デヴィッド・ボウイ、幻のアルバム『Toy』に隠された苦悩と進化 ついに明かされた全貌をブレイク前の変遷から徹底解説

盟友 トニー・ヴィスコンティとの出会いが追い風に

 しかし、ここからボウイはさらなる迷走を始めた。次のシングルは、再び<Decca Records>に戻り、系列の<Deram Records>から1966年12月に発売された『Rubber Band』。イントロにのどかな英国風チューバとオーボエが入り、2ビートのマーチ調の表題曲は演劇伴奏的である。いわゆる「ミュージック・ホール」といわれる営業的楽曲でロックとはほど遠い。リンゼイ・ケンプのダンスカンパニーに加わるのはこの後だが、すでにそうした隠微なシーンとの接触があったことを匂わせる楽曲だ。B面の「The London Boys」は『Toy』収録曲であるが、こちらも内省的。

David Bowie - Rubber Band

 この2曲を含む1967年6月のデビューアルバム『David Bowie』は、せっかくの大メジャーレーベルである<Deram Records>からの発売にも関わらず、今聴いても、「ギターロック全盛の時代に、どうしてこうなった?」と思えるほどチマチマとした小品的編曲で固められている。

 メロディ自体には金脈があり、『Toy』収録の「Silly Boy Blue」は、感傷的なメロディがこよなく美しい作品に仕上がった。だがこの盤は全くの泣かず飛ばずとなり、<Deram Records>からは見放されることになる。

 この時期、ボウイはオスカー(ポール・ニコラス)やビリー・フューリーといった前時代のスター達にノベルティのような曲を提供している。リンゼイ・ケンプ・カンパニーにも劇伴曲を提供(アルバム『Width Of A Circle』収録)し、フランク・シナトラの大ヒット曲となる「My Way」のクロード・フランソワ作原曲に詞をつけ、お蔵入りになったりもしている(後にその恨みをコード進行を似せた「Life on Mars?」に結実させる)。ボウイは音楽出版社に出入りをし、本格的に職業作家への道を模索していた。そのまま行っていたら、凡百の作家志望者に紛れ、ロック・スター=デヴィッド・ボウイは生まれなかっただろう。

 それがどんな道なのか。同じ時期に作家を志望したエルトン・ジョンの人生は、語る。彼が音楽出版社に作曲家を志して訪れると、そこには中身を開かれず、見も聴かれもしない、全国の作家から送られたデモテープとデモ作詞の封筒群があった。そのうず高い山の一番上の封筒を、封も切らずに渡された。しかし、それが鉄壁のコンビとなるバーニー・トーピンの作詞集だった。エルトンはそんな僥倖に見舞われている。

David Bowie - Karma Man [Official Lyric Video]

 そんなボウイを救う出会いが待っていた。彼の死までの生涯の友人でありプロデューサーとなるトニー・ヴィスコンティである。1967年の秋に出会った彼らはすぐ意気投合する。この頃の楽曲としては、人懐こいメロディが魅力の「Karma Man」が『Toy』に、 「In The Heat Of The Morning」が『Toy: Box』ディスク2に収められている。両曲ともトニー・ヴィスコンティのストリングス編曲と共に当時、『BBC Top Gear Radio Session』で演奏された。

 マネージャーのケンピットによる、興味深い証言がある。

「ボウイはチャート成功がなく、フラストレーションが溜まっていた。ある晩、ボウイは座ってテレビを観ており、突然目を画面からそらすとこう言ったーー『ベスト10に入るゴミ曲を書く』。テレビにはヒントとなるものは映っていなかった。

 ボウイはレコードが売れない理由を熟考した。画面の動きは、石炭の火がメラメラとちらつくように光を発した。『君はゴミ曲を書いたことなんかないよ』と私は言った。ボウイは笑い、返答した。『賭けるかい? 君はまだ何も僕のことを見てないよ』。そして彼は作業に向かい、『Let Me Sleep Beside You』を書いた。それはゴミでもベスト10入りするようなブツでもなかったが、とても良い曲であった。さらに彼はゴミではない2曲を書いた。『Karma Man』と『In The Heat Of The Morning』だ」(※2)

 ボウイの当時の様子をよく伝えるエピソードだろう。

 この頃、ボウイは美しいヘルミオーネ・ファージンゲールと出会い、一大恋愛となった。ヘルミオーネと先述したジョン・ハッチンソンと3人組で、フォークユニット Feathersとして活動を開始。ボウイは明らかに恋も絶頂で上昇気流に入った。

