ISHIYAによる『LIVE IN TURTLE ISLAND』レビュー 改めて気づかされる音楽という「モノ」の本質

『LIVE IN TURTLE ISLAND』レビュー

 愛知県豊田市という地方都市が拠点でありながら、世界を股にかけ精力的に活動し、自らの企画フェスである『橋の下世界音楽祭』を主催するTURTLE ISLANDが、2022年2月22日に、橋の下電力でありTURTLE ISLANDのメンバーでもあるPersonal Energyの粟田隆央さんの声がけから始まり、microActionがディレクションした企画盤『LIVE IN TURTLE ISLAND』を発売した。

 この作品は、音源がデジタル化されて行く中でフィジカル=「物」としてもこだわり、オフィシャルサイトにて先行予約を受付後、2021年秋に限定版・豪華パッケージで発表。そして今回全国流通盤も特別仕様で発売開始の予定だったが、海外製造工場のトラブルで、2枚組CDのみ2022年3月5日に発売延期となってしまった。

 『LIVE IN TURTLE ISLAND』は、音の実験場と言われる神戸ジーベックホールにて、TURTLE ISLANDに縁のあるスタッフが大集合し、無観客ライブ録音、撮影を行った作品である。

 そして今、筆者の手元にあるアナログ盤と2枚組CDを手に取ると、その作りの重厚さと豪華さに、細部までこだわり抜いた魂の込もった作品だとひしひしと伝わってくる。

 先行発売された2枚組CD限定版・豪華パッケージは、漫画家の故・手塚治虫の製本カバーを作っていた高田紙器印刷工業所で作り、さらに豪華な仕様となっているという。現在筆者の手元にある全国流通盤の重厚さには、誰もが手放すことのないお気に入りの「一張羅」のような大切さが感じられる。

 昨今ではミニマリズムというシンプルな生活も注目され、現代は物に溢れ〈モノモノモノだらけ いくらあっても足りない お金やモノだけじゃ幸せにゃなれんよ〉と、本作7曲目のSex Pistols「Anarchy in the U.K.」の秀逸カバー「穴あき音頭」でも歌っているのだが、どうしても手元に置いておきたい「モノ」が誰しもあるはずだ。そんな一枚になる作品が、この『LIVE IN TURTLE ISLAND』だと言ったら言い過ぎだろうか?

 決して筆者は配信やミニマリズムを否定している訳ではない。むしろ素晴らしいと思っているが、職人の手作りのものに味わい深さがあるように、モノでないと感じられない素晴らしさもこの世の中には存在する。

 まずアナログ盤を手に取ってみると、それほどマニアではない筆者のレコードコレクションと知識の中でも3枚組トリプルスリーブというものは初めてである。

 歌詞カードとして同梱されている、7インチサイズの54Pオールカラー無線綴じブックレットや、2枚組CDの特色銀・三方背小口折スリーブハードデジパック仕様という豪華さに圧倒されながら、まずはレコードに針を落としてみると、いきなり新曲の「越境」で始まるではないか。

 アルバムを聴き進めていくと、まるでユーラシア大陸に寝そべり、広大な星空を眺めているようなイメージが増幅され続け、目を瞑っていると、ここが自宅ということさえ忘れてしまうほどのスケールの大きさに我を忘れてしまう。

 いつもライブで観るTURTLE ISLANDの臨場感がここまで表現された録音にも驚かされるが、曲が進むに従ってそのライブ録音たる素晴らしさが随所に現れているのに気づく。

 一番と言っていいほどライブの臨場感が伝わるのは、ドラムを中心とした和太鼓やパーカッションなどの打楽器によるリズムセクションではないだろうか。

 アジアの鼓動と疾走感が、TURTLE ISLAND独自のリズムによって大陸を彷彿とさせる。そこにかぶせるスペーシーなギターにより、さらに宇宙まで魂が飛び立つような気持ちの良い感覚に陥り、A面が終わるまでどこかを旅していたような気分になってしまった。アナログ盤でよかった。CDであれば1枚丸々別の世界に行ってしまっていたところだった。

 辛うじて歌詞カードに目をやりながら、歌声を聴くことで我を取り戻す。ボーカルでありTURTLE ISLANDの中心人物である永山愛樹のアイデンティティと体験、自らの大陸からのルーツや、現状日本に生きている思いの丈が目一杯の叫びと歌となり心に突き刺さる。紅一点女性コーラスとパーカッションなども担当する竹舞との声のアンサンブルも素晴らしく、竹舞の声色の変幻自在さに驚かされ、またもやTURTLE ISLANDの思うがままに踊らされている自分に気づく。

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