『マッカートニー 3,2,1』レビュー:ポール・マッカートニーがリック・ルービンに明かす、名曲誕生のプロセス

 ポール・マッカートニーが、自身のクリエイティブについて語り尽くすドキュメンタリー作品『マッカートニー 3,2,1』が、ディズニープラスにて独占配信中だ。

 1960年代にThe Beatlesのメンバーとして音楽キャリアをスタートし、1970年代はWingsを率いて数々のヒットを連発。1980年12月に朋友ジョン・レノンを凶弾で喪って以降は、主にソロアーティストとしてコンスタントに作品を作り続け、79歳の今なお第一線で活躍するポール。今回、その奇跡の歴史を彼と共に紐解いていく相手には、プロデューサーのリック・ルービンが抜擢されている。

 リック・ルービンといえば、1980年代に<Def Jam Recordings(デフ・ジャム・レコーディングス)>を設立し、Beastie BoysやRun-D.M.C.らを世に知らしめた人物として名を馳せている。その後、<Def American(デフ・アメリカン)>(後の<アメリカン・レコーディングス(American Recordings)>)を立ち上げ、ジョニー・キャッシュのアルバム『アメリカン・レコーディングス』(1994年)をプロデュースしたほか、ミック・ジャガーやAC/DC、Metallicaなどの作品も手掛けるなど、ポップミュージックシーンの最重要人物の1人と言っても過言ではないだろう。

 本作『マッカートニー 3,2,1』は、そんな2人がコンソールの前に並んで座り、時には屋根裏部屋のような空間でアコギを抱えて膝を突き合わせながら、音楽談義に花を咲かせるというもの。派手な演出は一切なく、The BeatlesやWingsの楽曲を流すのも最小限にとどめ、ただひたすら2人のべテランが話し続けるだけの作りなのだが、これがもうびっくりするくらい面白いのだ。

 本作は、6つのエピソードに分かれたおよそ3時間の作品である。例えば『These Things Bring You Together(僕たちをひとつにした出来事)』と題されたエピソード1では、ポールがキャリア初期のエピソードを披露。ジョンやジョージ・ハリスンとの関係性についても触れている。続いてエピソード2『The Notes that Like Each Other(それぞれお互いを好む音符たち)』では、ポールがどのようなプロセスで名曲を生み出しているのか、そのひらめきの源泉をリック・ルービンが丁寧に掘り起こしていく。

 The Beatles時代にマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーと出会い、超越瞑想(TM)によってどう意識が拡大していったかについて語るエピソード3『The People We Loved Were Loving Us!(僕たちが好きになる人々は、僕たちのことを好きになってくれる!)』、実験的なスタジオワークが、楽曲にどのような影響を及ぼしたかを紹介したエピソード4『Like Professors in a Laboratory(研究所の教授のように)』といった具合に、それぞれのエピソードには大まかなテーマが定められている。だが、あくまでもそれは“目安”であり、2人の会話がどんどん転がっていくのがとにかく楽しい。

 いくつか印象に残ったシーンを見ていこう。エピソード1では、The Beatles時代の楽曲「While My Guitar Gently Weeps」(作曲はジョージ)を聴きながら、リックが目の前にあるコンソールのフェーダー(ツマミ)をあれこれ動かし、アレンジの革新性について興奮気味に語り始める。リック曰く、この曲はジョージの歌と彼のアコギだけで聴くと静謐で美しい作品なのに、ドラムとベースのみフェーダーを上げるとまるでハードロックのようであると。つまり1曲の中に「全く別の楽曲」が存在しているというのだ。そんなリックの指摘にポールも驚き、「そう。僕らは2つの“ジャンル”ではなく“感情(feel)”をミックスしていたのかもね」と、これまでとはまた別の角度から自分たちの創造性を見直していくのである(そしてこの“視点”はエピソード3で「Dear Prudence」のアレンジについて分析していくときにも活かされる)。

 またエピソード2では、リックが「Waterfalls」という楽曲の持つ「今日的な魅力」について力説する。この曲は1980年にポールがソロ名義でリリースしたアルバム『McCartney II』収録曲で、コアなファンの間では非常に愛されているが、世間的にはあまり知られていない隠れた名曲である。それに対しポールが、「少し残念だったのは、(この曲は)弦楽がシンセサイザーの貧弱な音だったこと」とこぼし、リックがすかさず「そこが現代的に聴こえるのかも」と返すと、「そうかもしれない。でもとにかく、作者の僕は後悔したっていいんだよ。誰かに『こうすべきだった』と言うと、すぐ否定されるんだけどさ」と、茶目っ気たっぷりにぼやくところも本当に微笑ましい。

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