THE BACK HORN、絶望さえも味方にして突き進んだ2年間 コロナ禍で向き合った“4人らしさ”と音楽ができる喜び

THE BACK HORNの“4人らしさ”

 THE BACK HORNがニューアルバム『アントロギア』を完成させた。

 前作『カルペ・ディエム』(2019年10月)以来、約2年半ぶりのオリジナルアルバムとなる本作には、最初の緊急事態宣言の最中に制作された「瑠璃色のキャンバス」、未来に対するポジティブな意志を刻んだ「希望を鳴らせ」、鋭利かつ濃密なバンドサウンドが炸裂した「疾風怒濤」、先行配信リリースされた「ヒガンバナ」などを収録。メンバー全員が作詞・作曲に参加、さまざまな組み合わせで制作された収録曲には、コロナ禍で得た経験や感情がリアルに反映されている。

 古代ギリシア語で“花を集めること”を意味し、アンソロジーの語源となった『アントロギア』をタイトルに冠した本作について、山田将司(Vo)、松田晋二(Dr)に聞いた。(森朋之)

「すべてを肯定して生きることを共有したかった」(山田)

ーーニューアルバム『アントロギア』が完成しました。この2年間の軌跡が詰まった、本当に生々しい作品だと思います。

山田:そうなりましたね。「瑠璃色のキャンバス」(2020年6月)から始まって……まだ状況は何も解決してないですけど、アルバムの制作に対しては、メンバー全員が共通した気持ちを持って臨んできて。それを形として残せたし、いいアルバムになったという実感がありますね。

松田:うん。THE BACK HORNとして音楽を作っていくなかで、もちろん自分たちのなかで探求するものもあるんだけど、「この時代のなかで、どういうものを歌うか」という要素もあって。コロナ禍のライブだったり、世界の状況を含めて、「これだ」と言い切ることができないなかで、じゃあ、どういう音楽を鳴らすべきかを考えたというか。それを音と言葉にできたと思うし、まさにこの時代のアルバムだなと、作り終えたときに感じました。

山田:そうだね。俺が担当した歌詞は3曲(「ユートピア」「ネバーエンディングストーリー」「瑠璃色のキャンバス」)なんですけど、たとえば「ユートピア」はライブの最中に思っていたこと、MCで言っていたことも歌詞のなかに入っていて。「自分のなかにあるポジティブさをこのダンサブルな曲に乗せて、聴いてくれる人と共有するためにはどうしたらいいか」と思ってたんですよね。ただの前向きではなくて、1回どん底を味わって、そこからの反動によって絶望さえも味方にして進むというか。ちょっと強引かもしれないけど、「あの経験があったから、今の自分がいる」と思いたいし、すべてを肯定して生きることを共有したかったんですよね。「ユートピア」にはそういう思いが込められているし、ちょっとでもリスナーの気持ちが軽くなればいいなと。

THE BACK HORN「ユートピア」MUSIC VIDEO

松田:この2年間で確かめられたこともすごくあると思うんですよ。ライブは発散の場所であって、生きてる感覚を味わえるところでもあったんですけど、これだけ制限されても、生で音楽を感じることを選んで会場に来てくれる人たちがいて。当たり前ですけど、ライブはこちらが一方的に音を出すだけではなくて、目に見えないものでオーディエンスと引き合わされる場所じゃないですか。(コロナ禍のライブは)マスクをしていても、いろんな制限があっても、心の奥深いところでつながっている感覚があったし、それはこの状況だから得られたものだなと。「この場所でしか生まれないものがある」という実感だったり、音楽を必要としてくれる人たちへの愛しさだったり、音楽をやれる喜びだったり。それを強く感じられた2年間でしたね。

THE BACK HORN
山田将司、松田晋二

ーーこれまで以上にいろいろな感情が刻まれた作品だと思いますが、制作当初はどんなビジョンがあったんですか?

山田:アルバムの制作は去年の6月くらいに始まったんですけど、まず(菅波)栄純がザックリした青写真を作ったんです。1曲目はこんな感じ、2曲目はこんな感じって曲調を何となく決めて、作詞、作曲する人も決めて。前作の『カルペ・ディエム』もそういうやり方だったんですけど、ある程度、アルバム全体のバランスを共有してからスタートしましたね。

松田:アルバムの枠組みというか、額縁みたいなものですね。枠を決めて、メンバーそれぞれがいろんなテーマで曲を書いて、それが混ざり合って。たとえば「ヒガンバナ」(詞:松田晋二/曲:菅波栄純)は、栄純が「静と動がハッキリしてて、ライブ感がある曲をやりたいな」と言ってたんです。曲の立ち位置をはっきりさせることで、「だったらこんな感じかな」と想像しやすくなるというか。まあ、それで曲が作れれば苦労しないんですけど(笑)。

THE BACK HORN「ヒガンバナ」MUSIC VIDEO

山田:そうだね(笑)。

松田:ある程度イメージを決めつつも、そこからはみ出て変化する部分もけっこうあったんですけどね。「戯言」(詞:菅波栄純/曲:山田将司)もそう。栄純は最初「ここにはダークな世界観の曲を入れたい」って言ってたんですけど、将司が作曲している途中でジャズのテイストが入ってきて。

