ピーター・バラカンが『ザ・ビートルズ:Get Back』で初めて気づいたもの 2021年ベスト作品を語る
リアルサウンド映画部のオリジナルPodcast番組『BARAKAN CINEMA DIARY』が配信中だ。ホストにNHKやTOKYO FM、InterFM897など多くのラジオ放送局でレギュラー番組を持つディスクジョッキー、ピーター・バラカン、聞き手にライターの黒田隆憲を迎え、作品にまつわる文化的 ・政治的背景、作品で使用されている音楽などについてのトークを展開している。
第10回では、2021年に本番組で取り上げた作品、取り上げられなかった『ラストナイト・イン・ソーホー』、『ザ・ビートルズ:Get Back』などを振り返りながら、“ベスト作品”について、バラカン、黒田両氏が、じっくりと語っている。今回はその対談の模様の一部を書き起こし。続きはPodcastで楽しんでほしい。(編集部)
ビートルズの根っこはロックンロール
ピーター・バラカン(以下、バラカン):この番組で取り上げてきた映画は、ブラックミュージックに関係した作品が多かったですね。最初の方は、『マー・レイニーのブラックボトム』や『あの夜、マイアミで』など、配信で観られるものを取り上げていました。
黒田隆憲(以下、黒田):振り返ってみると、いい映画ばかりですね。
バラカン:『BILLIE ビリー』は、去年観た中でも個人的にすごく印象に残った作品の一つです。おそらく誰も知らなかったビリー・ホリデイの人生における事実が、あの映画でかなり明らかになったと思います。
黒田:(去年は)今多くの人が注目している、女性の権利に深く切り込んでいる映画が多かったですね。ビリー・ホリデイにしても、『リスペクト』のアリーサ・フランクリンにしても、“なぜ今彼女たちを取り上げるのか”という文脈がしっかりある印象です。
バラカン:間もなくビリー・ホリデイの晩年の伝記映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』が公開されますが、これも観る価値のある作品だと思います。この番組では取り上げていないですが、Disney+で配信され話題になった『ザ・ビートルズ:Get Back』も、ものすごく面白かったですね。
黒田:面白かったですね。全話で8時間くらいある作品ですが、僕は3、4回観ました(笑)。
バラカン:あれは本当に興味の尽きない話が多かったな。同じDisney+で配信している、リック・ルービンとポール・マカートニーのドキュメンタリー・シリーズ『マッカートニー 3,2,1』も面白かったですね。全部で6話ありますが、特に後半の5、6話目が良かった。ビートルズの録音は最初4チャンネルだからあまりステレオで音を分離できないんですが、後半になると8チャンネルになっていたりするので、ポールのベースだけを目立たせることができる。それで、「こんなにすごいものを弾いてたんだな」と初めて気づいた部分もありました。
黒田:ジョージ・ハリスンの「While My Guitar Gently Weeps」を、アコースティックギターとボーカルだけ、ドラムとベースだけでそれぞれ聴いて、アコギとボーカルだけだとすごく美しい曲なのに、ドラムとベースだけだとすごくヘヴィな曲になると分析していましたね。あの分析の仕方は、さすがリック・ルービンだなと。
バラカン:ジョンがポールに聴かせた「Come Together」のデモ・ヴァージョンが、チャック・ベリーの「You Can't Catch Me」にすごく似ていて、「いや、もっとこうしよう」って試行錯誤して、結果的にあの形になるっていうのもすごく面白い話でしたね。
黒田:やっぱりビートルズでも当然ルーツはあって、それを色々アレンジしたり変化させたりしながらオリジナルを作っていったんだというのがよくわかる場面でした。
バラカン:彼らはスタジオの中で行き詰ったとき、リトル・リチャードやチャック・ベリーのリフがすぐに出てくるんですよね。やっぱり根っこはロックンロールなんだなと、『ザ・ビートルズ:Get Back』を観ていてつくづく思いました。