the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第10回
the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第10回 バンド初期の作風に大きく影響したMock Orangeとの出会い
木暮栄一によるMock Orangeおすすめ曲紹介
一般的な日本のライブハウスの場合、本番の前に出音を含めた各モニターのバランス調整を兼ねたリハーサルがある。個人的な記憶として、本番ではなくリハーサルの演奏で、鳥肌が立つほど感動したことは2回しかない。
ひとつは、いつかの山形。eastern youthの吉野(寿)さんがリハーサルから「踵鳴る」を全力で歌い叫ぶ場面を見た時で、もうひとつが、名古屋のライブハウスでMock Orangeが日本で初めて「Mind Is Not Brain」を演奏した時だ。
彼らの3rdアルバム以降の作風は、展開の激しい初期に比べれば一見地味に聴こえるかもしれない。しかし、自分が歳を重ねるにつれ、その素晴らしさが以前よりも味わえるようになってきたと思う。各種ストリーミングサービスでほとんどのカタログが聴けると思うので、未聴の方がいたらぜひ聴いてみてほしい。
とりあえず個人的おすすめトラックをいくつか書いておきます。
『Nines & Sixes』(1998年)
「We Work」
冒頭のこだまするようなギターリフから全体の演奏が始まった時のカタルシス、そこから情報量満載で性急に展開していくショートトラック。全然そう感じないけどなんと2分未満!
「Does It Show」
視界が大きく開けていくような導入・サビと、細かく刻まれる他のパートとの対比が見事な曲。この曲の歌い出しが好きすぎて、〈Stores are closing down〉というフレーズを拝借して僕たちの「UGLY」という曲に使っています。
「All You Have」
ポリリズミックなイントロからまさかの2ビートに突入。その使い方が当時のメロディックパンクとは一線を画していてシビれました。
「Poster Child」
初期の彼らの曲の中でも一番の人気曲だと思うが、ほぼ全ての作詞作曲をライアンが手掛けているのに対して、この曲はヒース・メッツガー(Dr)が作ったもの。なので、Aメロはヒース、サビはライアンという変則的な歌い分けをしている。曲中で一番忙しいはずの部分でヒースが歌い出すのを初めて見たときは荒井(岳史)と顔を見合わせて爆笑しました。すごすぎるだろ!
『The Record Play』(2000年)
「She Runs The Ride」
一聴しただけでは掴みきれない難解な良さを湛えたアルバム1曲目「Brake Lights On」を経て、対比的に突然現れるキャッチーなコーラスで始まるのがこの曲。今も昔もここでしか聴けないライアンのシャウトをサビで聴くことができる。
「Slow Song」
はいカッコ良い〜! と快哉を隣人に伝えたくなってしまうイントロのギターリフに尽きる。陽光が浮かび上がらせる埃とノスタルジー。ちなみに川崎(亘一)はライブのサウンドチェックでいつもこのリフを弾いている。
「Twelve O’Clock Call」
何とも言えない叙情に溢れた曲。ライブバージョンのアウトロもすごくカッコ良いのだけれど、原曲バージョンも久々に聴くと、胸に迫るものがあります。
「One Way Letters」
派手さのない淡々とした曲だけど、ライアンの歌い方も含めて大好きな1曲。ツアーの合間、車の少ない夜の高速道路をなぜか思い出す。忘れているだけで、そんな場面でこの曲が流れていたことがあったのだろう。
『Mind Is Not Brain』(2004年)
「Mind Is Not Brain」
本文にも書いたけれど、冒頭の弾き語りがギターのカッティングをきっかけに立体的な形を帯び、スネア一発でグルーヴィな本編に雪崩れ込んでいく様は何度聴いてもカッコ良い。“こころは脳の中にはない”……考えさせられるし、ロマンチックですよね。
「East Side Song」
この後のアルバムでもたびたび登場する作風の端緒となったであろう曲。静謐に爪弾かれるギターをほのかに彩る電子音やストリングス、マンドリン、サビの歌詞も最高。