山田:最初に栄純が言ってたのは“暗い、テンポ速い、ライブで盛り上がりそう”だったんです。“サーカス小屋”みたいなことも言ってたんだけど、そのまま歌詞も入れてきまして(笑)。

ーー(笑)。暗めの雰囲気でジャズの手触りもある曲、今までになかったかも。「深海魚」はラテンの要素が入っていますね。

山田:「深海魚」(詞:松田晋二/曲:山田将司)「ネバーエンディングストーリー」(詞曲:山田将司)「夢路」(詞曲:岡峰光舟)は、栄純がアルバムの青写真を作る時に断片的なデモはあったんですよ。まずこの3曲とシングルの配置を決めて、他の曲を作っていったので。

松田:あ、そうか。

山田:「深海魚」は……この曲を作った頃によくサルサを聴いてたんですよね。“食事にあわせてその国の音楽を聴く”ということをやってて、その頃トルティーヤにハマっていて(笑)。サルサを取り入れた妖しい感じではじまる曲がTHE BACK HORNにもほしいなと。

松田:なるほどね。

山田:自分のなかでは“THE BACK HORNらしさ”を意識してたんですけどね。去年は3本のワンマンツアーをやって。『カルペ・ディエム』を引っ提げたツアー、『リヴスコール』の曲をやったストリングスツアー、『マニアックヘブンツアーVol.14』なんですけど、過去のいろんな曲に触れるなかで、「あえてTHE BACK HORNらしい感じを狙うのも面白いかな」と。「深海魚」は、そのなかにちょっと斬新な要素を入れた感じですね。サビのメロディも今までにない雰囲気だと思うし。

松田:うん。歌詞に関しては、音やメロディの温度感や風の湿り気を感じながら、曲の展開に寄り添った物語風の内容にしたくて。

ーーちょっと官能的な匂いもありますね。

松田:そうですね。あとはやはりコロナの影響というか、人と会うこと、触れ合うことに対する意識が強かったんですよね。人と人の交わり、肌触りが「深海魚」というテーマにつながったというか。

山田:二人が闇のなかで身体を寄せ合ってるイメージだよね。

ーー松田さんが作詞した「桜色の涙」(詞:松田晋二/曲:岡峰光舟)はノスタルジックな雰囲気の楽曲。タイトル通り、春の情景を描いた曲ですね。

松田:作曲は(岡峰)光舟なんですけど、イントロが始まった瞬間に、桜吹雪が舞ってる映像が浮かんで。桜の季節の別れの歌は、以前から個人的に書いてみたいテーマだったんですよ。もともと季節感のある歌詞は好きで。「夏の残像」や「蛍」もそうなんですけど、春はあんまり書いてなかったんですよね。曲を聴いたときに、「この曲だったら春の歌にできそうだな」と。この曲も根底にはコロナがあると思います。人と人のつながりもそうだし、会えなくなって初めてわかる愛しさや寂しさだったり、「いつか必ず会いたい」という気持ちだったり。

山田:歌入れの直前に「もっと桜っぽさを出したほうがいいな」と思って、鍵盤で桜が散っていく雰囲気を表現してもらったんですよ。上手くハマりましたね。

松田:うん、あの鍵盤は良かった。

THE BACK HORN

ーーメンバー全員でアイデアを出し合いながら制作していたと。

松田:そうなんです。光舟、栄純の演奏のニュアンス的な音色もそうだし、リズムのアレンジやテンポチェンジも濃密に絡み合ってるので。

ーー「ネバーエンディングストーリー」は穏やかなカントリー調ですね。これは山田さんのイメージを具現化したということですか?

山田:そうですね。「無限の荒野」とか、これまでにもカントリーっぽい曲はいくつかあるんだけど、「ネバーエンディングストーリー」はいい感じに力を抜いてやりたくて。

ーー“昔からの友達と久々に飲む”というシチュエーションの歌詞は、実話なんですか?

山田:モチーフになってる人はいますね。久々に外で飲んだときに、いろんな話をして、やっぱり好きだなって思って。

松田:こういう力の抜けた感じもいいよね。配信リリースした曲やシングルはメッセージ性が強かったり、しっかりした面構えですけど、アルバムにはいろんなジャンルやテイストの曲があって。いいバランスで混ざり合ってると思います。

ーー光舟さんが作詞・作曲した「夢路」に対してはどんな印象を持ってますか?

山田:“光舟節”ですね。コード進行に沿って、大らかなメロディが上昇していくような感じがあって。歌詞も光舟のプライベートな出来事がもとになってるんですよ。歌入れの日の朝に「こういう思いで書いた」という話を聞いて。自分も共感できる部分があったし、そのことを踏まえて歌えたのも良かったなと。この歌詞って、考え抜いて書いたというより、ポロッと出てくるような雰囲気なんですよね。本人も「言葉が出てくるまで待ってた」と言ってたし、優しくて飾り気がない、いい歌詞だなって思います。

松田:うん。8分の6拍子のリズムのなかでメロディが連なってる曲なんですよ。Aメロ、Bメロ、サビで一つの物語を描いているので、リズムの変化で場面ごとに印象付けようと思ってアレンジしました。バンドらしさもしっかり出ていると思いますね。

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