とフォローしたのだ。そのやりとりに、「DNA」でJINと手をつなぎ腕をうねらせるように踊るVが、離れたところに座ったJINを見つめアイコンタクト取るように踊っていたシーンが蘇る。

 ずっと彼らは、こうしてお互いを支え合ってやってきたのだと思い知らされる。どんなに世界的に有名な存在になったとしても、超人的な能力があるわけではないこと。だからこそ7人が揃うことで仲間を思う愛と、ピンチを一緒に乗り越える勇気を持ったヒーロー“BTS”になれるのだということを決して忘れない。

 初めてラスベガスに来たときはまだ学生だったというRMが、しみじみとここまでの道のりを語りだす。BTSになったけれど、最初は誰も知らなかったこと。見知らぬ人の家のドアをノックして「僕たちのコンサートに来てください」と声をかけた日もあったこと。そうして2017年に初めて『Billboard Music Awards』に招待され、多くのメディアに取材される存在になり、こうして5万人の前でライブができるようになった、と。だからこそ「僕らはこの愛を決して当たり前だと思ってはいけない。ありがとうございます、すべてのことに」と締めくくる。

 すると、感極まったRMに思わずJUNG KOOKが抱きつき、次々とメンバーがハグし合う微笑ましい展開に。J-HOPEが「SUGA!」と腕を広げて迎えに行くが、かねてより“愛情表現アレルギー”とイジられるほどシャイなSUGA。表情を変えずに腕を組んで「うんうん」と頷きながら、J-HOPEにされるがままになるという相変わらずな塩対応リアクションで笑いを誘うのもBTSらしい景色だ。

 『PTD ON STAGE』はセットリストも、社会の状況も、そして彼らの健康状態においても、大変なことばかりだった。だが、それだけ厳しい状況の中でも開催されたからこそ、BTSとはどんなチームなのか、彼らにとってコンサートとはどんなものなのか、またARMYとの関係性について、改めてクリアに見えたように感じる。「ライブは終わりますが、私たちの光は永遠に続きます。愛のサポート、快適さ、そしてエネルギーを共有しながら」と語られたように。7人のヒーローたちの軌跡をこれからも見届けていきたい。

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