「Instrumental」
その名の通りアルバムの中間に配置されたインタールードのような短い曲なんだけど、個人的にとても好きなのでおすすめしておきます。
「Oh My God」
いわゆる日本的な叙情性の湿度とはまた違う、カラッとしたコード進行にほのかに滲む夕暮れノスタルジーと、それを支えるゆったりとしたリズム。一緒にアメリカ中西部を回ったツアーで、彼らが育って今も暮らす街の風景を目にした時、その理由が少しわかった気がした。聴けば聴くほど良い曲。キュートな間奏〜終盤のギターソロ(大好き)までぜひ聴いてほしい。
『Captain Love』(2008年)
「Captain Love」
当時の世相をライアンらしい切り口で切り取ったポリティカルなメッセージを含んだ曲。歌詞を読みつつアウトロのストリングスを聴くと考えさせられるものがある。ガラッと変わったミキシングのコンプレッションされた音像(特にドラム)もカッコ良い。
「Song In D」
この曲を聴くと、客観的に何も書けないくらい彼らとの思い出が溢れ出してしょうがない。一生聴くと思う。
「Majestic Raincoat」
どことなくサイケデリックな小技が随所に光っていて好きな曲。ミキシングの変化がヒースの粘っこいドラミングを際立たせ、スネアのゴースト/ハイハットのバランス、ふくよかなバスドラムの鳴り方など、その素晴らしさが十二分に味わえる。
「Beauty of a Scar」
なんでこんなに雨上がりのアスファルトみたいなキラキラしたギターフレーズが作れるんだろう。“傷跡の美しさ”というタイトル、歌詞の後ろにある優しさに溢れた目線も最高です。
『Disguised As Ghosts』(2011年)
「My Car」
タイトルが潔すぎて笑ったけど、古いリズムマシンを使って作られた1960年代のレコードに収められていそうな実験性と彼ららしさが同居していて好きです。
「Sidewalk」
1990年代のレイヴの明け方にかかっていてもおかしくないようなピースフルなギターのリフレイン、だけどやっぱりMockだなあ、となる展開。アルバムではこの曲に限らず、彼らの音楽性は緩やかに変化を繰り返しているのだと教えてくれる。
「I Can Sing」
ギターもベースもリズムも、メロディや曲展開まで痛快なくらいカッコ良い。ぜひ聴いてほしい。
「End of the World」
僕の中ではこれも夜の高速道路系の名曲。初期と比べるとそのシンプルさに少し驚くけれど、余計な展開が必要ないくらい、シンプルかつ完璧に成立していると思う。
「Going Away」
「End of the World」と同じような理由で好きな曲だけど、こちらは作品を重ねるごとに表現力が増していくライアンの歌がより染みます。
『Put the Kid On the Sleepy Horse』(2016年)
「High Octane Punk Mode」
この文章を書きながら久しぶりに聴いて、電子音がキャッチーなイントロに、サイケデリックなギターが挿し込まれる箇所で、思わず「かっけえな!」と大きめな心の声が口から漏れてしまった。虹色の雲の中を揺蕩っているような素敵な曲。最高。
「Be Gone」
フレーズ自体は変則的、だけどいつも以上にタイトでミニマルなリズム隊の演奏。その上を漂うボーカルのリバーヴとディレイが深くなった途端、YMOさながらにオリエンタルかつキャッチーなギターが現れる、その瞬間が白眉。
『Daniels e.p. 2』(2016年)
「The River’s Bed」
この曲もイントロのギターフレーズが素晴らしい。サビのメロディもすごく好き。
『The Bridge』(2020年)
「Moving On」
アメリカの若い世代からの再評価や、近年また活発になってきたライブ活動が反映されたかのような最新作。初期と近作の要素が混ざり合いながらも、この憂いのあるメロディの感じは最近なかったよな、と逆説的な新鮮さもある。
“いくつか書いていきます”という言葉の割にとても長くなってしまったけど、まあ好きだからしょうがない。今年もよろしくお願いいたします。
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木暮ドーナツ Twitter(@eiichi_kogrey)