Bialystocks『Tide Pool』クロスレビュー

Bialystocksの音楽とはどのようなものなのか? EP『Tide Pool』をライター3氏がレビュー

岡村詩野「さりげなくゾワゾワする違和感が伝える“地殻変動”の気配」

 ここ20年ほどの間、様々な音楽が進化していくプロセスで多様化していた無数の枝葉が徐々に一つに……というより、互いに干渉しながら急速に接合していっている。ポップミュージックはもともとそうした複合的なスパークごとにプログレスしてきたわけだが、それでも、それが離れた点ではなく線となり、いよいよ面となってきているような2000年代以降顕在化する動きは刺激以外のなにものでもない。ジャズ、R&B、ヒップホップが合流し、エレクトロニカとインディーロック、フォークが邂逅し、カントリーとラップが出会い、ノイズとアンビエントが一つになり、あるいは音声加工や映像処理が一つのツールにもなる。そういう意味では、ジャンルなどなくただ「音楽」でしかなかった100年ほど前の“感覚”に戻りつつあるということなのかもしれない。

 とはいえ、それはいたずらにミクスチャーを意味するものではなく、むしろ一聴した限りではオーセンティックなスタイルに聞こえるものもある。当事者はそこまでイノベーティブなことをしている自覚がないというのがまた面白いところで、創意工夫を捻り出すようなことをしなくても、自由に越境して無意識に繋がっていっているということなのかもしれない。そう、デビューした頃のボン・イヴェールやフライング・ロータスがまさにそういう存在だったように。そうした捉え方でこのBialystocksの新たなEPに向き合ってみるとどうだろうか。これまでの作品に見られた……例えば昨年リリースされたアルバム『ビアリストックス』にも収録されている「Nevermore」などは、高揚感ある曲調の中に「ボヘミアン・ラプソディ」よろしくオペラ調のコーラスやギターソロが飛び出してきて仰天するような瞬間もあったが、そうしたあらゆる音に“見せ場”を設けるような、半ば強引とも思える展開が後退しているのがまずこれまでの印象を刷新する。

 大胆な構成で耳を引くことをしない代わりに(後半にダイナミックに抑揚がつけられる「光のあと」のような曲もあるが)、R&Bやソウルやジャズ、場合によってはカントリー……という文脈にもそのままストンと落ちていくような仕上がりになっていて耳には極めて滑らかでスムーズだ。だが、よく聴いてみると、それは生演奏によるフィジカルさ、あるいは演奏が引き出す熱気を伴ったものとは少し違う。楽器本来の特性は生かしているが、バンドアレンジを想定していない、主に2人だけの作業から生まれた作品だからかもしれないが音の作りも音色も極めて密室的。それが結果として、ジャズっぽいのにストレートなジャズではない、フォークっぽいのに月並みなフォークではない、奇妙な質感の曲となっている。それが最も顕著なのはおそらく彼らにとって最も異質なフォークロア調の5曲目「あいもかわらず」だろうか。アコースティックギターの弦が擦れる音まで生々しく拾っていたりもして、確かに一聴する限りでは、情緒的な曲に聞こえるかもしれないが、アコギ以外の音は相当制御されていて、むしろ少しひんやりとして聞こえたりもする。到底フォークだと言い切れない、だからといってよくあるハイブリッドではない、底辺で何かと何かと何かが繋がっているのはわかるが、でもそれがわかりやすく表面に出ないからこそさりげなくゾワゾワした違和感が残る曲だ。

 そして、このさりげなくゾワゾワする違和感こそが「ジャンルなどなくただ『音楽』でしかなかった100年ほど前の“感覚”に戻りつつある」ことの証左……いや、軋みを伝えるものではないかと思う。彼らがこのEPをどういう思惑で、どういうプロセスで制作したのかはわからないが、彼らもまた、バラバラだったいくつもの枝葉が一つに繋がろうとする“地殻変動”の気配を感じ取っているのかもしれない。

Bialystocks『Tide Pool』

■リリース情報
1st EP『Tide Pool』(読み:タイドプール)
2022年1月26日(水)発売
配信・購入: https://lnk.to/TidePool
CD/PCCI-00006 /1,650円(税込)

<収録曲>
01. Over Now
02. All Too Soon
03. フーテン
04. 光のあと
05. あいもかわらず

■ライブ映像
Bialystocks『Bialystocks / Online Live 2022.02』
配信:https://youtu.be/n3AurqbKFXg
アーカイブ期間:3月6日(日)23:59まで

■ライブ情報
『Bialystocks Live 2022 "音楽交流紀 1"』
2022年5月7日(土)Shibuya WWW
GUEST:To be announced
OPEN18:15/START19:00
TICKET¥4,000(税込・自由)+1DRINK
チケットオフィシャル先行:https://w.pia.jp/t/bialystocks-2022/
受付期間:2月25日(金)22:00〜3月6日(日)23:59

■About Bialystocks
https://lit.link/bialystocks

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