1stフルアルバム『事象の地平線』インタビュー

神はサイコロを振らない、産みの苦しみを経て表現できた“ありのままの姿” 周囲への劣等感さえ詰め込んだ渾身のフルアルバム

「イリーガル・ゲーム」まるで喧嘩しているような、ぶっ飛んだ楽曲に

柳田周作、黒川亮介

ーー今回、2枚組というボリュームでリリースすることにした思いも聞かせてください。ストリーミング、サブスクが普及し曲単位で聴かれるケースが増え、神サイの「夜永唄」や「泡沫花火」もそうした中で注目を集めてきたと思うのですが、あえて「アルバム単位」で聴かれることに重きをおいたパッケージにした理由は?

柳田:僕ら「泡沫花火」でメジャーデビューして以降、新曲「タイムファクター」までの間にシングルが14曲できていたんです。4曲入りのシングル『エーテルの正体』をフィジカルで出すことはできたものの、デジタルリリースがコンスタントに続き、配信しっぱなしでフィジカル化出来ていなかった曲も結構あって。僕らはロックキッズというか、CDを聴いて育ってきた世代の「ロマン」としては、やっぱりCDという形で愛する曲たちを残したいという気持ちもあったんです。すでに今までの14曲を全部入れた段階で超大作になるけど、さらに6曲の新録曲を入れて、キリのいい20曲で出そうぜ! という話に最終的には落ち着きました。

ーーそういう経緯があったのですね。

柳田:現時点でこの4人でどこまで行けるのか、試行錯誤してみたのもすごく楽しかったし、そこでできた「LOVE」や「少年よ永遠に」にしても、とにかく自分達らしさが凝縮された楽曲になっていって、制作過程がとても心地よかったです。

 もちろん、これまでの14曲から厳選した8曲に、新録曲5曲くらいを加えたセオリー通りのフルアルバムの作り方も、最初の段階では考えていました。僕、Mr.Childrenの『深海』が大好きなので、いつかはああいうコンセプトアルバムを海外のスタジオで作ってみたいです。

ーータイトル『事象の地平線』には、どんな思いを込めましたか?

柳田;この宇宙には、光の速さですら到達できない領域があり、そこより先の情報は僕ら人類が知る術もない。その境界のことを「事象の地平線」と呼ぶらしくて。音楽の世界でも、誰も到達したことのない領域にはどんなサウンドが広がっているのか、作り手として表現者として、その未知の世界へ一歩でも進んでいきたいという想いを込めてこのタイトルにしました。バンドとしては、アルバム最後に収録した「僕だけが失敗作みたいで」を完成させたことで、その領域に足を一歩踏み入れたような感覚があったんです。俺の中の「事象の地平線」というか、誰にもないもの、誰にも譲れないものは、自分の人生なのかなと思ったんです。自分の人生を誰よりも生々しく表現できるのは、俺しかいないということに気がつきました。

 今は、「自信がついた」とはちょっと違うんですけど、劣等感だらけの自分のことも認めてあげられるようになったというか。そういう意味では霧が晴れた感じがあって。俺自身がたどり着きたかった場所に到着しつつあるなということを、ここ最近はずっと感じていますね。

ーー「僕だけが失敗作みたいで」は、柳田さん自身のごくごくパーソナルなところから生まれた歌詞でありつつ、その一方で何者でもない自分にくすぶっている人たちへのエールでもあるように感じました。そういう普遍性を持つ楽曲になった手応えは感じていますか?

柳田:それはすごく強く感じました。今話したように、この曲は俺のためだけに書いていたつもりだったんですけど、メンバーにもそれは響いたみたいで。

黒川:僕自身も「どうせ俺なんか」と思っていた時期があったし、初めてこの曲のデモを聴いたときは、自分が思っていることを代弁してくれたような気持ちになって、ちょっと泣きそうになりました(笑)。同じバンドのメンバーが、そういう曲を作ってくれたことが救いになったというか。バンドをやっていてよかったと思いましたね。

ーーアルバム冒頭を飾る「イリーガル・ゲーム」はドラマ『愛しい嘘~優しい闇~』(テレビ朝日系)主題歌です。この曲はカオスのようなストリングセクションが非常に印象的ですよね。

柳田:この曲は昨年作ったのですが、アルバムの中で一番思い入れがあると言っても過言ではないくらい時間をかけて作り込みました。デモの段階ですでにバンドとしての世界観は出来上がっていたのですが、ドラマ側から「ピアノとストリングスをマストで入れてほしい」というリクエストがあって。今回はMio Stringsの美央さんにストリングスのアレンジをお願いして、神サイとしては初めての「生ストリングス」でレコーディングさせてもらいました。

 とにかく未央さんの生み出すフレーズが変態的なんですよ(笑)。突拍子もない動き方をするし、「よくそんなところまで飛躍しますね?」というフレーズを繰り出してくる。しかも、バンドはバンドでやりたい放題演奏しているし、さらに東京事変の伊澤一葉さんのピアノも入っているので、バンド、ストリングス、そしてピアノがまるで喧嘩しているかのような、ぶっ飛んだ楽曲に仕上がりましたね。

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