ピーター・バラカンが『ザ・ビートルズ:Get Back』で初めて気づいたもの 2021年ベスト作品を語る

ピーター・バラカンが語る『Get Back』

『ザ・ビートルズ:Get Back』は“フライ・オン・ザ・ウォール”

黒田:今年のお正月にNHK BSで放送していた、『The Beatles and India』は観ましたか?

バラカン:観ました。ビートルズの曲は一切出てこないから権利はとれなかったようですが、ビートルズの音楽に影響を受けたインドの人々の、ちょっと変わったビート・グループのようなものが知れて興味深かったです。

 あと、ジャズ関係の面白い映画も出てきています。ヒューマントラストシネマ 渋谷とアップリンク吉祥寺で上映していた『モンク・イン・ヨーロッパ【没後40年 セロニアス・モンクの世界】』は、1968年にドイツのテレビで放映するために作られた、2本の短いドキュメンタリーです。1本目はニューヨークのジャズクラブ・VILLAGE VANGUARDとコロムビア・レコードのスタジオでの演奏シーンが多いんですが、英語で“フライ・オン・ザ・ウォール”、つまり壁に止まっているハエのように客観的に観られる。そんな感じの映画です。セローニアス・マンクの名前は有名だけど、彼のことをあまり詳しく知らない人も多いんですよね。だからこの映画が今出てくるというのは面白かったな。

黒田:『ザ・ビートルズ:Get Back』も、フライ・オン・ザ・ウォールな感じでしたもんね。

バラカン:あれも最初はテレビで放送しようとしていたけど、結局頓挫して映画にすることになった。それで16ミリフィルムを35ミリに変換したので、最初は映像が全然綺麗じゃなかったんですよね。そういえば、映画に出てくる監督のマイケル・リンズィ・ホッグは相当チャラいやつでしたね(笑)。

黒田:メンバーにめちゃくちゃいじられてましたね(笑)。

バラカン:言うことが全部ズレていたりしてね。でもそういうところもまた面白いですよね、人間関係がそのまま出ているようで。

黒田:オノ・ヨーコの印象も僕の中でだいぶ変わりました。4人のスタジオの中に彼女が入ってきて、ちょっと目障りな存在だったのかなと思っていたんですが、あの映画ではリンダと談笑しているシーンもあったりして、すごく自然にその場にいたんだなと。

バラカン:でも、彼らが演奏していても全然身体が反応していないから、僕は退屈してるんじゃないかと思いました。

黒田:編み物をしたり、本を読んだりしてましたよね。

バラカン:ニューヨーク・タイムズで、この映画に関する女性批評家の記事を読んだんですが、オノ・ヨーコはジョンと知り合うずっと前からコンセプチュアル・アートをやっていたから、彼女は全ての動作を意識していて、動かないときも動かない姿を見せているんだと書いてありました。

黒田:それで思い出しましたが、ジョン・レノンがテレビに出ていたとき、オノ・ヨーコは横尾忠則と一緒に紙飛行機を作って飛ばしていたことがあるんです。それはコンセプチュアル・アートの一つとして、そういうパフォーマンスをしていたんだと。だからオノ・ヨーコがあそこで編み物をしたり本を読んだりして、身体でリズムをとらずにいる様子も、コンセプチュアル・アートの一つなんだと仰っている人がいました。あながちそれは間違いでもないのかなと思います。色々な意味で面白い作品でしたね。

※続きはpodcastで

■配信情報
『BARAKAN CINEMA DIARY』#10
出演:ピーター・バラカン、黒田隆憲
配信メディア:Spotifyほか各種配信サイト
配信はこちら
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■配信情報
ドキュメンタリー作品『ザ・ビートルズ:Get Back』
ディズニープラスにて配信中
監督:ピーター・ジャクソン
出演:ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター
(c)2021 Disney (c)2020 Apple Corps Ltd.
公式サイト:Disney.jp/TheBeatles

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