 この時期の曲、トニー・ヴィスコンティがプロデュースに加わった牧歌的で幻想的な「Conversation Piece」も『Toy』で生まれ変わった。

 また、『Toy』のために書かれた新曲「Toy (Your Turn to Drive)」があり、歌詞では〈Your turn to drive/Thick as a line, out of your mind(正気を失くして君が運転する番だ)〉と歌われる。

David Bowie – Space Oddity (Official Video)

 そう、ボウイはギアを入れた。ジョン・ハッチンソンのサポートを得ながら入念に試行錯誤を繰り返し、エルトン・ジョンを世に送り出したプロデューサー ガス・ダッジョンの制作で、ついに1969年7月にシングル『Space Oddity』が発売されたのだ。狂気もはらんだ、素晴らしいスピード感のドライブが始まった。

 60年代のボウイ曲は流行とはソリが合わず、表現力過重なほど多様なメロディを持っていた。ボウイは、彼の大好きなThe Walker Brothersが合うような、壮大で展開の多いポップメロディを書いてしまう。それは当時主流だったジミ・ヘンドリックス、Creamなどのサイケやハードなブルースロック的とはいえず、同時期の大成は不可能だった。

 しかし、苦闘しかなかった時代のメロディも、2000年代のロック演奏家の技術や、進化した楽器群があれば、救い出すことが可能となった。それが『Toy』なのだ。

※1:https://web.archive.org/web/20090317213718/http://www.independent.co.uk/news/obituaries/les-conn-pop-manager-and-promoter-who-handled-the-early-careers-of-david-bowie-and-marc-bolan-1645849.html

※2:https://www.bowiebible.com/songs/in-the-heat-of-the-morning/

■リリース情報1
デヴィッド・ボウイ『Toy: Box』
発売中 ¥5,500税込
<収録曲>
・DISC1
M-1 I Dig Everything
M-2 You've Got A Habit of Leaving
M-3 The London Boys
M-4 Karma Man
M-5 Conversation Piece
M-6 Shadow Man
M-7 Let Me Sleep Beside You
M-8 Hole In The Ground
M-9 Baby Loves That Way
M-10 Can't Help Thinking About Me
M-11 Silly Boy Blue
M-12 Toy (Your Turn To Drive)

・DISC2
M-1 Liza Jane
M-2 You've Got A Habit of Leaving (Alternative Mix)
M-3 Baby Loves That Way (Alternative Mix)
M-4 Can't Help Thinking About Me (Alternative Mix)
M-5 I Dig Everything (Alternative Mix) / アイ・ディグ・エヴリシング
M-6 The London Boys (Alternative Mix) / ロンドン・ボーイズ
M-7 Silly Boy Blue (Tibet Version) / 愚かな少年
M-8 Let Me Sleep Beside You (Alternative Mix)
M-9 In The Heat Of The Morning
M-10 Conversation Piece (Alternative Mix)
M-11 Hole In The Ground (Alternative Mix) 
M-12 Shadow Man (Alternative Mix)
M-13 Toy (Your Turn To Drive) (Alternative Mix) 

・DISC3
M-1 In The Heat Of The Morning
M-2 I Dig Everything
M-3 You've Got A Habit of Leaving
M-4 The London Boys
M-5 Karma Man
M-6 Conversation Piece
M-7 Shadow Man
M-8 Let Me Sleep Beside You
M-9 Hole In The Ground
M-10 Baby Loves That Way
M-11 Can't Help Thinking About Me
M-12 Silly Boy Blue
M-13 Toy (Your Turn To Drive) 

『Brilliant Adventure (1992-2001)』

■リリース情報2
デヴィッド・ボウイ『Brilliant Adventure (1992-2001)』
発売中 ¥24,200税込
※完全生産限定盤
※輸入盤国内仕様
※日本盤のみ封入特典予定
<CDボックス収録内容>
●ディスク1:ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ <2021リマスター>
1993年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク2:郊外のブッダ <2021リマスター>
1993年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク3:アウトサイド<2021リマスター>
1995年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク4:アースリング<2021リマスター>
1997年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク5:アワーズ…<2021リマスター>
1999年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク6 & 7:BBCラジオ・シアター、ロンドン、2000年6月27日<2021リマスター>
●ディスク8:トイ
未発表アルバム/紙ジャケット仕様
●ディスク9, 10 & 11:リ・コール5(今までのボックスセット同様、リマスターされたシングルバージョンや映画のサントラに提供した楽曲、アルバム未収録曲などをまとめたコンピレーションアルバム)
2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ライナーノーツや貴重な写真を多数掲載した全128ページのハードカバー・ブック

WMJ デヴィッド・ボウイ アーティストページ

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