『My FRAGMENTS+』インタビュー

PLOT SCRAPS 陶山良太、葛藤の先で掴んだバンドとしての自信 自分らしいままポップであるために重ねてきた挑戦

 PLOT SCRAPSが1stアルバム『My FRAGMENTS+』を3月2日にリリースした。陶山良太(Vo/Gt)自身も「集大成」と語る18曲には、人と人との関係性を歌い続け、音楽としての普遍性を追求してきたPLOT SCRAPSの4年間が凝縮されている。2021年には配信で断続的に新曲を発表し、バンドサウンドの型にはまらない自由度の高いリリースを続けてきた彼ら。そのリファレンスの幅広さとメロディセンス、アレンジにおける柔軟なアイデア、そして18曲をまるで一筆書きの物語のようにナチュラルにつなぎ合わせる創作性こそ、今作の面白さだ。リアルサウンドでは陶山へのインタビューを通して、文句なしの名刺代わり『My FRAGMENTS+』制作に至るまでの葛藤や、曲作りへの揺るぎない信念、歌詞に投影されたパーソナリティについて、語ってもらった。(編集部)

PLOT SCRAPS - 1st Album『My FRAGMENTS+』Trailer

「自分にとって他人の存在はものすごく大きい」

ーー『My FRAGMENTS+』というタイトル通り、これまでリリースされた楽曲が網羅的に入っていますけど、陶山さんとしてはどういう作品になったと感じますか。

陶山良太(以下、陶山):簡単にいうと集大成と言いますか。僕たちの初めてのアルバムになるので、全力を注ぎ込むという気概しかなかったですね。必然的に、この1枚でPLOT SCRAPSの魅力を存分に感じられるような作品になったと思います。いろんな引き出しを開けることになったんですけど、その全てをポップスにまとめ上げていきました。いい塩梅で18曲を構築することができたと思います。

陶山良太

ーー1月に配信リリースされた「リブラ」はアルバムからの先行配信曲のような感覚で聴いていたんですけど、〈釣り合っちゃいない〉〈不公平〉などをまずこの曲で打ち出して、ラストの「こころ」でただ一緒にいること自体を丸ごと肯定するーーそういう流れを18曲で描いている気がしたんですけど、どうですか?

陶山:基本的には、その瞬間に思っていることをベースに歌詞を書いているので、自我の変遷もよく見えるんですけど、例えば「リブラ」や「こころ」で歌っている内容も、曲順の流れも、バンドの活動自体で表現したいことも、全部同じことを言っているんですよね。このバンド自体、そもそも他者がいないと存在し得ないというか、最初から多くの人に届けられるバンドになりたいと思ってやってきたし、自分だけがかっこいいと思うものを追求するだけでは足りないので、曲順も何もかも、意図的なメッセージのつもりで活動しています。

ーー多くの人に届けたいと思っているのは、そもそもどうしてなんでしょう?

陶山:僕が他人とコミュニケーションを取るのが好きだからですね。そもそも人と人とは絶対わかり合えないものですけど、それって悪い意味でも良い意味でもなく、ただの事実でしかなくて。年を重ねるたびにより強くそう思います。「わかり合えないから最低な世界だな」っていうことじゃなくて、それに対してどう感じた上で他者と接するのか、本当にわかり合った気でいていいのか、もうちょっと踏み込んだ方がいいんじゃないのか……みたいなことを考えながら生きてますけど、とにかく自分にとって他人の存在ってものすごく大きいんですよね。

PLOT SCRAPS「リブラ」Official Music Video

ーーPLOT SCRAPSって、もともと「自分対世界」について歌っていた気がするんですけど、次第に「僕とあなた」の身近な世界に収斂されてきた気がしていて。そういう意識はありますか?

陶山:2ndミニアルバム(『FLAWLESS YOUTH』)までは「自分対世界」っていう風にしか見ることができなかったかもしれません。自分が世界に存在していることに価値を感じられなくて、何かを作らないと誰にも認めてもらえないと思っていたんですけど、価値だけで自分を見てしまうのはすごく狭かったなと気づいたのが、3rdミニアルバム(『INVOKE』)以降です。

ーーその時には一体何が変わったんでしょうか?

