ISHIYAによる『LIVE IN TURTLE ISLAND』レビュー 改めて気づかされる音楽という「モノ」の本質
2枚目、3枚目とアナログ盤を聴き進めていくと、確かに祭囃子のあたり鉦と和太鼓によって日本の民族文化を彷彿とさせ、愛樹の歌詞にあるハングルや、楽器のテピョンソでアジアを感じさせるのだが、ウッドベースやサックスといった西洋的な音感もあり、いったい今自分がどの世界にいるのかがわからなくなって来る。いつしかアジアを飛び出し、南米大陸を飛ぶコンドルすら思い浮かべてしまうほどトリップしてしまう。
サウンド、歌詞、コーラスワーク、疾走感、ライブを目の当たりに感じるような臨場感と、どの部分をとってもこのアルバムは相当危険である。
しかしこんな危なさを待ち望んでいた自分がいるのも確かであり、人を殺さず傷つけず、諍いも起こさず心も体も踊る危険であれば、これほど心地よいものはない上に、大歓迎である。
これが音楽という「モノ」の本質ではないだろうか。
このコロナ禍の中で制作されたこのアルバムは、事前に入金してくれるお客さんがいるなど、オリジナルのクラウドファウンディングのような形で制作できたために、手の込んだ作品が作れたという。
先行盤を買った人間が「これは安すぎるから」と、別に1万円をレーベルに払うという、TURTLE ISLANDが主催する投げ銭式フェス『橋の下世界音楽祭』のようなことが起きるなど(参考:愛知県豊田市に“音楽フェス”を根づかせたパンクスの精神 炎天下GIGからの歴史を紐解く、『橋の下世界音楽祭』主催者・TURTLE ISLANDが語る、海外と日本のフェスの違い)まさにTURTLE ISLANDが実践してきた世界が、モノとして形になった作品だと言えるだろう。
「越境」「道道」という2曲の新曲に加え、おなじみのナンバーも収録され「空空神々」では異次元とも思える編曲がなされている。
この時期だからこそ作ることができた、今この瞬間のTURTLE ISLANDをすべて詰め込んだら溢れ出てしまったようなアルバム『LIVE IN TURTLE ISLAND』。
コロナ禍で気軽に旅にも出られない今、この作品を聴けば、家にいながら、通勤をしながら、何かをしながら、大陸と宇宙が広がる世界の広さと深さに繋がれるだろう。