神山羊は2020年代ポップスの最新型に “クローゼット”から世界へ羽ばたく1stフルアルバムを考察

神山羊は2020年代ポップスの最新型に

 神山羊が1stフルアルバム『CLOSET』を4月27日にリリースした。

 ボカロP・有機酸としてネットシーンで活躍していた彼が、神山羊の名義でシンガーソングライターに転じ、自分の声で歌い始めたのが2018年11月。約3年半前のことだ。1stミニアルバム『しあわせなおとな』のリリースが2019年4月。シングル『群青』でのメジャーデビューが2020年3月。YOASOBIやAdoのブレイクを経てネットシーン発の才能がJ-POPのメインストリームを担うようになった昨今の潮流の中で、神山羊はずっと次世代を担う存在としてクローズアップされ続けてきた。だからこそ、活動の初期から追ってきたリスナーにとっては、「ようやく」という感慨もあるかもしれない。

 アルバムは、コンセプトとしても、曲調やサウンドメイキングとしても、そういうこれまでの着実な歩みを一つにまとめたような一枚。そして「神山羊とは何者なのか?」というアイデンティティを改めて強く打ち出すような作品になっている。

 収録曲のいくつかから、それを紐解いていきたい。

 まずは「YELLOW」。神山羊が最初にリリースした曲が、アルバムでも「YELLOW -CLOSET ver.-」として1曲目に収録されている。

神山羊 - YELLOW【Music Video】/ Yoh Kamiyama - YELLOW

 注目は、この曲の歌詞。跳ねる四つ打ちのビートに乗せて〈クローゼットで待った今日も/小さな身体ただ寄せ合って/眠るのさ、変わるのさ/想像容易い安全〉と歌われる。つまりアルバム『CLOSET』に至るストーリーの伏線はこの時点で張られていた、ということになる。

 その「YELLOW」と対になるような曲が、アルバムのラストに置かれた表題曲「CLOSET」だ。フックの強いシンセのリフと四つ打ちのビートが導くダークなエレクトロポップの曲調で、ラストでは〈小さなこの部屋の扉を叩いている/知らない街へ連れ出していく/震える手を前に差し出している/あなたに触れるまで〉と歌われる。曲がノックの音で始まることも印象的だ。つまり、アルバムのタイトルでもありコンセプトでもある「クローゼット」は、物語の主人公が“居る場所”なのである。

神山羊 - CLOSET【Music Video】/ Yoh Kamiyama - CLOSET

 では「クローゼット」というのは何のメタファーなのか。そのことを示唆するのがアルバムのリード曲「セブンティーン」だ。

 疾走感あるギターが引っ張るハイテンポなギターロックの曲調で、〈日陰で育った価値観に/邪魔されてどうも声がでねえ〉〈外の世界は気付けば夏/今に見てろが積み重なるやつ〉と歌うこの曲。タイトルの「セブンティーン」はそのまま17歳のことだろう。思春期の鬱々とした感情をダイレクトにモチーフにした楽曲だ。

神山羊 - セブンティーン【Lyric Video】/ Yoh Kamiyama - Seventeen

 そして興味深いのは、この曲にTikTokフレンドリーな仕掛けがたくさんなされているということ。ヨナ抜き音階を上手く用いたメロディやギターリフの耳馴染みの良さもそうだし、ノリのいいテンポもそう。〈手の鳴る方へあつまって/hello?〉の掛け合いのような歌い方など、どこを切り取っても短い時間で耳を掴むような魅力を持っている。

 振り返ってみれば、YouTubeでの動画再生回数が1億回を超えた「YELLOW」も、伸びたきっかけの一つはTikTokだった。ボカロP・有機酸時代の代表曲のひとつ「カトラリー」もTikTokでバズを生んでいる。隙間の多いサウンド、フックの強いリフや耳を掴むボイスサンプルという神山羊の得意とする曲調が、もともとTikTokと親和性があったということだと思う。

 ちなみに、ボカロP・Chinozoの「グッバイ宣言」がTikTokで一大ムーブメントを生み出したのが2020年のこと。同年にはフレデリック「オドループ」がやはりTikTokでリバイバルヒットし、フレデリックは2021年の和田アキ子「YONA YONA DANCE」のプロデュース、そして先日リリースされたアルバム『フレデリズム3』収録の「ジャンキー」と続けざまにTikTokでの人気ナンバーを生み出している。

 ボカロとロックとTikTokは、一見、それぞれまったく別のカルチャーの界隈が広がっているように見える。しかし「グッバイ宣言」と「ジャンキー」を参照することで見えてくる“TikTokフレンドリーな2020年代音楽シーン”のテイストが確実にある。WurtSや和ぬか、meiyoの躍進もそこに関連しており、「セブンティーン」もその線上にある一曲と言えるだろう。

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