陶山:『INVOKE』を作る時、マネージャーと1回深く話し合ったことがきっかけで見方が変わりました。PLOT SCRAPSをポップバンドとしてより多くの人に届けるにはどうすればいいかを考えていて、あらゆる物事を何層も引いて見る客観的な目線が必要だなと理解した時に、これまでの人生の視野の狭さを痛感したんです。というのも、ポップバンドとして目指す方に向かっていると自分では思っていたけど、スタート地点から一直線を引いてみると、ちょっと道が逸れてきているんじゃないかなと感じていて。「目標としている自分になりたい」とさらに具体的に考えて、己を見直してから作品を重ねてこれたことは大きかったと思います。

ーーそれによって楽曲自体はどう変わったと思いますか。

陶山:一般論として、多くの人に届けようとしたら、ありきたりなものになっていくことが多いじゃないですか。でも、それだけだと面白くないから、自分しか持っていないものや好きなものをしっかり乗せた上で、どう普遍的にするかをみんな考えると思うんですけど、自分では結構いい形で変化してこれたと思ってるんですよね。以前の要素もちゃんと残したままポップにまとめあげられていると思います。音楽性を担保しながら普遍的なものを生み出すーーそれって一番難しいことだと思うんですけど、それが一番やりたいことなので、向き合わざるを得ないんです。

PLOT SCRAPS「やさしさパラドックス」Official Music Video

「文化として1ミリでも前進していなくてはならない」

ーーそれで言うと、前半のハイライトである「ユクスキュル」や「やさしさパラドックス」あたりは、音楽性を担保した上での普遍性をうまく具現化できているんじゃないかと感じました。

陶山:その2曲は特に苦戦しましたけどね(笑)。自分が音楽をやる上で大事にしていることがあって、何か作品を生み出すなら、1ミリでもいいから文化として前進しているものでなければいけないと思っているんです。「1ミリでも前に進んでいるだろうか?」って常に疑いながら作ってますね。巷の音楽とかを聴いていても、そういう視点がないものはすぐにわかるし、僕はお客さんやこれから出会ってくれる人たちに向けて、そういう曲は絶対に出したくない。そこは強く思いながらやってきています。

ーーそれはつまり、「既存の枠にとらわれないものを作りたい」ということなんでしょうか?

陶山:それも1つあると思いますし、むしろ既存のフォーマットだけど、その人がやるだけで全く新しいものになるっていうパターンもあると思うんです。なので今までになかったものだけに固執しているわけでもなくて。

ーー様々なバンドがカルチャーの担い手として歴史を紡いできましたけど、陶山さんもその流れの中にいるという意識が強いんですね。

陶山:事実としてそうだし、それが絶対に必要だと思っているので、欠如しているなんてことがあってはいけないと思っていて。感受性豊かで前のめりな人たちも受け取りに来てくれるわけですから、「こういうものでいいだろう」なんてものは提供できない。大衆娯楽として届けたいなら、そういう目線もプラスで持たないといけないですし、みんながそう思っていたら、文化が衰退するはずないと思うんです。

ーー先ほど挙げた2曲、アウトロでメタルになる「ユクスキュル」や強烈なイントロの「やさしさパラドックス」などには、エクストリームなPLOT SCRAPSの音作りを感じますけど、そういう激しさを伴う音楽性は陶山さんにとってどういうものなんですか。

陶山:自分にとっては自然なものですね。僕らの曲って、威力が強すぎないけど、弱くもないサウンドが多いじゃないですか。真ん中のちょうどいいかっこよさで鳴っていると思うんですけど、「ユクスキュル」とか「やさしさパラドックス」とか、たまに強い方にはみ出したくなるんです。心が暴れたくなる時もあるのが人間だと思うので、むしろ綺麗な世界だけで完結する方がおかしい気がしていて。僕は、普段から金髪の頭ツンツンで、ピチピチなレザーの服を着て歩いている人間じゃないですけど、やっぱりたまにそういうことをしたくなるんですよね(笑)。ビッグアーティストの名盤とかも、ちゃんと聴けばそういう要素が入っていると思うんですよ。「この音選びなんだ!?」って感じるものとか、キャッチーなところでいきなりファズがボーンと鳴る狂気とか、いろんなエクストリームがあると思うので。

ーーわかります。

陶山:メタルって破壊的になればなるほど、エモーショナルなだけじゃなくて、音楽性が高くなっていくと思っていて。”リズムの妙”の応酬なので、ブレイクダウンとか思い切り踊れるじゃないですか。どんな音楽であっても、いいところを取り入れない手はないですね。

ーーPLOT SCRAPSを聴いていると、届けたい対象に対して存在をアピールするように鳴らしているのが、そういう激しいサウンドなのかなと思いました。「ユクスキュル」だって、〈君が居たから此処に立ってる〉で綺麗に終わらせることもできたと思うんですけど。

陶山:確かに。意識してなかったけど、言われてみればそうかもしれないですね。曲の構成や音選びについては、メンバーのプレイに合うかどうかもすごく意識するので、それも関係あるかもしれないですけど。

ーーというと?

陶山:あまり考えていなかったんですけど、メンバーありきで「2人が弾いたらかっこいいだろうな」と思うフレーズやビート、音色を、今まで無意識に選んでいたことに最近気づいたんですよね。曲は僕が書いていますけど、そういう意味でもちゃんと3人で作り上げてきた作品だと思います。三角形の一辺が大きいわけじゃなくて、3人とも同じだけ輝けているので、改めてかっこいいバンドだなって感じました。

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