2021年『紅白歌合戦』は歴史的な転換点になるか コロナ禍以降推し進める“未来志向”の行方

2021年『紅白歌合戦』は歴史的な転換点になるか

 『第72回NHK紅白歌合戦』(NHK総合/以下、「紅白」と表記)が、2021年の大晦日に放送された。NHKホールの改修に伴う東京国際フォーラムでの開催、さらに2年ぶりの有観客開催ということで前年とは雰囲気も違う「紅白」だった。

 今回の出場歌手の顔ぶれを見てまず思ったのは、俳優としても活躍する歌手が例年になく多い、ということだ。

 上白石萌音、そして北村匠海がボーカル兼リーダーを務めるDISH//の初出場組、さらに2014年以来、7年ぶりに出場の薬師丸ひろ子。またすでに「紅白」の顔的存在である星野源、そして白組のトリを務めた福山雅治も、そこに含めてよいだろう。2019年には菅田将暉が出場したように、以前から俳優が歌手として出場することがなかったわけではないが、特に今回は数の面でも目立っていた印象だ。

 そこには、前年の成功も影響していたように思える。2020年は、コロナ禍によって無観客になるという異例の状況下での「紅白」だった。しかしその分、観客席をステージに使用したり、NHKのスタジオから放送したりするなど、メインステージ以外の場所も駆使してパフォーマンスが繰り広げられた。それぞれの歌手と楽曲を引き立てる空間をつくる工夫がさまざまに凝らされ、その結果、随所で歌との相乗効果が生まれていた。

 実際、こうした一つひとつの歌をじっくり聴かせる演出は功を奏し、2020年の後半の世帯視聴率は40.3%(ビデオリサーチ調べ。関東地区)と、40%割れだったその前年(2019年)から回復した。そして今回も、メインステージだけでなく、同じ東京国際フォーラムにあるガラス棟のスペースやNHKのスタジオを使用しながら、多彩な演出が楽しめた。

 俳優としても活躍する歌手が持つ高い表現力は、こうした演出にフィットしやすいものだろう。たとえば、NHKのスタジオから松任谷正隆のピアノと重厚なオーケストラをバックに歌われた薬師丸ひろ子の「Woman “Wの悲劇”より」では、独特の透明感あふれる歌声と流れ星の降る巨大な星空の映像とが相まって、美しく幻想的な空間が現出していた。

 確かに、東京オリンピックの開会式などの際にSNSから待望論が出た松平健の「マツケンサンバⅡ」のように、お祭り気分が華やかに盛り上がる場面もあった。このあたりは、かつての「紅白」らしさがよみがえった感もあった。しかし、松平は特別企画枠の出演で、厳密に言えば、「紅白」の出場枠ではない。6年ぶりの細川たかしも同様である。その意味では、番組側もきっちり線引きしているように見える。

 一方、「紅白」出場枠の歌手を見ると、2回目から4回目というまだ比較的出場回数が少ない歌手が17組と、全体の約4割を占める。初出場は11組なので、併せると6割を超える。今回は連続50回出場を誇った五木ひろしが出ないということもあり、数年前と比べると出場歌手の顔ぶれもだいぶ様変わりした。

 その背景に、インターネット発の人気アーティストの台頭があるのはいうまでもない。ストリーミングやMVの再生回数が新たなヒット曲の基準になった。また生配信でのライブも、すっかり定着した。昨年から連続出場のNiziUやYOASOBI、初出場組の平井大、藤井風、まふまふなどは、その代表格だ。今回の「紅白」でも、岡山の実家から“中継”としながら、2曲目に会場にサプライズ登場し、最後にMISIAとコラボまでした藤井風の存在感は際立っていた。また、空間の奥行きを大胆に活用したドラマチックな演出のなか、オーケストラや多くのダンサーとともに披露されたYOASOBIの「群青」は、今回の白眉のひとつだった。

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